表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第2章 日常と非日常
34/40

第33話 選択

「断、罪っ!」

「す、すびばせんでした……」


 他の休み時間含め、全力で俺から逃げ回っていた奏介を捕まえたこの昼休み。

 飯を食う時間すら惜しんでボコボコにし、反省させた。現在、仁王立ちする俺の前で土下座中だ。


「お前が垂れ流した根も葉もない噂は、お前が責任を持って全て嘘でしたと撤回しろ」

「いやでも竜斗よ、人の噂は七十五日と言ってだな……」

「い・ち・に・ち・だッ!」

「はいぃっ! きょ、今日中にできるよう頑張ります……」


 普段のこいつの奇行には宮野が対応してくれるが、今回は俺目当てだ。しかも宮野の慣れていない色恋沙汰だから、逆に奏介に丸め込まれそうで頼れない。

 うむ、たまには俺がお灸を据えてやらんとな。



「あ~、腹減った……」


 朝から無駄なカロリーを消費してしまっていた俺は、いつもより空腹が酷かった。

 昼休みも残り少ない。購買のおにぎりがまだ残っているのか心配しながら、階段への道のりを歩いていた時のことだった。


「あ、リュウト」

「!?」


 廊下の向こうから、家で留守番しているはずのフェアルがふよふよと飛んできたのだ。

 新たなスキルホルダーの出現か? と思ったが焦っている様子でもない。


「お、お前何してんだよこんなところでっ」


 周りに怪しまれないよう声を抑えて問いかけた。するとフェアルは、購買へ向かって歩き続ける俺の肩にすとんと腰かける。


「うふふ。ちょっとした潜入捜査をば!」

「はぁ?」

「私が家で大人しくパソコンしてるとでも思った? 残念! 人の交遊関係にも興味があるのでした!」


 ……何だか、とても嫌な予感が。


「……つ、つまり?」

「姿消して、ずっと傍でリュウトの痴態を見守ってましたっ!」

「何やってんだこいつは!!」


 そういえばそうだった。スキルホルダーにも見られない条件で姿を消せる妖精相手では、プライバシーの欠片もない。

 恐らくこれが初なんだろうけど、これじゃ気分的には常時監視されているようなものじゃないか!


 しかも、俺がからかわれるというこの珍しい日にである。タイミング悪すぎだろ。


「ったく、今日に限って……!」

「リュウトってあーゆー娘が好みなんだねぇ。通りで妹属性が効かないわけだぁ」

「誤解しかない!」

「誤解? あぁ! 冷たく無言で放置されるんじゃなくて、実際に痛め付けられるのが好きな方のドMなんだね!」

「……はぁ」


 対応するのも面倒だ。俺はこれ以上の弁解は諦めて、1階への階段を下りる。

 そしてそこから少し歩けば、玄関に程近い場所にある購買に着いた。


「ごめんって~。そんなに無視しないでよ~」

「……これください」

「まいど~」


 売れ残っていた昆布のおにぎりを買っている間も、フェアルは喋り続ける。

 こいつ……人に聞かれてないからって喧しいぞ。


 だが購買から離れたあたりで、ふとフェアルが口を閉じた。

 雰囲気も変わり何事かと思っていると、ぴょんと肩から降りた。


「リュウトのストーカーをしてたのはね、ただのついでなの」

「ついで?」

「うん。実は、校内に反王女派の波動がないか調べてたんだ」


 ……そうだったのか。


「……場所を移すか」



 俺は玄関から外へ出て、ぐるっと校舎を回った。

 体育館裏。人気がないことで有名――この時点で全然見られないというわけではない――なここなら、そう人もいないのでスキルの話ができる。


 体育館の非常口辺りで「あーん」をしていたカップルに軽く舌打ちを打つと、さらに奥の方へ行って壁にもたれかかった。

 そして、フェアルが口を開く。


「結論から言うと、この高校に反王女派のスキルホルダーはいなかったよ。現時点ではね」


 現時点では。まだ発動していないだけでこれから先判明する可能性もある、ということだろう。その点については承知済みだ。


「それは確かなんだな?」

「うん。校舎内を隈なく飛び回って、一人残らず近付いてみたから。あれだけの近距離でも分からないほど、反王女派の波動隠蔽は優れてない」

「そうか……」


 とりあえずは安心した。

 学校関係者にも敵が潜んでいたら、おちおち登校なんてしてられない。


「でもこれから大変になるなぁ」

「うっ……」

「今までは暴走した奴を止めるだけだったから、野性動物を相手にする感覚だったんだけど。あっちもまともに戦えるスキルホルダーを用意するわけだろ? さすがに心配だ」


 まだ戦闘自体慣れているわけでもない。頭の中では百戦錬磨でも、身体がその通りついてくるかは別問題だ。


 すると、フェアルが気まずそうに俯いていた。


「あぁいや、責めてるつもりじゃなくてだな……」

「改めて……ごめん。本当に最初はこっちの争いに巻き込むつもりはなかったの。完全に私的な戦いだから、これ以上巻き込んじゃダメだってのも、分かってたんだけど……」

「だ、だから気にすんなって」

「いや! これはリュウトの命に関わることだから、謝んなきゃいけないの!」


 必死の形相だった。

 意外にも、こういうところはしっかりしているというか、義理堅いやつなのかもしれない。


「分かったから顔上げろよ。元から見捨てるつもりなんてないぞ。そりゃもっと激しい戦いになるだろうけど、乗りかかった船だ。俺にも協力させてくれ」


 フェアルがおずおずと頭を上げた。


「本心?」

「当然」


 力強く頷いてやるも、フェアルの表情は晴れない。

 居たたまれない風に視線を彷徨わせると、伏し目がちに言った。


「じゃあ、こっちで戦ってくれるって言うの……?」

「こっち?」


 聞き返すも、フェアルは目を合わせようとしない。

 一体どういう――あ。


「王女派に加担するって意味か」


 こくんと頷かれた。

 参戦において、所属する側の話をしていたらしい。


「……多分、妖精の力量差で見たらあっちの方が上。スキルを回収しなくて良い分、楽なのも反王女派だよ。最後は思想の一致によると思うけど、その点も実際のところ、リュウトはどうなの?」


 フェアルの身体が強張っているのが分かった。

 俺は今、重大な岐路に立たされているのだろう。



「……王女派と反王女派、どっちにつきたい……?」



 周囲の木々が、気味悪くざわめいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ