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スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第2章 日常と非日常
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第28話 vs魔法スキルホルダー

 灰色の世界に身体を移された竜斗は、やはり立ったままで目を覚ました。


「……はぁ。やっぱ一瞬は気を失うのな」


 この世界に移動する瞬間を見たかった竜斗だったが、叶わぬ夢に終わる。


「くそ、んだよここは……?」


 遅れて目覚めたスキルホルダーの少年は、突然光に包まれ気を失うという事態に苛立っていた。


「何しやがったんだ! どうなってんだよ!?」

「無関係な人達を巻き込まないようにするためのものだから、そんなに怒んないでよ」


 緑色の髪をふわりと揺らしながら浮かんだフェアルは、そう宥めた。

 少年は腑に落ちていなかったが、急に納得したような表情になる。


「ああそうか。てめーらは証拠隠滅しなきゃならねーからか。ケッ! この人殺しが」

「ひでぇ言われようだな……勘違いにもほどがあんだろ」


 竜斗は、まだ自分が殺されると思い込んでいる少年を見て肩を竦めた。

 暴走していれば話が通じないのも頷けるが、彼の場合は性格の問題である。


「俺はまだ死なねぇ。俺の力で雑魚どもを全て従えて、いずれは世界を征服してやるんだよ!」


 間の抜けた空気が降りた。


「…………」

「リュウト、口、半開き……ぷくくっ!」


 そう言うフェアルも笑いを堪えきれない。2人は完全に馬鹿にしていた。

 少年はカチンとくる。


「うるせぇ!! てめーら雑魚に言われる筋合いはねーんだよ!」

「はぁ。戦ってもいねぇのに雑魚だって決めつけるなんて、見た目以上に頭が残念なようだな……」

「あぁ!? なんだとテメー、ぶっ殺すぞ!!」


 すると少年の右手に魔力が集まり、拳大の大きさの氷を一瞬で作り出す。


「!」

「くらえぇっ!」


 宙に浮かぶ氷の塊は高速で発射され、竜斗の顔面へと飛んでいく。

 武器を召喚しておらず身体能力は常人のそれだったが、咄嗟に身体を振ってギリギリで躱しきった。


「あっぶねぇ……! 氷魔法か?」

「そうみたいだね。多分、スキル名は『氷魔術(アイスマジック)』だよ」

「そのまんまだな。ったく、得物くらい出させろってんだ」


 竜斗は悪態をつくと、目を閉じて両手で剣を握るポーズをとった。


「『武器召喚(サモンウェポン)』……『クレイモア』!」


 手の中に光が集まり、徐々に大剣の形を成していく。

 両腕を振るうと、鍔についたリングがシャランと音を立て、光の粒子が飛び散る。クレイモアの全貌が明らかになった。


 以前召喚したものよりも剣幅が広い。氷を叩くためにこの場でアレンジしたのだ。


 少年は驚いたが、能力を持っていることは知らされていたのか大した表情は見せなかった。


「今日もコルトは来てくれるんだろうな?」

「もっちろん。さっき連絡しといたからね」

「よし、なら安心だ」


 ターゲットである少年に大剣の切っ先を向ける。相手を斬る覚悟を決めたのだ。

 竜斗の敵意を感じた少年は、不敵な笑みを浮かべた。


「ケッ、やっぱ戦う気はあんだな。じゃあ遠慮なくいくぜ!」


 今度は、先程の氷塊をいくつも生み出し連続で飛ばす。


「遅ぇッ!」


 竜斗はスキル効果で上昇した身体能力で次々と氷を見切り、叩き斬っていく。

 最後の一つを水平に真っ二つにすると、剣を片手に持ち替えて駆け出した。


 10メートルほどあった距離も瞬く間に縮まり、竜斗は大剣を振り上げた。

 少年は横に跳んで逃げ、振り下ろしを躱す。クレイモアは豪快に地面にめり込んだ。


「ッらぁ!」

「うおぉっ!?」


 刺さった剣を両手で引き抜いた勢いで、逆袈裟斬り。

 これも掠ることなく避けられたが、少年に余裕をなくさせていることは確かだった。


 ここで竜斗は攻撃の手を止め、相手と少し距離をとる。少年もバックステップで離れていった。


「魔法のスキルホルダーは、一発一発の威力は高いけど身体能力が上がりにくいのが欠点だよ」

「なるほど。なら積極的に今みたいな接近戦に持ち込めばいいんだな」

「深追いしすぎたら近距離で魔法を食らっちゃうから気をつけてね」


 おう、と短く返事をすると、竜斗はまた走り出した。


「そう簡単に、近寄らせるかよっ!」


 少年は両手を前にかざした。上下左右に氷の膜が広がっていき、やがて分厚い壁となる。そして、猛スピードで竜斗に襲い掛かった。


 見上げるほど巨大な壁に少し怯んだが、竜斗は立ち止まって剣を構え、力を込める。


「だあぁッ!」


 そして腰溜めにしたクレイモアを、一気に叩き付けた。

 両手剣と氷壁の激突。一瞬力が拮抗したかに見えたが、すぐ氷にヒビが入り、粉砕される。


「まだまだぁ!」


 打ち砕かれることを予測していた少年は、既に氷の弾丸を数発撃っていた。


 予想以上の氷の硬度に驚く暇もなく、竜斗はそれらを躱し、受け止め、斬り伏せる。

 しかしその内の1発が処理しきれず、左肩に命中した。


「ぐ……!」


 痛みに顔を歪めた竜斗へ、少年はさらに追撃する。

 細長い氷の剣を握り、首を狙った斬撃を放ってきた。


 だが、調子に乗って追撃に接近戦を選んでしまったのは悪手だった。そこは自分の土俵とばかりに、竜斗は右手に持ったクレイモアで弾く。

 鉄の両手剣は氷の片手剣を容易に叩き割り、長い刀身は少年の顔に薄い裂傷を作る。


「っ!」

「隙ありィ!」


 たたらを踏んだ少年の腹に、思いっきり蹴りを入れた。


「がふッ……!」


 転びはしなかったものの、後方に大きく吹き飛ぶ。しかし、


「クッソ、痛ぇじゃねぇかよ!」


 まともに食らえば喋ることもできなくなるはずだったが、少年は叫んだ。

 食らう直前、腹部に一瞬で氷の鎧を作り上げ、それが竜斗の全力の蹴りでさえ衝撃を殺していたのだ。


(なんて反応速度だ……。氷も異常に硬いし、直撃した左肩はやばいな)


 見ると、傷口からは血が流れていた。

 氷は既にどこかへ消えていたが、防御力が上昇していなければ深々と突き刺さっていたかもしれないと思うと、竜斗はぞっとした。


 重い氷の鎧を消すと、少年は肩の怪我を確認していた竜斗を見て、勝ち誇ったように笑った。


「ざまぁねぇな! そんな状態じゃ俺には勝てねぇよ!」


 しかしその煽りは、竜斗にとっては寧ろ逆効果だった。思い出したように声音を作る。


「はっ。これが貴様にくれてやるハンデだとまだ気が付かないのか? 貴様の相手など片手で充分だ」

「あんだとぉ? ならやってみやがれぇ!」


 余裕の宣言に腹を立てた少年は、複数の氷塊を同時に撃ち出した。

 広範囲に及ぶ波状攻撃だが、竜斗の視力は冴え渡っていた。


(クックック……。見える、見えるぞ!)


 氷の軌道を見極め、位置を微調整。

 そして自分に迫るものだけを、たった1度の薙ぎ払いで残らず斬り落とす。


「んなっ……!?」


 通り過ぎた氷塊が竜斗の背後で着弾した。

 舞う氷の欠片の中から、竜斗は右手を引いて再度駆け出す。貫通力のある突きの姿勢だ。

 少年は、慌てて氷の盾を生み出して装備する。


「無駄だ!」


 接近した竜斗が、胸を狙った突きを繰り出した。

 助走をつけたその一撃は強固な氷の盾に阻まれるが、その中央を大きく抉る。


 蹴りを防いだ鎧よりも厚く硬い氷が、容易く傷付けられる。その事実が少年を怯ませた。

 守りの体勢に入った敵を前に、竜斗の攻勢は止まるところを知らず、さらにクレイモアが振るわれていく。


 斬る竜斗と、防ぐ少年。左肩に怪我を負ったとは思えないほど、戦いは一方的になっていた。

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