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第5話

「お前がどういうつもりで言ったのか知らねぇが、この本に向ってお前がそう願い、俺がお前の前に現れた時点でお前はこの世界に残る事が出来なくなる」

「そ、そんな……」

「しょうがねぇだろ。お前は元々ここの世界の人間じゃねぇんだから」

「ぇ、ぇええっ!う、うそ……」


 し、知らなかった。

 私ってここの世界の人間じゃないの?

 じゃあ、何?私は何者?あ、て言う事は兄貴は……。


「その通り。お前の兄貴は本当のお前の兄貴じゃねぇ。一滴の血も繋がってねぇ赤の他人だ」

「兄貴が、他人?」


 突然の出来事に驚きっぱなしの私だったが、この事実が一番衝撃的で私の頭をノックアウトした。


 だって、自分の兄貴だと当たり前に思ってて、好きで大好きで、でも諦め切れなくて……その気持ちを心の中の一番奥に押し込めて今まで生きてきたのに、今更赤の他人だなんて……。

 私、今まで何悩んでたの?血が繋がってなかったら、この気持ちをあの人に伝えられるのに。たとえ振られたとしても、今まで大切に育ててきたこの想いをどうしても伝えたい。



「そりゃ~無理な話だな」

「え?」



何で?と私が聞く前に、私の身体がフワリと浮いた。



「ぎゃ、ぎゃーーっ!!な、なな何で浮いてんのよーー!」



 私がジタバタともがいている間に、そのフンワリ浮いた状態で私の身体は勝手に男の方へ近づいていき、パフッと彼の両腕の中へ納まってしまった。


 もしや、これは俗に言う「お姫様抱っこ」と言う奴なのではないでしょうか?


「言っただろ?お前はここの人間じゃねぇって。今からお前が生まれた世界へ帰るんだ」

「な、何で…私、イヤ…」

「お前に拒否権はない。お前は俺のモンだからな」

「はぁ?何で私がアンタのモンなのよ!」

「まぁ詳しい事はあっちに着いたら教えてやるよ。なぁに、すぐにあの男の事は忘れるさ。お前は絶対俺に惚れるから」

「はぃい?何ふざけた事ぬかしてんのよ、アンタは!」

「こんないい男が傍にいたら惚れずにはいられないだろ?俺はお前をこれ以上はないってぐらい幸せにしてやる。だから安心して俺の傍にいろ」

「だから、何でそんな話になってんのよ!」

「お前が生まれた時から決まってんだよ」

「え?」

「15年待ったんだ…これ以上は待てねぇ、行くぞ」

「何で15年なの?て、ぁ、え?な、何っ?!」


 私を両手で軽々と抱いたままこの男が、右手を本の上に翳すと、そこから先ほどと同じくらいのまばゆい光がばーっとあふれ出してきた。

 私がそのあまりの眩しさに目を閉じて思わず顔をこの男の逞しい胸に押し付けると、フッと彼が笑ったような気配を感じて私は目を少しだけ開いて男を見上げた。


「そうやってしっかり掴まってろよ」


 男はやはり目を細めて微笑みながら楽しそうに私を見つめていた。


「ぇ、え?」

「お前は俺のモンだ。もう…絶対離しはしない」

「そんな…て、う、うそーーーーーっ!?」


 私の身体をギュッと包み込むように抱きしめて男は本の中へ足を踏み入れ、そのまま光を発しているその本の中へと沈み込んでいった。


 や、やだ…私、まだ兄貴に…兄貴に自分の気持ち伝えてない。



 ――大好きって、言わなきゃならないのに!



 本の中に沈み込む寸前、私の目の端に映った本棚の写真立て。

 そこに飾られている写真の中の笑顔が…私が見た最後の兄貴の姿だった。





 超高速のジェットコースターに乗っている時の浮遊感と、顔を横切っていく切り裂くような風と凄まじい音。

 この悪魔のような色男に全身をマントで包まれた私は、それらを身体全体で感じながらこの空間を飛び続けていた。

 不本意ながらこの悪魔にガッシリと掴まり、目が潰れるぐらいギュッと力を込めて目を瞑りながら、この長いようで短い時間を耐え抜いた。


 うぎゃ~っ、い、息が止まるっ、こ、怖いーーーっ!!


 心の中で悲鳴を上げている私をその逞しい腕でしっかりと抱きこんで、この男は無言でこの空間を飛び続け……―――




―――そして。




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