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スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第2章 日常と非日常
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第18話 凶鞭を捕る

「リュウト! フェアル!」


 コルトが、次元に開けた穴を通り『反世界(アンチワールド)』に駆け付けた。


 フェアルが送っていた、スキル『会話魔法(トークマジック)』の伝令で戦闘の開始を知ると、傷の治療役としてすぐにここへ向かっていたのだ。

 その際には、相手側のスキルの強力さも報告されていた。


 仲間の姿を探す。が、視界に入ったのは舞い上がる土埃だった。

 その付近で同業者が目を見開いており、思わず土埃の中へ視線が戻る。


「……っふぅ」


 キラキラと、光の粒が散った。それ以外は煙しかない。安堵の溜め息がした方向を、細長い魔力の帯を辿って見ると、2つの人影が現れる。

 腹部に切り傷を作った幼い男の子と、短剣を振り抜いた体勢のスキルホルダー――竜斗だった。


「……ナ、ナイス判断」


 フェアルは力が抜け、地面にぺたんと座り込んだ。コルトも、取り敢えず安心する。


「あと一瞬、槍の『消滅』が遅れてたら、やばかった」


 激痛のショックで気を失って倒れる男児。同じタイミングで、竜斗も膝をついた。


「武器を消して、召喚し直すなんてね。すごい早業だったよ」

「どうやら辛勝したようですね。お疲れ様です」

「コルトか。良いところに」


 コルトはまず、男児に近付いて『中回復(ヒール)』をかける。傷自体はそれほど深くなく、すぐに治療に入れたので問題なく治っていく。


「しっかし……危なかった」

「うん。あんなに強いとは予想外だったよ」

「スキル回収は、本当に戦いなんだな」


 生死の境をさ迷う、とは程遠いが、死の存在を感じるレベルの怪我を負わされているのだ。

 この任務が命に関わることを思い知った竜斗は、中二病に突き動かされ、遊び半分で引き受けたことを自戒する。


 と同時に、自分にはまだまだ力が足りないことについても自覚していた。


「もっと、強くならないと」


 竜斗は右手の短剣に、自身の顔を映した。



 決意を固める横で、フェアルは男児から『魔源裂鞭(エナジーウィップ)』を回収する。それを眺めるコルトが呟いた。


「気がかりですね」

「何が?」


 男児の回復が終わり、竜斗の治療に移った彼は『中回復(ヒール)』の手を止めずに続ける。


「いくら今回はすぐに駆け付けられたと言っても、今後もこの時間帯になってしまうと厳しいものがあります。唐突な戦闘系スキルの発現は、これからも厄介になるでしょう」

「そこは割り切るしかないよねぇ。こればっかりは、運任せだから」


 対応が後手後手になってしまう上、回収対象の人数も予想がつかないのだ。妖精達は歯噛みする。


「私の方でも担当しているとはいえ、高校生のみでは時間の都合が悪いですしね」

「? どういうことだ?」


 フェアルとコルトが目を合わせ、「あ」と声を揃えた。


「そういえば言ってなかった」

「私も紹介していませんでした。リュウト。実は貴方以外にも、この町には戦闘系スキルホルダーがいるのですよ」

「え、マジで!?」

「はい。与孤島南高等学校2年……つまりリュウトと同い年の男の子です。機会があれば会うことにしましょう」


 仲間の存在に驚くと共に、同年代ということでワクワクする竜斗であった。


「戦友……同い年の戦友か……! タッグバトルもあったりするのかな~」

「……それでリュウト、学校は?」

「あぁっ!? すっかり忘れてた! うーわめんどくせぇ……」


 しかし頭から抜け落ちていた面倒事を思い出し、げんなりしながら急いで戻る準備をする。


「た、大変ですね……」


 依頼した側であるコルトは申し訳なさを感じるも、応援するしかできなかった。




――――――――――




 意外にも、俺へのお咎めはなしだった。


 事情が事情(ガスの元栓閉め忘れ)だけに、「火事になる前で良かった」、「次からは気を付けてね」程度の注意と、古典の授業未出席だけで済んだのだ。

 おっとり御柴先生のおかげである。


 ただ。


「シロぉ~。シロん家って、オール電化だったよねぇ~?」

「ガスなんて使わないはずだよなぁ~?」

「……」


 教室にて、ニヤニヤしながら詰め寄る奏介と鈴音。顔面の引きつる俺。


 白木家の台所を知る幼馴染の2人は、あの嘘を即行で見抜いていた。

 さらに俺の黒歴史を掘り返す者として、今日のあの奇行は格好のネタであった。


「すぐ戻ってきたということはただのサボリじゃないだろ~?」

「まともな言い訳を考えてたとなるとー、何か怪しいことでもしてたんじゃな~い?」

「後々騒動になるような? うーわー! 竜斗キュンってば大胆~っ!」

「……頼むから、他の奴らには聞こえないようにしてくれ」


 密かなものとはいえ、クラスメイトの好奇の目は堪える。

 このままでは問い詰める2人の会話が盗み聞きされるだろう。誤解を広めるわけにはいかない。


「俺だってあんなことはしたくなかったんだよ! でも、理由があって、仕方なく」

「どんなどんな~?」

「それは……」


 言えない。

 一般人は巻き込みたくないというのが大前提のスキル回収だ。中二病とか関係なく、こいつらには隠さねばならない。


「すまん。お前らでも、それは言えねぇんだ。詮索もしないでくれねぇか?」

「またまたぁ~! そうやってシロはいっつも……」


 茶化そうとする鈴音を真っ直ぐに見つめる。

 一瞬目を見張ったかと思うと、優しい微笑みを作った。


「……こんなに真剣なシロ、久しぶりに見たね」

「ああ。一体何に首を突っ込んでるのやら」


 奏介も、やれやれといった風に溜め息をついた。見過ごしてくれるらしい。


 普段は容赦ないからかいが止まらないが、本気をぶつければ分かってくれる。こいつらはそういう奴だ。


「また同じ状況になっても庇ってくれよ……」

「次があるの!?」

「ほんとに真面目な話なんだよな……?」


 中二病の疑いは残るのか。そこは信じてくれよっ!


「……でも、ね?」


 げんなりした俺を眺めると、鈴音はくてんと小首を傾げてきた。ポニテがさらりと流れる。


「たとえシロがあの頃の状態に戻っちゃったとしても、きっとシロの本質は変わらないよ」

「え?」

「そうそう。何だかんだ言って、めんどくさがりってのも矛盾してくるしな~」

「は?」


 鈴音と奏介が顔を見合わせてニコニコしている。

 つまり何が言いたいんだ?


「だから……安心してシロを中二病ネタでいじれるってわけ!」

「そこに帰着するのかよ! もうちょっと俺に優しくしてくれ!」


 結局、俺をからかいたいだけの幼馴染でした。


「……思い出さなかったね」

「ああ。こいつの鈍感は筋金入りだからな」


 と思ったら、2人はどこか残念そうに呟いた。


「あん? 思い出さない?」


 俺に何かを思い出させたがっていたようだが、ついにそれが何なのかは分からなかった。


「ふふっ。やっぱりねぇ。……でもシロは、それで良いんだよっ!」


 あの鈴音を、ここまで真っ直ぐで魅力的な笑顔にさせるような行動など、特に記憶がなかったのである。

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