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この騒動が起きたそもそもの原因は、お互いの浮気であった。
式の当日に、ふたり宛にそれぞれ贈り物が届いたのだが、その中に手紙が混ざっていたのだ。
『たとえ君が結婚しても、君への愛は永遠に変わらないよ。また今度会おうね』
『結婚おめでとう。でも、これまでのあなたとの関係はずっと続けたいと思ってるわ。愛してる』
どちらも、こっそりと花束の中や青果の籠の底に隠すように紛れていて、明らかに誰かに見られたらうしろめたいもの。
そして、その不意に見てしまった誰かが、自分の結婚相手だった訳である。
間接的な原因としては、スタッフが彼らへ届ける際、誤って贈り物をそれぞれ反対の相手に渡してしまったことなのだが、それを責めるのは酷と言うものだ。
各々、手紙を見た反応は――
「オーレリアあああ! ねえねえねえねえ、この人誰えええ!?」
「アッシュううう! ちょっと、これ意味分かんないだけどおおお!」
ふたりして悲鳴を上げる。
そこから、言い訳と暴言の嵐である。
挙句、手が出て喧嘩に発展。
すぐに騒ぎを聞きつけたスタッフたちによって、強引に事を収めるに至る。しかし、事態の収拾にてこずってしまい本番直前となってしまった。
身なりを整える時間がない。
新郎新婦の入場時間を遅らせようとスタッフが動いたが、その隙を狙われる。
「待ってください! 本当に待って! あっ、ちょっと――」
残りのスタッフたちが必死に止めても、ふたりは頭に血が上って聞く耳を持たず、「このままでいい」と告げてそのまま入場してしまった。
こうして再び、惨劇は公の場で繰り返されるのだった。
♢
全員、帰路につく。
当然だが、式後のパーティーは中止になった。
一度挨拶して帰ろうにも、新郎新婦に会うことさえかなわない。
帰り際、四人は再度合流する。
「何と言うか……凄かったね……」
「ああ、凄かった」
「そうですね……」
「ええ……」
実際に目の当たりにして、皆それ以上は何も言えない。
「前の俺たちも、客観的に見たらあんな感じだったんだろうなあ……」
四人は遠い目をする。
本気で頭ではなく恋心によって物を考えていたのではないかと思われるほどに、四人の過去は酷かった。
自分たちのせいで、迷惑を被った人たちに、謝罪の気持ちで一杯になる。
「こう言っていいのか分からないが……僕たち、負け犬で良かったんだろうなあ……」
ウィルは、しみじみと言うのだった。
アッシュとオーレリア。 未だに彼らは、愛に生き愛によって死ぬつもりでいる、いわば『愛の戦士』なのだ。
対して、四人は何とか現実を見て生きている。頭の中で咲き誇っていたお花畑は、すでに根こそぎ焼き払い済み。
その差は、あまりにも大きい。四人はそう思えるのだった。
「そうだね……彼らに感謝した方がいいのかも」
もしも負け犬にならずに、どちらかが選ばれていたら、アッシュとオーレリアのふたりのようになっていた可能性も否定出来ない。
そう考えると、到底他人事として笑えるようなものではなかった。
――色々あったが、今が割と幸せなのだと。彼らは、そう強く実感するのだった。