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スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第2章 日常と非日常
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第34話 彼の思いは

「……この世界はつまらん」


 静寂が訪れてからしばらくして、俺は口を開いた。


「皆が凡百な選択に身を任せ、異端者を徹底して排除する。この俺が下らん一般人の風潮に敗北を喫したというのは、認めがたいが事実だ。そんなこの世に蔓延る常識を覆し、世界を混沌により無に帰すというのは、悪くない『革命』だ」


 空を見上げ、歩きながら語る。

 ありし日の自分が胸中に呼び戻ってくる。ひっそりと、だが確実に存在していた、紛れもない本音を溢していく。


「それって……」

「破壊と創造。俺の興奮を掻き立てるファクター達を、どうして拒絶しようか」


 含み笑いをすると、フェアルの眉間が寄せられ、双眸が僅かに潤んだ。


 当たり前だ。彼女との間には、完全に相反する望みの『壁』があるのだから――



「――っていうのが、俺の理想だったんだ」

「……え?」


 ふっと息を吐く。

 本気で演じたのはいつぶりだろう。「演じた」と表現している時点であの頃とは違うのかもしれないが、とにかく俺はそれ(・・)を解除した。


「中学の頃だったら今みたいに答えて、迷わず行動に移してただろうな。今でもカッコいい考え方だと思ってるし、あれが未だに俺の心の奥底にあることは否定しない。……けど」


 それは単なる理想、憧れであり、俺が実際に抱いた感情は別物だったのだ。

 抑えようとしていても、素知らぬ振りをしていても、人間、自分の本心には嘘がつけないものだ。


「俺が感じたのは、ゼクの……『駒』って扱いへの、ムカつきだった」

「ゼクへの、ムカつき?」

「ああ」


 全盛期の俺に聞かれたら笑われるな。お前はそんなに丸い男だったのかと。

 ああそうさ。俺は丸い。お前みたいな、周りを傷付ける刺々しい性格じゃなかったんだよ。


「あいつ、俺と戦ったスキルホルダーは、勘違いがあったとはいえ、文字通り決死の覚悟で戦った。あいつの気迫を間近で感じてた俺からすれば、あいつの命を懸けた戦いを、『駒』の一言で片付けるのは気に食わねぇ」


 これはあまり怒りとは言えないのかもしれない。だが、反王女派全体がそのような思想に染まっているのだとしたら、俺はそこでやっていける気がしない。


「戦闘はしたいけど、殺し合いがしたいわけじゃねぇんだ。どれだけ興奮したって、口では何を言ったって、誰かの命を見捨てるようなことは、できないもんなんだよ」


 微笑んだつもりだったが、今自分の顔がどんな風になっているのか分からなかった。


 フェアルは何も言わずにこちらを見つめてくる。

 まだ俺の言葉を信じきっていないのか……。仕方ない。不本意だが、もう一つの理由も挙げてみるか。


「あ、あとさ。数日しか経ってないけど、お前とは一緒に住んできただろ? 迷惑ばっかりかけられたが、別に悪い奴ってわけじゃねぇし……その、なんつーかな?」

「?」

「……見捨てるわけにゃいかねぇ……みてーな、情くらい、湧くってんだよ……」


 こっ恥ずかしくなり、思わず視線を逸らした。


「……!」


 驚き、急に両目を輝かせるフェアル。


「それにだなっ! 反王女派と関われば必然的にもっと強力なスキルを目の当たりにできるだろ!? 死闘もあくまで俺の趣味っつーわけで、スキル回収に至っては圧倒的多数のスキルに触れられるから俺にとって至上の喜びとなるのであって……!」


 あくまで自分のためだと強調しようとしたが、直後に、これは言い訳にしかならないだろうなと後悔した。


 フェアルは、ぱあぁっ、と花を咲かせたように笑う。


「じゃ、じゃあつまり、リュウトは私達のことが大事で~……?」

「はぁ!? そこまで言ってねーし! 調子に乗るんじゃねーし!」

「え? でもそういう意味じゃなぁい? えぇ?」


 弱味を握ったとでも言うように、今度はにまにまと意地悪い笑みで詰め寄ってくる。


 くそっ、これだから言いたくなかったんだよ……!


「意外と優しいんだねぇリュウトって~!」

「うっせ! やめろ褒めんな!」

「このこの~!」


 俺の頬をつついたり、頭に寝転がったりする。鬱陶しいっ……!


「いい加減にせんか!」

「あだっ」


 手で払いのけると、手の甲をちょうど全身に浴び、大分痛がった。


「ふふっ、あは、あははっ……!」


 それでも、フェアルは上機嫌だった。


「ありがとね、リュウト!」


 今まで見たことのない、綺麗で純粋な笑顔だった。

 そんな表情を見せられては、とても邪険にはできない。


「……おう」


 俺は曖昧な返事しか返せないのであった。



「ってやべっ。もう昼休み終わっちまうじゃねぇか!」


 急いで、持ってきたおにぎりの包装を破いて食らいつく。飲み物も買ってくれば良かったのだが、時既に遅し。


「……あ」

「んぐんぐ……ろうひた?」

「スキルが発動されたよ。回収に行かなきゃ」

「ふぐっ!?」


 一瞬焦ったが、こいつの落ち着きように、戦闘系ではないと判断する。


「……んっく。どんなスキルだ?」

「えっとねぇ、『電抵測定(オームメジャー)』っていうスキル! あらゆる物体の電気抵抗を測れる能力だよ」

「しょーもなっ!」


 びっくりするぐらいどうでも良かった。神様なんてまるで必要としないだろ!

 いや、妖精や人によっちゃ、使い所もあるのかも……?


「ちなみに場所は町外れ。多分田んぼのど真ん中に住んでる人じゃないかな?」

「農家の方かよっ! 全力で無関係だなオイ!」


 電気抵抗とは無縁のまま生涯を終えるぞ。いや大体の人がそうか。


「てなわけで、ゆっくりまったりと行ってきま~す!」

「一生放っておいても良いんじゃねぇか……?」


 今流行りのアニソンを歌いながら、フェアルは空へと飛び去っていった。あいついつの間に深夜アニメ観てるんだよ。


「……テンション高ぇなー」


 空中で器用にスキップなんか踏んでいる。余程、俺の返答が嬉しかったんだろう。


 こちらとしては最初から決まっていた選択で、特に考えるものではなかった。

 少し、ほんの少し、反王女派の革命運動に疼いてしまった部分も無きにしも非ずだが、最終的には王女派の味方だ。


 もう、中二病は卒業したのだから。


「……頑張るか」


 フェアルの期待も背負い、一層やる気が出た。

 やってやろうじゃねぇか、スキル回収!


「おわっ、予鈴だ!?」


 キーンコーンカーンコーン。

 俺のランチタイムは残り5分。その間に教室にも戻らなければならない。


 息つく暇はないってか。

 けど不思議と、そんな現状が嫌いではなかった。

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