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スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第2章 日常と非日常
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第19話 焦燥招く破壊と滅亡の息吹

 死闘を終え、2人目の戦闘系スキルホルダーを打ち破ったばかりの俺は、しばらく休息を取れるものだと思っていた。


 しかし。


「何で次の日にまた現れるんだよっ!」


 下校中らしき中学生の一団がこちらを不審げに見てきたが、構わずその脇を走り抜ける。


「スキル回収は常に唐突だから、いつ起こっても不思議じゃないんだけど」

「戦闘系の方が少ないんじゃなかったのか?」

「そうなんだよねぇ……」


 フェアルも困惑気味だ。戦闘系じゃない方が大半、というのもフェアルの勘違いなんじゃないだろうか。


「まぁ、珍しいと言えば珍しいで済むんだけどね。ただ……」

「ただ?」

「今回は、『破滅の息吹(ルーインブレス)』って言うスキル。一瞬で周囲を焼け野原にするほど強力で、昨日のよりもスキルの質としては同等かそれ以上だよ」

「……おいおい。勝てんのかそれ」


 どんどんスキルの中身が殺戮兵器みたいになっているんだが……。いろんな武器が召喚できる程度では歯が立ちそうにないぞ。


「大丈夫! あんなに強かった鞭のスキルホルダーにも勝てたんだよ? もう何も恐くない」

「回収するのはスキルだけでいいわ!」


 非日常での死亡フラグはシャレになんねぇよ……。



「「!」」


 と、その時。すぐ前方で、銃声のような破裂音が響いた。続いて見えたのは立ち昇る煙。


「おい、あれって……!」

「……間違いない、『破滅の息吹(ルーインブレス)』の波動だよ!」


 そこで俺らは思い知らされた。悠長にしている暇なんてなかったということを。


「くそっ!」


 スピードを上げ、全力で走る。一刻も早く向かわないと手遅れに……いや、もう遅いかもしれない。

 焦燥する俺達に追い打ちをかけるように、あと少しというところで声が聞こえた。苦しそうに助けを求める、しわがれた女性の声だ。


「! まさか……被害者が!?」

「やばいっ、これはやばいよ!」


 スキルホルダーが一般人を傷つける。自分の問題とばかり思っていたスキル回収に、そんな他人の危機も隣り合わせだったことを、今初めて認識する。

 だがそれは遅すぎたのだ。住宅街の角を曲がり、到着したそこで見たものは──




「だ、誰か助けてくれんかのぅ。口から火ぃが出てきとうてなぁ。あちっ、あちちっ!」


 ──酔っ払いの嘔吐よろしく、むせながら火の粉(・・・)を吐き散らす、元気そうな婆さんだった。




「……え?」


 とりあえず、状況を確認する。


 膝をついて咳き込んでいる婆さん。見た感じ怪我はなし。

 ちょびっとだけ焼け焦げたコンクリート。遠目からじゃ目立ちもしない。

 真っ黒になっている煙草と思しき紙の箱。その近くにはライターも転がっている。


「こ、これ……」

「煙草を吸おうとしたら暴発した。みたいなっ?」


 フェアルが引きつった笑顔で答えた。

 いや、発動のされ方にも物申したいが、何より……。



「──火力低ッ!!?」






──────────




「スキルには向き不向きがあるからさ、出せる能力の限界にも個人差があるんだよ」

「……まぁ、そりゃ、そうだろうけど」


 結局、戦闘には至らず、なんと話し合いの解決すらできてしまったのだ。



『だ、大丈夫っすかー……?』

『おや? あ、あんたは? ゴホッ、ゴホゲホ』

『えーと、まずは落ち着いてください。その現象はこっちで何とかしますんで』

『そんなことができるんかいな? いやぁ、げに不思議な症状やぁ思っとったけど、あんた知っとるんやな』

『えぇ、まぁ』

『ほんならよろしく頼んますわ。苦しゅうてたまらんのや。かぁーっ、ぺっ!』

『……フェアル、いけるか?』

『驚きの(やす)さ』



 終了。


 年寄りの貫禄というのだろうか、アンビリーバブルなことが起きても慌てていなかったのは非常にやりやすかった。人格や人となりも波動の暴走に関係してくるのかもしれない。


 戦闘系スキルホルダーと戦わなければいけないのは、波動によって暴走し、本人の意思に関わらず敵対行動を取るため。

 逆に言えば、どんなに強力なスキルを保有していても、暴走していなければ戦う必要はないのだ。


 その上、あの弱さだ。

 正直、あんなのは手品レベルである。ビックリ超人としてバラエティ番組に出ていても違和感がない。


 結果として大した被害もなく、婆さんの記憶を消す程度で終わったものの……。


「……この拍子抜け感よ」

「……うん」


 フェアルも知らなかったようだ。波動で分かるのはスキル名と発動されたことぐらいで、どの程度の実力かは大抵検討がつかないらしい。

 だから、誰も責めることはできない。


「ご、ごめんね? これからは私も頑張って、暴走の判別くらいはできるようになるから」

「そうだな。回収が急ぎかどうかさえ分かれば楽になるし。精神的に」


 昨日あんな激戦があったばかりということもあって、若干寿命が縮んだような気分だ。フェアルも同じような心境だろう。


 俺は大きく息を吐き出すと、学校までの道のりを戻ることにした。

 今日の回収はギリギリ放課後に発覚したので、目立つことにはならなかった。鞄や荷物が置きっぱなしなので、それを取りに行く程度である。


「しかし肝の据わった婆さんだったな」

「全然動じてなかったね。もっと慌てるものだと思うけど……」

「しかもあんな歳で煙草吸うなんて……大丈夫か? あの人の肺」


 いろいろとどうでもいいことに気を揉まれる回収活動だった。

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