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スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第1章 始まりの夜
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第6話 暴走は止まらない

「少年達が最も興奮し、憧れる状況……堂々の第1位が、戦闘! 圧倒的な力で迫り来る敵を捻じ伏せ、無双する姿を誰もが夢見たはずだ!」


 竜斗は力説する。

 熱が入るあまり、げんなりした様子で見つめる妖精のことなど眼中に入らない。


「俺もそのうちの一人で、高度な殺陣を幾度となく脳内で繰り返した!」


 「行動に移した時もあった」という一言は、理性が口にするのを躊躇った。


「そして今回現実に起こった真正面からの右ストレートにも、実に21通りの対処法を今日まで想像してきていた! 何度もだ! 故に、攻撃に対して身体が反射的に動いてしまったというわけなのだ!」


 一息つく。

 全力で走っては大声で演説をし、よく酸素を使う日だなと思った竜斗であった。


 そして肝心の聞き手はというと、内容のほとんどを無視して物思いに耽っていた。


(実際は妄想の究極形だったってことでちょっと気分が冷めたとはいえ、あの流れるような動き……何か武術を修めてる人のように洗練されてた。反応速度も尋常じゃない……!)


 だが竜斗に、いつまでも得意気な顔を浮かべている暇はなかった。現にサラリーマンの男性はダメージから回復し、臨戦態勢に入っている。


「妖精! スキルの使い方を教えてくれっ!」

「あっ、うん」


 竜斗自身分かっており、妖精もすぐ気持ちを切り替える。


「簡単だよ。スキル名と召喚したい武器の名前を唱えて、その姿を細部まで想像するだけ! あと注意なんだけど――」

「承知!」

「えっ!?」


 妖精の言葉を遮り、竜斗は片手で何かを握り締めるポーズを取った。


「いくぜ……俺のスキル!」

「待っ、注意事項が――」


 竜斗の頭の中はもう、とある武器のイメージで埋め尽くされていた。



「『武器召喚(サモンウェポン)』、『ブロードソード』ッ!」



 手の中から膨大な光が溢れ出す。


「「!」」


 あまりの眩さに目を細める妖精とサラリーマン。

 だが一番近い竜斗の双眸は、不思議と見開かれていた。


「す、げぇ……!」


 光の奔流は瞬く間に粒へと形を変え、次第に剣を象っていく。


 そして竜斗が感動を味わい始めた時、それは一際強く煌めいた。

 手の内に現れる、確かな感触。


「……成功、したみたいだね」


 彼の右手には、シンプルな形状の長剣――ブロードソードが存在していた。


 銀色に輝く幅広の刀身。左右に伸びる鋭利な鍔。グリップ性の高い柄。そして中央に埋め込まれた、赤く輝く宝石。


 竜斗が初めて召喚した武器であるその両刃剣は、事細かにイメージされた珠玉の一振りだった。


「これが、『武器召喚(サモンウェポン)』ッ……!」

「あーあ、勝手に発動しちゃって。注意事項に抵触しなかったから良かったものを」


 湧き上がる喜びに打ち震えていると、ほっとした妖精が少量の呆れを交えた溜め息を溢す。


「そういや何か聞こえたな。何言おうとしてたんだ?」

「召喚にあたって、製作するとなると実現が困難なもの……銃火器や魔法武器、伝説上の武器は大量の魔力を消耗する。疲れる程度で済めば良いけど、初心者の場合は召喚に失敗する上死にます」

「死ぬの!?」


 軽く告げられた現実は残酷だった。


「スキルに全身の魔力を吸われて、終いには命までもってかれるのよ」

「あっぶねぇ……! ブロードソード選んでて良かったぁ……!」


 死の危険を回避したと安堵した竜斗だったが、それはまだ眼前にいた。


「剣を出したからなんだァ……?」


 男性は静かに警戒していたが、破壊衝動を抑えきれずに目を血走らせている。

 他の何よりも戦いを優先する、『戦闘中毒(バトルジャンク)』の特徴が顕著に現れていたのだった。


「誰も私には勝てない……。私が全てを打ち壊すのだァ!」

「刃物を恐れない無手って現実にいるのかよ……!」


 実際はそういるはずもない。異常になった男性が、まず動き出した。


「うらぁぁあああああっ!」


 雄叫びを上げ、大きく身体を反らせてからパンチを放つ。

 先程のものよりも、数段速かった。


「うわっ、と!」


 だが竜斗はそれを見切る。

 こちらの対応スピードもまた素早くなり、危なげなく避けた。


 そして後方へステップを踏んだ時、彼は初めてその感覚に気付く。


「身体が、軽い!」


 全身から力が漲り、弾むように動ける。鋼の剣を軽々と扱える。

 腕、足、さらには腹の底でも、あらゆる筋肉が滾っていた。


「それは主に、身体能力向上効果と呼ばれるものだよ。戦闘系スキルホルダーはみんなが得られる効果なんだ」

「……ほぉ~」


 サラリーマンの追い打ちを躱し続ける竜斗は、それを聞いて思い付いた。実に楽しそうな笑顔である。


「自動バフか。そいつぁなんとも、便利だな!」


 相手の左フックを屈んで避けると、その反動を生かしてジャンプ。


「なっ……!?」

「おぉ~っ! すげぇ跳ぶなぁ!」


 思惑通り、竜斗の身体は電線(・・)を越えた。


(さっすがファンタジーの塊、スキル!)


 着地時の痛みもほとんど感じなく、まさしく戦うための能力だと感心したのだった。


「リュウトっ、遊んでる余裕あるのー!?」

「その通りだァ!」


 2人に指摘されてようやく我に返ると、サラリーマンの鋭い蹴りが迫ってきていた。


 慌てながらも剣の腹で受け止める。

 鈍い衝撃に耐え、気合いと共に押し返した。


「もう! 普通、初戦闘はもっと慎重にいくものだよ? 恐怖とかないの!?」


 妖精はハラハラと不安を募らせる。

 しかし、当人の口角は上がりっぱなしだ。


「恐怖……? そんなもん、山の上に置いてきた!」


 竜斗の高揚感は上限を知らない。腰を落としてブロードソードに力を込め、


「この剣を手にして恐れるものなど、何もない! いくぞッ!」


 勢い良く駆け出した。

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