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スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第2章 日常と非日常
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第15話 回収任務は唐突に

 運良く席替えで手に入れた、2-B教室の一番後ろ、窓際の席。俺はそこで、机に広げられた教科書の上に突っ伏していた。今日はかなり眠い。だるい。


 その原因は言うまでもない。昨日の特訓のせいだ。


 最初にやっていたブロードソード、ダガー辺りまでは、まぁまともだった。だがクレイモアからハイな気分になってしまい、調子に乗って大量の武器を召喚、試運転していたので、心身共に大変疲れた。


 しかも夜になっても興奮は収まらず、体力作りの神社登りまで敢行。石階段全力登り降りによるこの筋肉痛は必然であった。


 多少は強くなっただろうが、疲労が大きくて後悔しかない。

 テンションを上げないとは誓えないが、今度からなるべく抑えるよう努力しよう。


 しかし本当に眠い。昨日は爆睡したはずだが、まだまだ眠り足りない。


 今日は朝一番から、眠くなる授業第1位(奏介調べ)の古典だ。というのも、古典教師があの御柴先生だからだ。

 喋るのは先生だけであるため、しっとりとした雰囲気でクラス全体が早々にお休みモード。奏介は既に気持ち良さそうに寝息を立てているし、鈴音もうつらうつらとしている。


 静かで春の陽気に満ちたこの教室。さらに身体に残っている疲労感。

 ああ、もうこれは、睡魔に身を任せるしか──



「──たっ、大変だよリュウトぉ~~!!」

「ぶはっ!?」



 突然教室に現れた妖精の大声に、俺の沈みかけていた意識が急浮上どころか天を衝く。


 何でフェアルが!? というか人前に出るなよ!


「何してんだお前! どうして学校に来ちゃってんだ!?」

「だって大変なことが──って」


 黒板の辺りでいきなり動きを止めたフェアルは、何故か申し訳なさそうに、こちらに苦笑いしてきた。


「……あーあ、そっちも大変なことになっちゃったね」

「へ? ……あ」


 そこで気付く。

 妖精は基本、スキルホルダーにしか感じ取れない。だからあんな風に騒いでも、一般人には物音すら聞こえない。


 だがそこで俺が反応し、声を荒げてしまったら、どうなるか。


「「「…………」」」


 答えは簡単。全員の注目が俺に集まる、でした。


 御柴先生や真面目に授業を受けていた生徒はもちろん、ウトウトしていた奴らも目覚め、こちらに訝しげな視線を向けてくる。


 ……や、やっちまった!

 今の俺は、授業中の静寂を破って発狂し、意味不明の言葉を叫ぶ、ただのキ○ガイ。


 そして、あの頃(・・・)の記憶が――


「……すいません、変な夢見てました」


 黒歴史を振り払い、教壇に立つ御柴先生に向かって告げる。俺はただ寝ぼけていただけなのだ、と。


「ど、堂々と居眠り宣言をするのもどうかと思うけどぉ……?」


 今回こそ寝ていないが、毎授業眠くなるのはあんたのせいだからな!? もうちょっと周りの生徒に目を配ってみ!?


「はい、以後気を付けます……」


 などと反抗することもできないので、おとなしく引っ込んでおく。


 言及されることはなかったが、周囲の視線が痛い。角の席なので、チラチラニヤニヤと盗み見てくるクラスメイトが全て把握できてしまう。


「……俺を貶めるのが目的か、この羽虫」

「ひどっ!? こ、こっちだって理由があるんだもん!」


 いつの間にか俺の机に辿り着いていた元凶に、誰にも聞かれぬよう小声で罵った。


「妖精の目的なんてどうせイタズラだろうよ」

「違うもん! 現れたんだって、スキルホルダーが!」

「!」


 それを聞き、フェアルの緊迫具合がやっと理解できた。

 スキルホルダーの出現が分かったということは、もう発動されているということ。与孤島町のどこかで混乱が起きているかもしれないのだ。


 机に顔を伏せ、フェアルを横目で見る。


「戦闘系か?」

「じゃないと呼びに来ないよ! ほら早く!」

「え? 今!?」


 絶賛授業中である。なのにここから抜け出して、スキル回収に行けと!?


「いやいや無理だろ! どうやってサボるんだよ!」

「そこは何とかして! スキルで不祥事が起きたら面倒なの! 『記憶消去(メモリーデリート)』も疲れるんだから」

「じゃあ今ここで『次元転移(ディメンションシフト)』すれば……!」

「そんなことしたら、突然リュウトが光って消えることになるよ」

「……いと悪しきことなり」


 それこそスキルの不祥事だ。

 ここはやはり、普通に俺が出ていくしかないのか?


「頼むよリュウト、町を救うんでしょ……?」

「ぐっ……」


 あまり目立つようなことはしたくない。が、背に腹は変えられないか……。


「あぁもう、くっそ!」


 俺は意を決し、勢いよく立ち上がって教室を出ていく。


「えっ!? ちょっと白木君!?」

「すんません先生! 家のガスの元栓閉め忘れてましたわー!」


 誰かに止められる前に走り去る。


 一人暮らしだから誰にも真偽は分からない。我ながら上手い言い訳を思い付いたものだ。

 後で色々と言われるだろうが。ああ、帰ってくるのが怖い……。




 廊下を駆け抜け、遂に学校を出た。どこも授業中ということもあってか、一人として教師に出くわさなかったのは運が良かった。

 けど。


「はぁ。今頃どうなってんだか……」

「泣き言言わないのっ」


 とはいっても、昼間は学校にいることを考えると、この先も同じ展開になることが予想される。多分、逃れられない。

 俺は町の中心部を走りながら首を振った。


「やっぱり気軽に引き受けるんじゃなかったかなぁ~? 面倒だなぁ~」

「今さらやめるだなんて言わないでよね!? 大事な使命なんだから!」

「お、おう」


 冗談半分で口にしただけだったが、フェアルの叱責には怒気も含まれていた。

 この俺がスキルのある生活を止めるなんてありえねぇのにな!


「この回収任務の命令も、王女様から直々に言われたものなの! 私に恥かかせないでよねっ!」


 そういえばスキルは、こいつが心酔する王女さん達が管理していたものだったな。

 とある事情、とか言っていたが、スキルが世界中に散らばった原因は気になるところだ。


「なぁフェアル。今さらだけど、スキルがばら撒かれた原因は何なんだ? その王女さんにあるのか?」

「!」


 スキルの管理の中心は王女さんだったらしいから、順当に考えるとそうなる。

 でも、部下にここまで褒め称えられ慕われる人物が、そんな失態を晒すものだろうか。


「……まぁ、そうなっちゃうよね……」

「へ?」


 すると途端に、フェアルのテンションが地の底まで落ちた。「ずーん」という擬態語まで聞こえてきそうである。


「お、おい、どうした?」

「本当は違うんだよぉ……。別に王女様の力不足じゃなくて私達がしっかりしてなかったせいでというかそもそも王女様が責任を負う必要なんかなくて私達が罰されるべきであって」

「ちょっ、とにかく落ち着け!」


 取り乱しようが尋常じゃない。

 飛ぶ羽の動きも止まり、ついには地面に落下した。そういう「落ち着く」じゃない!


「スキル回収に行くんだろ? 間に合わなくなったらどうする!」

「はっ! そうだ。私には失敗してられないんだ! 王女様ぁ~!」


 ぱっと起き上がると、再びスキルホルダーの元へと飛び立った。一瞬立ち止まった俺もまた走り出す。


「忙しいやつだなぁ……。ついていくこっちの身にもなってくれよ」


 げんなりと、溜め息を吐く。

 これからは心労の多い日々になりそうだ。

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