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 それは、この場で一番触れてはいけないことだ。

 絶対の禁句。彼は自ら地獄の門を開けてしまったのだった。


 しまった、カインも数瞬遅れてそのように顔を歪める。


 あまりにも話題が見つからなくて、咄嗟に口に出てしまったのだろう。


「いや、ごめん! 今のは失言だったよ。忘れて欲しい」


 即座に平謝りするカイン。黙って頬を差し出せと言われたら、素直に引っ叩かれようとする勢いだ。


「い、いえいえいえいえいえ、別にですね、き、気にしてませんし……」


 動揺し、声が震えるイルザ。

 彼女は動揺を隠すため、彼に質問する。


「逆に聞きますけど、カインさんは、あの方のどこをお好きになられたのでしょうか?」

「!?」


 意図せぬ傷の抉り合いとなってしまった。


 カインは、胸を押さえて苦しそうに何度も深呼吸を繰り返す。


「あっ、その……」

「いや、いいんだ。もう終わったことだからね。過去は振り返らない主義なんだ……」


 イルザの父と、カインの立ち会い人として顔を出した者は天を仰いだ。

 顔を見せなどせずに、さっさと式を挙げてしまえば良かったと。


「そ、その、紅茶美味しいですね」

「そ、そうだね、産地はどこだろう?」


 両者、気を落ち着けるためにカップに口をつけるが、緊張と焦りで味など碌に分かるはずもなかった。


「では、そろそろお開きとしようか」


 そこに、イルザの父が助け舟を出す。


「また後ほど、お話しましょう。いいですね?」

「え、ええ。彼らも夫婦になれば、話す機会などいくらでもありましょうから」


 カインの立ち会い人も、椅子から頷いて立ち上がった。


 二人の結婚は、すでに決定事項であった。

 何せ、どちらも、問題児としてそれなりに名を知られていたのだ。何事よりも恋心が最優先の恋愛馬鹿と。


 今までお互いを認知していなかったのは恋に現を抜かしていた当人たちだけである。


 両家は危機感を抱いていた。

 この機会を逃せば、まともな縁談のなどまとまるはずがない。


 これが、唯一無二の最後の機会なのだ。

 是が非でも、二人には結婚してもらわなければならないのだと。

 もう、後がない。

 そのことを二人も薄々理解していた。

 ゆえに文句は言わない。今まで散々、自分の家に迷惑をかけていたのだから。


 イルザとカインは、更生するつもりであった。


 もう、誰にも迷惑をかけるつもりはない。二人は、視線を交わして、小さく頷く。


「い、いやあ、素晴らしい縁談だなあ……俺は、すごく満足だよ。え、えっと、こんなに良い人が奥さんになるんだから男冥利に尽きるというものだなあ」

「そ、そうですか、私もあなたのような方と夫婦になれると思うと感激の至りです。そ、その……や、やったあ!」


 両者、あからさまに無理をしていた。


 それを見て、立ち会い人の心は不安で一杯になる。


「……イルザ、大丈夫か?」

「カイン君、あまり無理は……」


 両者は、必死に弁明する。


「いえ、お父様、私は大丈夫ですよ! 今、私は幸せですから! 何も心配はいりませんから! ですよね、カインさん?」

「そうだね、イルザさん。俺たち、かなり気が合うみたいだから何の心配もいらないし、無理なんて全然してない。だから叔父さん、ありがとう! イルザさんと会わせてくれて!」


 そして、二人は笑うのだった。


「あははは……」

「ふふふふ……」


 しかし、その顔は盛大に引き攣っていた。


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