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スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第2章 日常と非日常
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第27話 相見える敵

「えっと、まだ食べないサバは冷凍庫に入れておいたし……よし、行くか!」

「……まったく。スキルホルダーが暴走するかもしれないって時に、特売された魚の心配をするなんて……」

「あ、鍵かけ忘れた」

「は・や・く!!」

「はいぃっ!」


 急いで玄関の鍵を閉める。フェアル、小さいくせにすげぇ迫力だぜ……。


 今俺らは、自宅に戻って新鮮な魚達を冷蔵庫にしまったりして、家を出たところだ。

 もちろん全て全速力で行動している。急がないと、スキルに関しては大先輩であるフェアル様がお怒りになるので。


「でもそんな怒るなって。お前も魚料理作ってみたいだろ?」

「いいから急ぐよっ!」


 鍵を閉め終えたのを確認すると、猛スピードで飛び始めた。俺も置いていかれないように走り出す。



 ポツポツと街灯が点いてきた与孤島町は、やはり薄暗い。だが慣れた道は走るのも余裕である。


「頑張って探ってみたんだけど、どうやら今回の相手が持ってるスキルは魔法みたい」

「魔法!? マジ!?」


 よっしゃああああ! ついにファンタジーには必要不可欠の王道・攻撃魔法をお目にかけることができるのか!


 スキルにおいての魔法とは、スキルと同時に獲得する魔力によって発動できるものを指すらしい。


 魔力量には上限があり、時間経過で回復するものの、しばらく使い続けると限界を迎える。

 しかし念じれば大体が発動できるという利点もあり、俺の『武器召喚(サモンウェポン)』のような身体機能を特化するスキルと差別化されている。


 今までの魔法スキルはコルトの『中回復(ヒール)』だけで、それも回復系だから戦闘系の魔法は初めてだ。

 やべぇ、超ワクワクしてきた……!


「……興奮するのは分かるけど、戦闘中にふざけたりしないでよね?」


 喜びが顔に出ていたのか、フェアルのジト目を食らう。


「さ、さすがに真面目に戦うって。命に関わるからな」


 そう口では言っているけど、いざ魔法を目の当たりにしたらはしゃいでしまいそうだ……。楽しみで仕方ねぇし。



 だがまだ見ぬ魔法使いを夢想する時間もなく、俺らはすぐに回収対象のスキルホルダーを発見した。


「いた! あの男子!」


 フェアルがスピードを落として、前方を指差す。その先には、俺とは違う制服を着た、恐らく南高と思われる男子高校生が立っていた。

 ワックスで立てた金髪やだらしない服装から、チャラ男とか不良とか、そういった類の見た目だ。


 俺らの姿を認めると、ニヤリと不気味に笑った。

 さらにそいつは開口一番、核心をつくようなことを言ってきた。


「よぉ。テメーらが、俺の能力を狙ってるって連中なのか?」

「!」


 スキルホルダーが自分で情報を手に入れることは不可能。接触した妖精に教えてもらったということは明白だ。


「どこまで知ってんだ、お前は……」


 問題は、そいつが何者か、そしてこいつがどこまで知っているか、だ。


 立場をはっきりしてもらうためにも、まずは相手の認識について聞き出してみるか。


「誰かに色々と教えられてるみたいだが、お前は、俺らの何を知っている?」

「ケッ、よく言うぜ! そんなことテメーらが一番よく分かってるくせに。……俺の能力を奪い取って、殺そうとしてんだろ!?」

「!?」


 殺す……!?

 スキルホルダーは、スキルを回収されるだけで死にはしない。命を奪うだなんて見当違いもいいところだ。こいつが勘違いしているのか? 


「だが、そう易々と殺されるわけにはいかねぇ……テメーらなんざ返り討ちにしてやる! 俺の特別な力でな!」


 「殺られる前に殺る」の精神で、相手は俺へ敵意を飛ばす。

 こっちが戦いを仕掛けるのはその通りだが、誤った情報を持たれているのは問題だ。


「どんな奴に教えられた? お前のバックには誰がいる?」

「残念だが、そいつは教えらんねー。本人から口止めされてるんでな」


 ちっ、こいつ頭悪そうだからポロッと吐いてくれるかなと思ったが、そう簡単にはいかないか。


「だけどよぉ、少しありがたくも思ってるんだぜ。テメーらが襲ってきてくれたおかげで、俺は能力を使える! 俺の特殊な力でテメーらをぶっ殺せるんだぁ!」


 突然悪役みたいに高笑いし出した。気持ち悪……。

 暴走っていうのは異常にスキルを使いたがるものらしいけど、元の性格が荒い奴はさらにうるさくなるな。


 しかし、スキルに理解がある時点で他のスキルホルダーとは別物。いろんな意味で今までとは違う敵に、警戒心を高めた。


 すると、俺の横で黙っていたフェアルが小さく呟く。


「……やっぱり。確信したよ」

「え?」

「このやり口、別所属の妖精が私達を邪魔しようとしてるに違いない」


 思い詰めたように眉をひそめている。

 邪魔までする関係なのか、所属の違う妖精は。


「所属って、一体……」

「気になるとは思うけど、まずは『反世界(アンチワールド)』に行かないと、あのうるさいのが騒ぎを起こしかねないよ」


 そうだった。いくら夕方の田舎町でも、あんだけ大声でずっと高笑いしてりゃ目立つ。

 さっさとあいつを倒してスキルを回収して、フェアルの考えを聞こうじゃないか。


「じゃ、場所を移すよ」


 そう言って地面に手をつけると、フェアルはスキルを発動した。


「『次元転移(ディメンションシフト)』!」


 戦闘の舞台を作ったフェアルも、驚いて笑うのを止めたあいつも、次の戦いへの覚悟を決めた俺も、全てが光に包まれていった。

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