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スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第2章 日常と非日常
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第20話 商店街へ行こう!

 週に3つという戦闘系スキルの大安売りを体験した俺だったが、ありがたいことに記録はそこでストップした。


 先週はあれ以上駆り出されることなく過ぎ行き、今週も平和だ。

 フェアルは次の戦闘まで数週間は空くはずと言っていたので、とりあえずは安心して暮らせているのだ。


 ただ、特訓は続けている。習慣になっている体力作りの神社登り、『反世界(アンチワールド)』での実戦のイメトレ、武器の知識収集と、やるべきことはたくさんある。


 面倒と思うことは何度もあるが、『魔源裂鞭(エナジーウィップ)』のスキルホルダーとの戦いで実力不足を思い知った俺が、そう易々とサボるわけがない。

 それに、元々興味があって飛び込んだ世界だ。楽しんで特訓している。


 そんなこんなで、日々の疲れも溜まってきたある日。


「ねぇシロ! 今日商店街行かない!?」


 俺の席に現れた鈴音が、突然提案してきた。


「商店街?」

「今日部活ないから放課後暇なんだよね~。だから、さ!」


 目をキラキラと輝かせ、心なしかやや上気した顔で見つめてくる。

 何をそんなに興奮しているのか。それほど商店街に行きたいということか。


「パス」

「ええっ!?」


 だが今の俺は疲れている。あまり出歩きたくないのだ。


 その上大変だった先週は、ゲームにもなかなか手をつけられなかった。せめて落ち着ける時期くらい、趣味に没頭させてくれよという話である。

 もうログインボーナスだけ受け取って終わるソシャゲは嫌だ……!


 しかし、鈴音は諦めずに唇を尖らせて抗議する。


「いいじゃん別にぃ。少しぐらい付き合ってよー」

「ええ~。めんどくせぇよ」

「じゃあ忙しいの?」

「……い、いや、そんなことはないけど」


 危うくスキルの特訓が大変なんだと言うところだった。


「なら私と一緒に商店街行こうよ~! ねぇ~、行~こ~う~よ~!」

「ちょっ……駄々こねんな鬱陶しい!」


 俺の正面で机をバタバタ叩く鈴音。うるさい。


 他にも誘うべき友達がたくさんいるだろうに、俺への集中砲火は何故なのか。


 何にせよ、こうなってしまえばこいつは一日中ねだってくることだろう。中学に入ってからは大人しくなったと思っていたが、幼児退行かよ。

 ともかく、面倒だが腹をくくるしかないようだ。


「……仕方ねぇな」

「ほんと!? やった!」


 一転して満面の笑みに。まぁコロコロとよく変わる表情だこと。

 だが鈴音、お前の好きにはさせんぞ。


「で。他に誰がいるんだ?」

「えっ? だ、誰もいないけど」

「んじゃ、奏介でも呼ぶかー。琴音も連れて来いよ。いつものメンバーだしな!」

「う、うん……」


 お。唇を尖らせて、露骨にテンションが下がった。てことは、


「……シロってフラグ折るの得意だよね」


 やっぱり。「俺を荷物持ちにさせる」フラグを立てようとしてやがったな!


 前に1度2人だけで行った時、あいつは買い物で俺を何時間も連れ回し、大量の購入物を全て俺に持たせた挙げ句、それを見て「またやってもらおっかな~」なんてニヤけていたのだ。

 荷物持ちも案外キツイんだと、あの時初めて知った。


「何を言ってるのかさっぱりだが、遊ぶなら大勢の方が楽しいだろ? あ、他にも誰か呼んでみるわ」

「……そ、そだね。なら、誘う人はそっちでよろしく。じゃあ、また、昼休みに~……」


 作戦に失敗した鈴音は、背中を丸めてとぼとぼとどこかへ去っていく。

 勝った。


 それより商店街か。遊び目的では久々だなぁ。

 財布にいくら入っていたっけ。ていうか今日の晩ご飯何にしよう……。



 ぼんやりと考えていると、後ろから誰かがぽんと肩を叩いた。奏介だ。


「ようフラグクラッシャーさん」

「失礼な。一級フラグ解体士と呼びたまえ」

「いや、お前はクラッシャーだよ……」


 何でだ? フラグの内容を理解している上で破壊したから、俺は解体士のはずだぞ?

 クラッシャーはフラグに気付かずに壊すから、微妙に違うだろう。


「せっかく俺がそそのかしてやったのにさー……」

「え!? あの荷物持ちの悲劇はお前が元凶だったのか!?」

「……はぁ」


 くそ、まさかこいつが一枚噛んでいたとはな。2人はたまにこうやって手を組むから困る。

 しかし何故溜め息を。呆れられているのか……!?


「その話は一旦置いといて。──商店街ってことは、やっぱりゲーセンも行くんだろ?」


 奏介が、いけ好かないリア充の浮気情報を手に入れた時と同じくらい楽しそうな表情になる。つられて、俺の口角も上がった。


「フッ……もちろんだ。闘争と欲望渦巻く()の地にて、我ら古より戦いし者共(おさななじみ)が剣を交えない理由がなかろう……。無論、賭けるモノは──」

「己が名誉とカネ、だろ?」


 流石だ。分かっている。

 俺と奏介は拳をぶつけ合った。


「今日はぜってぇ負けねぇからな、竜斗……!」

「ほざけ。今日も奪われるための賭け金、ちゃんと用意しとけよ? 奏介……!」


 燃え上がる決闘と報酬への熱意が、俺らを本気にさせる。

 ククク。さっきまでの気の進まなかった自分が嘘のようだ。やはりゲームには敵わない、といったところか……!

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