第39話 戦うワケ
北高の正門とは真逆の、校舎裏にある空き地。そこに、1人の少年が立っていた。中学生くらいの風貌で、両手を見つめて固まっている。
「な、なんだ今の……。すげぇ、俺にはこんな力が!?」
自分の身に起こった不可思議な現象に歓喜し、興奮する少年。
もっとこの力を使いたい。物を壊したい。暴れたい。そんな欲求が次々に生まれ、少年の感情はどんどん昂っていく。
そして標的となる人間を探そうと歩き出した時、
「はぁ、はぁ、あいつか!?」
「うん。間違いないね!」
息を荒げた竜斗とフェアルが、空き地に到着した。
少年は空飛ぶ小人に驚くが、それもすぐに破壊衝動にかき消され、怪しい笑みを顔に貼り付けた。
「……へっ、探す手間が省けたぜ。俺のサンドバッグよぉ!」
「何か勘違いしてるみてぇだな。お前、自分の方が強いとでも?」
息を整え、負けじと笑い返す竜斗。その手には、しっかりとブロードソードが握られている。
「……! お前も力を持ってんのかっ?」
相手の持つ剣を認めると少年は目付きを鋭くさせ、身構えた。
「でもちょうどいい。俺の本気を出せるからな……!」
「はっ。使い方も知らん奴がよく言うよ」
「何だと!? 馬鹿にすんじゃねぇ!」
少年は叫びながら片手を振り上げると、空中に無数のナイフが一瞬で出現した。
「うおっ!?」
「あれは、『短刀小刀』! 大量のナイフを召喚して操れるスキルだよ!」
「『武器召喚』の、短剣限定大量生産バージョンか……。いいぜ、かかってこい」
「フン。威勢が良いのも今のうちだぜ!」
掲げていた手を竜斗に向けて降ろす。すると、数多のナイフが一斉に発射された。
弾幕の対処は『氷魔術』の弾丸や氷塊で経験済み。だが、飛来してくる刃物のスピードは予想以上だった。
「っく!」
軽やかなブロードソードの連撃で、なんとか全てのナイフを弾く。しかし彼の表情に余裕は見られない。
「まったく……なんでこうも弾幕の相手ばっかさせられるんでしょうねぇ!」
「知らないよ! ていうか、『次元転移』する前に戦闘始めないで!」
「いや、あっちが先に仕掛けてきたから……」
「リュウトが「いいぜ、かかってこい」なんて言うからでしょーっ!」
悲痛な叫び声を上げるフェアルに構わず、2人のスキルホルダーは対峙している。どちらも、すぐに敵を斬りかかりにいきそうな状態である。
「……いえ、このままで良かったです」
そんな睨み合いを終わらせたのは、遅れて空き地に現れたコルトだった。彼の後ろには理奈の姿もあり、新たに複数の短刀を召喚した少年に目を見開いている。
「それ、どういうこと?」
「リナが、戦闘に参加してみたいそうです」
「「!!」」
コルトは静かに続ける。
「今のままでは現実味がないため、一度しっかりとスキルを使って、戦ってみたいと」
「進藤から……」
危険を承知で自ら戦ってみようとしているのは、スキル回収に前向きな証拠だ。
だが竜斗達には、協力してくれるかもしれない、という期待感よりも、何故ここまで積極的になれるのか、という疑問の方が大きかった。
興味本位で首を突っ込める問題ではなく、そもそも理奈は好奇心で動くタイプではない。かといって無表情を貫く彼女の表情からは、その心理を推し量ることもできない。
「また新しいのが増えてくれたみたいだな」
好戦的な笑みを浮かべる少年。
まだスキルのこともよく分かっていないであろう同級生の女子が、スキルの波動にあてられた人間に狙われる。その事実に、竜斗も咄嗟に声が出る。
「進藤。その気持ちはこっちとしちゃ嬉しいけど、急に前線に出るっつーのは。危ねぇんだぞ?」
「それはあなたも同じでしょう」
冷静に指摘した、というよりかは、少なからず動揺している中でも目の前の現実は受け入れられた、といった具合。
竜斗も狼狽えているが、当然ながら理奈にとってはそれ以上に刺激的な状況である。
「いっ、いや、それはそうだけど、そうじゃないというか」
ただやはり、大事な部分を掴めていないのは竜斗も同じだった。
自分がこの場に立つのは、相応の理由がある。心身共に戦える状態だ。
だが彼女はどうか。肉体的には細身で小柄な少女だし、精神的にも流されてこの場にいてしまっているのではないか。
もちろんその性格や佇まいから、そこまでか弱い人間ではないと知っている。それでも、理奈の戦う理由が判然としないままでは、その考えも捨てきれない。
何が正解なのか。竜斗は混乱していた。




