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スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第2章 日常と非日常
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第24話 爆走C

「さ、竜斗君と奏介君のキーホルダーだよ」


 1人で盛り上がる鈴音は無視して、琴音がくれた熊のキーホルダーを受け取った。5つとも全て色違いとは律儀なやつらだ。


「おう、サンキュ。でもあの宮野が思いついてくれてたとは驚きだな」

「あ、えっと……」


 すると、宮野は視線を逸らした。


「……皆さんから友達として遊びに誘ってくれたのは初めてのことだったので、ちょっとした記念に、です」


 眼鏡を指で押し上げる。明らかに照れ隠しだった。

 やっぱり、いつも真面目で厳しい宮野も、みんなで遊ぶのが楽しい普通の女子高生みたいだな。


「嬉しそうで何よりだ」

「宮野ちゃんにもあったんだねぇ、こういう一面。クラスの奴らにも見せてやりたいよ」

「だね。ふふ」

「も、もう! 琴音さんまで!」


 微笑ましくなって笑い合う俺達。さらに顔を赤くした宮野の怒る姿も、なんだか可愛らしく見えた。


「……私だって、シロとの記念いっぱいあるのに」

『大~当たりィ~~!!』

「お、誰かさんがくじの1等当てたな」


 男性店員のアナウンスとともに、喧しいベルの音が鳴り響いた。このゲーセンではたまに大規模なくじを行っているから、1等が当たるとこうやって店内にアナウンスされるんだよな。


 鈴音が何故か不機嫌だったが、多分ベルの音だろう。いつもいきなり鳴るので毎回ビビる。


「んじゃ、次は何やる?」


 奏介が音頭を取ると、悩む俺らの中から声が上がる。


「では、私がリクエストしても良いですか?」

「おおっ!? らぶりんが!?」

「……その呼び名、定着させないでくださいよ」


 鈴音と同じく、俺らも驚いた。宮野にやりたいゲームなんてあったんだな。


「いいぞ。何やりたいんだ?」

「その、あれなんですが」


 宮野が遠慮がちに指を差した先には、自動車の運転席をそのまま抜き出したような、どこのゲーセンでもよく見るカーレースのゲームがあった。


「ほう、『爆走C』シリーズか。宮野ちゃんもお目が高い!」

「車の運転をリアルに、そして安全に体験できるというものには、少し興味が湧いたので」

「らぶりんが言うと、すごい健全なゲームに聞こえてくるね……」


 確かに今の宮野の言い方だと、完全に教習所のシミュレーションゲームだ。宮野の言葉には優等生フィルターがかかっているらしい。


「現実ではできないスピード感溢れる走行が、ああいうゲームの醍醐味だからな」

「うん。私もレースゲームは得意だよ」


 奏介と琴音が賛同する。もちろん鈴音も好きなゲームだ。


「じゃあ宮野は初心者だけど、全員でやるか」


 さっき奏介が言っていた『爆走C』というシリーズであるこのゲームは、多人数対戦が熱い。6つ並んで設置されており、最大6人同時で同じコースを走れるのだ。


「異議なーし!」

「か、金が……んん、いや何でもない」

「面白そうですね。やりたいです」

「愛華先輩、操作方法を教えますね~」


 琴音が宮野に簡単な操作方法を教えるため、2人は先にシートへ向かった。


「……宮野には悪いけど、俺は本気出すからな?」

「当たり前じゃん。私も負けず嫌いだしね~」


 俺と鈴音の視線がぶつかり合い、火花が散る(というイメージ)。


 レースゲームは得意ではあるが、鈴音も同じくらいに上手い。

 俺と張り合える数少ないゲームで、奏介よりも速いだろう。気を抜けば負けてしまう相手である。



 琴音が一通り操作方法を教え終わったところで、俺らもシートに座った。横一列に、宮野・琴音・鈴音・俺・奏介の順だ。

 そして自然と、恒例になったお互いの「要求」が口をついた。


「野口さん1人分だ。500円ずつの支払いを求める」

「むむっ、そんなに~? じゃあこっちは、買い物の荷物持ちを今月中無制限で!」

「げっ、マジかよ」


 こいつらの荷物持ちは長引くから嫌なんだよなぁ。しかも何回もなんて――


「……何の話ですか?」

「はっ!」


 しまった! これも賭けゲーだ!


「あのね、私達がこのゲームをする時は、決まって賭けをするんだ。1位になった人のチームが、もう片方のチームにお願いできるの。その方が白熱するでしょ?」

「おっ、おい鈴音!」

「なるほど。それは面白いシステムです……しかし、男子の要求が現金というのは、些か見逃せないのですが……?」


 今朝抱いた疑惑が確信に変わったのか、模範生・宮野はこちらに凍てつく眼差しを向ける。


「あっ……。ごめんねシロ」

「だからお金はダメっていつも言ってたのに……」


 苦笑する大月姉妹。自分には非がないからと高みの見物を決め込んでいる。

 く、悔しいがぐうの音も出ねぇ……!


「ほっ、ほぉら宮野ちゃん! 高校生の遊びでとやかく言うのは野暮だって話しただろ~?」

「賭け事は、まだ高校生の遊びではありませんよ」

「ぬぐっ……!」

「まぁまぁらぶりん。こっちはお金賭けてないんだから……要は、勝てばいいんだよ」


 鈴音、黒い笑み。カーレースでは勝てるという自信の表れだ。


「それはそうですが……しかし」

「あっ、そうだ! 女子チームが勝ったら、宮野ちゃんの荷物持ちもしてあげよう!」

「ちょっ、おい奏介!」


 こちとら魚屋のタイムセールが控えているのだ。もし負ければ、3人分の買い物に付き合う羽目になる。

 それに荷物持ち程度で許してくれる宮野じゃないだろう。


「な、なら……」

「良いのかよっ!?」


 案外ちょろいぞこの女。天下の風紀委員も、ゲーセンの魔力には抗えないということか……?


 渋々許してくれた宮野が、財布から金を取り出した。みんなも次々に100円玉を用意し、投入。

 その刹那、派手なエフェクトとBGM、そして微振動機能を搭載したシートが、俺らの五感を揺さぶった。


「ふわっ!?」

「あははっ。らぶりんびっくりしてる~」

「この始まり方には誰でも驚いちゃいますよね」


 フフフ、思い知ったか宮野。これが非日常を求める現代人の行き着く先――聖域(サンクチュアリ)だ!


「すごい……。これまでに味わったことのない感覚です。ゲームセンターの対戦ゲームとは野蛮で低俗なものだと思っていましたが、高い技術力に裏打ちされた、一つの娯楽の形なのですね」


 今日までの宮野の偏見に怒りを禁じ得なかったが、新たに得た価値観に免じて許そう。


 初心者の宮野がいろいろなシステムに関心を向けている間、こちら側でほとんどのルールを設定。

 そして全員では、使用する車の決定などの操作を進めていき、ほどなくして画面が深夜の峠道に切り替わった。もうすぐレースが始まる。


 俺の左隣の鈴音が、こちらを振り向いてニヤリと笑う。これは本気モードだ。


「ふふふ……今日は私が勝って、荷物持ちしてもらうからね!」

「やなこった。あんなに長い拘束時間はもう御免だぜ。そっちこそ、今のうちに1000円用意しとけよ?」


 燃え上がる闘争心、ぶつかり合うプライド。

 こいつは、事実上俺と鈴音の一騎討ちになりそうだな……!


 スタートのカウントが始まった。全員のハンドルを握る手に力が入る。


『……GO!』


 そして画面から流れた音声と共に、5台のスポーツカーが同時に飛び出していった。

爆走Cの由来 Car

       Control

       Corner

       Crysis

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