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スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第1章 始まりの夜
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第7話 傷が残っては戦ができぬ

(これは、速い!)


 スキルを見慣れている妖精ですら驚くほど、彼のスピードは上昇していた。

 低い体勢で一気に標的へと接近し、地を這うように剣を走らせる。


 足元からの斬り上げ。咄嗟に身を捩り、問題なく避けた気のサラリーマンだったが、ネクタイが半ば辺りで千切れた。


「!」

「おや、どうしたぁ? 服装が乱れちゃ仕事に支障が出る、ぜッ!」


 間髪入れず横薙ぎを繰り出す。今度もシャツに綻びを入れただけだが、徐々に追い詰められていることを知り、サラリーマンに焦りが出た。


「くそっ。どけぇ!」


 虫を蹴散らすかのように振り上げられた足を、竜斗は瞬時に見極めて左手で掌打、受け流す。

 その間に、右手の剣は数度斬り付ける。


「ぐっ!?」


 さらにブロードソードは止まらず、大振りではあるものの、相手に痛みを気にする暇を与えない猛攻が続く。サラリーマンは防戦一方になっていた。


 敵の限界を目ざとく感じ取ると、竜斗は微笑を浮かべる。

 わざと攻撃の手を緩め、剣を腰溜めにして構えた。


 サラリーマンはすかさず回避態勢を取る。竜斗は前方へ跳ぶが、身を翻す相手に構わず真横をすり抜けた。

 彼の狙いは、その直線上にある電柱だった。


 電柱を蹴り、綺麗なUターンで瞬く間に背後へ。


「!?」


 後はただ、その剣を振るうのみ。


「はぁあぁあああーッ!」


 逆袈裟斬り。

 単純に、斜めに斬り上げる剣技。だからこそ、使用者の力量がそのまま伝わる。


「……ッ!」


 声にならない叫びが出る。歪みきった表情が、彼の激痛を表していた。


 斬り上げた姿勢のまま、竜斗はよろめく敵の姿を油断なく凝視している。

 男性は肩越しに恨みがましく睨み返すが、徐々に力が抜け、遂には倒れ伏した。


「――フッ。つまらん」


 ゆっくりとブロードソードが下ろされる。

 そして竜斗は静かに、



(いよっしゃぁあああああこぉれは決まったぁああああああああああ!)



 歓喜した。


「すごい、すごいじゃん! 戦闘センスは抜群でしょ! 中二病ってのも案外バカにできないね!」

「まぁな。これが、俺の真の実力ってところだ」


 表面上は微笑を湛えるだけだが、内心は狂喜乱舞のお祭り騒ぎとなる。

 妄想が実現可能になり、それが早速叶ったのだ。ハイテンションになるのも無理はない。


 この期に及んで隠す必要などないが、彼は雰囲気を重視したい少年だった。



 しかし、一頻り喜んで我に返ると、改めて倒れているサラリーマンの背中が視界に映る。


「……はっ!? よく考えたら、俺かなり容赦なくやっちゃったんじゃね!?」


 今更ながら焦る竜斗。


 いくら人智を超越した能力者とはいえ、相手は世間的に言えば一般人。

 つまりは同じ人間を、この手に握る剣で一太刀浴びせたのだ。罪悪感が襲ってくるのは必至であった。


 この間にも、サラリーマンのスーツには血が滲んでいく。


「やべぇ思いっきり斬っちまったよ! 傷深いし、この人死ぬんじゃ……!?」

「落ち着きなよ。さっきまでノリノリだったくせに、パニックにならないの」

「いや、だって!」


 所詮は普通の人間だ。常識や良心までは、あの精神の病に侵されていない。

 脳裏にそんな考えが過ると、妖精はどこかホッとして竜斗の頭に座った。


「世界が混乱から免れるために依頼した仕事なのに、人死なんて混乱の塊みたいなこと起こさないよ。当然、助ける方法があるから」

「マジ!?」

「私達の持ってたスキルは、全てが失われたわけじゃないんだ。その一部の中には、回復魔法っていうのがあるの」

「なるほど。戦闘で傷付いた俺らを、妖精が治療してくれるんだな!」


 アフターケアも万全である。竜斗は胸を撫で下ろした。


「ならすぐ回復してくれよ。あのままじゃ失血死しちまう」

「あ、ちょっと待って。もうすぐ来るはずだから」

「来る?」


 きょろきょろと辺りを見渡す妖精。

 竜斗は一秒すら待てないとでも言いたげにそわそわする。



 が、そんな時間は一分と経たずに終わりを迎える。


「あ、来た」


 竜斗達の、ちょうど斜め上。

 灰色の虚空に、突如亀裂が走る。


「ファッ!?」


 亀裂は音を立てて大きくなっていき、宙に穴が生まれた。向こう側には、見知らぬ世界の光景が捻じ曲がった状態で広がっているのが見える。


「なんだありゃ……」

「時空の裂け目だよ。『次元転移(ディメンションシフト)』とかで移動する時にできるんだ」


 すると穴から、2対の羽を持つ小人が出てきた。


 無論、妖精である。


「まさか、そちらの初戦闘がこんなにも早いとは……驚きましたよ」

「あははっ、だよね~」


 親しげに会話をする彼の、右目にかけられた片眼鏡(モノクル)が光る。


「あいつが、回復魔法を保有してるやつか?」

「うん。私と一緒に与孤島町の回収活動を行ってる、仲間だよ」


 青い目、青いストレートヘアの青年が、美しい所作で竜斗の元へ舞い降りる。

 次いで、一礼。


「初めまして。貴方が、シラキ・リュウトさんですね?」

「あ、ああ」

「私もこの娘と同じく、与孤島町のスキル回収活動を行っております妖精です。以後お見知りおきを」

「はぁ、どうもご丁寧に」


 燕尾服に身を包んだ礼儀正しい妖精が相手で、竜斗もつい腰が低くなる。彼も日本人であった。


「さて。もっと色々話したいところですが、私にはまず優先すべき仕事がありますね」


 青年妖精は微笑みから真面目な表情に変わると、後ろにいるサラリーマンへ近付く。


「いけそう?」

「……はい。このぐらいならすぐに完治します」

「ほんとか!?」


 背部の斬痕を注意深く観察した青年妖精は、そこに手をかざす。


「『中回復(ヒール)』」


 たちまち、傷に温かな光が灯る。

 彼の魔力が足りない細胞を埋め、再生を促進していく。


 僅か数分程度だった。サラリーマンの出血は止まり、傷口もほぼ完全に閉じられていた。


「完了です」

「おおぉ……! 流石ファンタジー世界!」


 まだ気は失っているものの、顔色が良く安定した呼吸になったので、ひとまずは穏やかな空気に包まれた。


「じゃあ、ちゃっちゃと仕事を終わらせちゃおう。スキルを回収するよ」


 続いて少女の妖精がサラリーマンの頭部に両手をつき、ぐっと力を込めるような仕種を見せる。

 一瞬だけ、光が漏れ出た。


「はいおしまい」

「え!? もう?」


 まさにあっという間で拍子抜けする竜斗。スキルの回収自体は、驚くほど簡単に終わるものであった。


「もっと派手でも良かったのに」

「何故そんなことを期待しているのですか……?」


 その落胆は、青年の妖精に早くも妙な印象を与えてしまっていた。

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