表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

10

 ゆっくりと会場への扉が開け放たれた。

 イルザとカインは、前にいる参列者たちの後へ続くことになる。


「行こうか」

「はい」


 ふたりは、背筋を伸ばして堂々と歩く。

 周囲に、今の自分たちの姿を見せつけるために、自信を持って。


 彼らが指定された席の場所は、思ったより前の方であった。それは、運が悪いことにかなり目立つ位置だ。


 振り返れば、後ろには、たくさんの参列者が席についている。

 言うなれば、その人たちが、式が終わるまで常に自分たちの姿を見ているということでもある。


 それを想像してイルザは背筋が凍る思いだった。


 何とか冷静さを保ちながら席につけば、すぐにひそひそと潜めた声が聞こえてくる。


 ――「え、もしかして」、「あの……まさか」、「嘘!?」――


 それを聞いて、イルザは身震いする。

 背後から、しきりに浴びせられる幾つもの声が話題にしているのは、やはり自分たちのことについてなのだろう。

 待合室で、自分たちの存在に気付かなかった者たちが、ここへ来て驚きの声を上げているのだ。


 嫌な思い出がよみがえる。思い出したくなくとも、思い出してしまい、手先の震えが止まらない。


 ここでは、挨拶回りの時のように誤魔化す事も出来ない。さすがに式が本格的に始まってしまえば、声も収まるだろうが、それまではこの精神的苦痛に耐え続けなければならないのだった。


 辛い。

 これは、あまりにも地獄だ。


 思わず、イルザが絶望しかけたその時――


 そっと。

 突然、温かな何かが優しくイルザの手に触れた。


「えっ……?」


 驚いて見てみれば、自分の手の上には、カインの手が置かれている。


「大丈夫、俺がついてるよ」


 だから何とも無いさ、と小さく微笑む。


 気丈に振る舞うカイン。

 だが、その顔は見るからに青ざめていた。イルザ同様に彼の手も震えている。


 彼もイルザと同じ心境でいる。


 けれども、彼は折れる事なく頑張っているのだ。

 それならば、イルザは思う。


 ――負けていられない。


 イルザは優しく温かい彼の手を、しっかりと握り返した。


 それを驚いた表情で見つめるカイン。


 イルザも小さく微笑み、力強い声音で言うのだった。


「はい、頑張りましょう。二人で」


 気がつけば、どちらの手の震えもすでに収まっていた。


 もう、声も気にならない。

 自然と何も怖いとは思わなくなったのだ。

 おそらく自分の心がぽかぽかと温かいからだろう。そうに違いない。


 だから、その温かさを感じている今なら、何だって出来てしまうような気がする。


 イルザとカイン。ふたりは、夫婦として力を合わせる。


 そして、まもなくして新郎新婦が現れ――式が始まるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ