表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第2章 日常と非日常
31/40

第30話 判明する組織

「美しい……実に美しいぞ。この無機質な漆黒のボディ、シンプルでスマートなフォルム……。武器の美しさはやはり、機能性を重視して生まれたものが至高である」


 恍惚とした眼差しでハンマーを愛でる竜斗。傍目には狂気すら感じられる。


「……何やってんだぁ?」

「……何やってんの?」

「……何をやっているのですか?」


 意見が同調したのは敵との方であり、フェアルはやれやれと首を振った。コルトは純粋に疑問であった。


 しかし、隙を見出だしていたのは竜斗の方であった。


「逆境で武器を変えて形勢逆転とは何とも夢があるな。是非とも実現させたいもの――だッ!」


 竜斗は大きな1歩で距離を詰め、振り被る。


 少年の真横すれすれの地面を、鉄槌が叩き潰した。足場が陥没し、再び地響きが鳴る。


「~っ!?」


 恐怖で顔を引きつらせつつも逃げていく少年を、竜斗は絶え間なく攻め立てる。

 鈍重な動きだが、圧倒的な質量を持つハンマーの迫力は、それを補って余りあった。


「おらおらおらぁぁあああっ!」

「く、くそ……。っ!」


 気迫に圧され、避ける少年の足がもつれた。回避を諦め、氷の弾丸で牽制する。


 が、竜斗は構えただけのハンマーで全弾を弾き、さらにその体勢のまま突っ込んだ。


 小さく呻いて後方へ飛ぶ少年。

 竜斗はすかさず追い打ちをかける。近付き、今度は横方向の殴打を狙う。


 少年は即座に鎧の氷を増大、強化させ、さらに腕にも氷のガントレットを装着した。


「来いよ!」


 守りを固め、自信満々にガードの態勢を取る。


 対する竜斗は、全身全霊の一撃を放たんと、柄を両手で強く握り締める。

 そして交差されたガントレットに向け、再び魔氷の防具との性能比べを敢行した。


「あいにくと――負ける気がしねぇんだよッ!」


 持ち主の気合いが籠ったハンマーは、獣の猛々しさすら感じさせて襲い掛かる。


 勝負は、一瞬で決まった。


「――!!」


 氷の砕け散る音と共に、鋼が少年を打つ。厚く強固な鎧にも亀裂が走る。

 僅かな力の拮抗もなく、ハンマーが少年を吹き飛ばした。


「がっ――」


 断末魔すら上げずに、彼の身体は民家の壁に激突、中を突き抜けて反対側の道路まで飛び出た。


 土煙が舞い上がる中、生まれた1本の道の向こうで、弱々しく影が動く。

 しかし瓦礫に埋もれたそれは、ほとんど姿を現せずに、やがて止まった。


「……ぐぇ……」


 間抜けな声を聞き届けると、竜斗は緊張を解いてハンマーの頭を地面に突き立てた。


「いっちょあがりぃ!」


 その無邪気な笑みに、妖精達も喜びを露にした。


「やったぁ! ナイスリュウト~!」

「お見事でした。斬撃から打撃へ瞬時に切り替えた判断力、素晴らしいです」

「おう! 『武器大全集』のおかげだぜ」


 感心したように頷いて腕を組んだ瞬間、


「いだだっ!?」


 竜斗の左肩が痛んだ。今の今までアドレナリンのおかげで気になっていなかった怪我である。

 コルトはその反応ですべきことを思い出す。


「おっと、雑談は後ですね。まずは回復を。リュウト、重傷であるあちらから優先しますので、少しだけ待っていて下さい」


 そう残し、コルトは少年の下へ飛んでいく。

 フェアルもそれに続き、次の回収作業は妖精の番になったのであった。




「よくあれだけ派手に吹っ飛ばされたこいつを完治できるなぁ」

「ぶん殴った張本人が何言ってんの」


 コルトが少年をほぼ完全に回復させて一命を取り留めると、続いてフェアルがスキル『氷魔術(アイスマジック)』を回収する。


「……よし。回収完了」

「じゃあ、後は記憶を消すだけか」


 これまでの行程を思い返し、気絶している少年に目を向ける竜斗。

 しかし、コルトは首を振った。


「いえ、このまま目覚めるのを待ちます」

「? 記憶消さないのか?」

「はい。聞き出さねばならないことがありますから」


 尚も判然としない彼は、フェアルから伝えられる。


「忘れちゃった? 戦う前にしてた、所属の話」

「あ……」


 今回の対象者からは妙な波動が感じられたこと。その人物がスキルの知識を得ていたこと。それが間違ったものであったということ――。

 妖精という組織に不穏な「何か」を感じ取っていたことを思い出し、竜斗の表情が強張った。


「私も気になっていました。フェアルの通達で概要は知りましたが、いざ肌で感じてみると、確かにあの波動のように思えます」

「コルトも、分かるんだな」

「当然です。何せ、敵対組織なのですから」


 目つきが厳しくなる。普段からは考えられないコルトの様子に、竜斗も気が引き締まる。


「本来ならリュウトには関わらせたくなかった件ですが、ここまできてしまっては……」

「手伝ってもらうしかない……? でも、心苦しいよ」

「だからどうして心苦しくなるんだよ、焦るわっ」

「とにかく、詳しくはこの人から聞き出してからにしましょう」


 3人の視線が気絶中の少年に集まる。


 その時だった。



「──ははっ、その必要はねぇぞ?」



 愉快そうな声が、『反世界(アンチワールド)』に響いた。


「「「!!?」」」


 笑みを浮かべている様が想像できる声音だが、どちらかと言えば嘲笑に近い。見下し、相手を支配する力が籠っているようですらある。


「だっ、誰!?」


 それぞれ周囲を警戒し、フェアルが姿の見えない者に問いかける。

 その誰何と期を同じくして、突然灰色の空に割れ目ができる。コルトがこの世界を出入りする時に生じていたものと、全く同じだった。


 竜斗達が険しい面持ちで次元の隙間を見つめる中、その穴から、1人の男の妖精が姿を現した。


「初めまして、だな。オレの名はゼク。見ての通り、妖精だ」


 ゼクと名乗ったその妖精はゆっくりと竜斗達の前方に降りてきて、空中に留まった。


 紫色のTシャツにジーパンという現代人に近い格好に、ボサボサの黒髪。そしてその間から見える双眸が、鋭い眼光を放っている。


 身長はフェアル達と同じほどで羽も生えているが、1つだけ大きく異なっている点があった。

 羽の色が、真っ黒だったのである。フェアルとコルトの羽は無色透明なのだが、ゼクのそれは黒で塗り潰されていた。


 竜斗は見知らぬ妖精に対して不審に思うだけだったが、フェアルとコルトは驚愕の表情でゼクを注視していた。


「な……何故貴方が、ここに……!?」

「2人とも、知ってるのか?」

「知ってるも何も、文字通り有名(・・)な妖精だからね……!」

「あっ……」


 名前を持つ妖精というのは本来、それだけで神からかなり高い位を与えられていると証明されているようなものだ。2人が彼の名を知っている時点で、相当な実力者だということが分かる。


「でも、あいつのことは全然歓迎してねぇみたいだな」


 同じ妖精であっても、フェアルは恨みの籠った視線をぶつけていた。コルトも敵意を向けている。


 ニヒルに笑うゼクを睨んだまま、彼女は答えた。




「……当然だよ。だってあいつが、敵対組織――『反王女派』の一員だからね」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ