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スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第3章 敵か味方か
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第39話 戦うワケ

 北高の正門とは真逆の、校舎裏にある空き地。そこに、1人の少年が立っていた。中学生くらいの風貌で、両手を見つめて固まっている。


「な、なんだ今の……。すげぇ、俺にはこんな力が!?」


 自分の身に起こった不可思議な現象に歓喜し、興奮する少年。

 もっとこの力を使いたい。物を壊したい。暴れたい。そんな欲求が次々に生まれ、少年の感情はどんどん昂っていく。


 そして標的となる人間を探そうと歩き出した時、


「はぁ、はぁ、あいつか!?」

「うん。間違いないね!」


 息を荒げた竜斗とフェアルが、空き地に到着した。


 少年は空飛ぶ小人に驚くが、それもすぐに破壊衝動にかき消され、怪しい笑みを顔に貼り付けた。


「……へっ、探す手間が省けたぜ。俺のサンドバッグよぉ!」

「何か勘違いしてるみてぇだな。お前、自分の方が強いとでも?」


 息を整え、負けじと笑い返す竜斗。その手には、しっかりとブロードソードが握られている。


「……! お前も力を持ってんのかっ?」


 相手の持つ剣を認めると少年は目付きを鋭くさせ、身構えた。


「でもちょうどいい。俺の本気を出せるからな……!」

「はっ。使い方も知らん奴がよく言うよ」

「何だと!? 馬鹿にすんじゃねぇ!」


 少年は叫びながら片手を振り上げると、空中に無数のナイフが一瞬で出現した。


「うおっ!?」

「あれは、『短刀小刀(ナイフカーニバル)』! 大量のナイフを召喚して操れるスキルだよ!」

「『武器召喚(サモンウェポン)』の、短剣限定大量生産バージョンか……。いいぜ、かかってこい」

「フン。威勢が良いのも今のうちだぜ!」


 掲げていた手を竜斗に向けて降ろす。すると、数多のナイフが一斉に発射された。


 弾幕の対処は『氷魔術(アイスマジック)』の弾丸や氷塊で経験済み。だが、飛来してくる刃物のスピードは予想以上だった。


「っく!」


 軽やかなブロードソードの連撃で、なんとか全てのナイフを弾く。しかし彼の表情に余裕は見られない。


「まったく……なんでこうも弾幕の相手ばっかさせられるんでしょうねぇ!」

「知らないよ! ていうか、『次元転移(ディメンションシフト)』する前に戦闘始めないで!」

「いや、あっちが先に仕掛けてきたから……」

「リュウトが「いいぜ、かかってこい」なんて言うからでしょーっ!」


 悲痛な叫び声を上げるフェアルに構わず、2人のスキルホルダーは対峙している。どちらも、すぐに敵を斬りかかりにいきそうな状態である。



「……いえ、このままで良かったです」


 そんな睨み合いを終わらせたのは、遅れて空き地に現れたコルトだった。彼の後ろには理奈の姿もあり、新たに複数の短刀を召喚した少年に目を見開いている。


「それ、どういうこと?」

「リナが、戦闘に参加してみたいそうです」

「「!!」」


 コルトは静かに続ける。


「今のままでは現実味がないため、一度しっかりとスキルを使って、戦ってみたいと」

「進藤から……」


 危険を承知で自ら戦ってみようとしているのは、スキル回収に前向きな証拠だ。

 だが竜斗達には、協力してくれるかもしれない、という期待感よりも、何故ここまで積極的になれるのか、という疑問の方が大きかった。


 興味本位で首を突っ込める問題ではなく、そもそも理奈は好奇心で動くタイプではない。かといって無表情を貫く彼女の表情からは、その心理を推し量ることもできない。


「また新しいのが増えてくれたみたいだな」


 好戦的な笑みを浮かべる少年。

 まだスキルのこともよく分かっていないであろう同級生の女子が、スキルの波動にあてられた人間に狙われる。その事実に、竜斗も咄嗟に声が出る。


「進藤。その気持ちはこっちとしちゃ嬉しいけど、急に前線に出るっつーのは。危ねぇんだぞ?」

「それはあなたも同じでしょう」


 冷静に指摘した、というよりかは、少なからず動揺している中でも目の前の現実は受け入れられた、といった具合。

 竜斗も狼狽えているが、当然ながら理奈にとってはそれ以上に刺激的な状況である。


「いっ、いや、それはそうだけど、そうじゃないというか」


 ただやはり、大事な部分を掴めていないのは竜斗も同じだった。


 自分がこの場に立つのは、相応の理由がある。心身共に戦える状態だ。

 だが彼女はどうか。肉体的には細身で小柄な少女だし、精神的にも流されてこの場にいてしまっているのではないか。


 もちろんその性格や佇まいから、そこまでか弱い人間ではないと知っている。それでも、理奈の戦う理由が判然としないままでは、その考えも捨てきれない。

 何が正解なのか。竜斗は混乱していた。

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