第14話 いざ特訓
「はっ! ふっ!」
俺は、変わってしまった町を駆け抜けていた。
右手には、命を刈り取る刃が握られている。時々、柄の感触を確かめながら、少ない隙で振り回す。
奴らの姿はない。が、現れた時の為の今だ。一部たりとも力を抜く気はない。
変わってしまったと言えど、見覚えのある風景だ。次第に慣れてきた俺は次の段階へいく。
足場を地面から石塀、屋根へと移していく。
「フッ。素晴らしい景色だ」
視界が開ける。直にこの感覚も必須になるだろう。
町の家屋を渡って走ることで、この異空間の風も感じやすくなった。少々身体のバランスが悪くなるも、ダガーの扱いには幅が生まれる。
「さぁ、まだまだ――」
「ちょっとリュウトー、いろいろ暴走してきてない~?」
空気を読まない妖精である。
「……全く。せっかく楽しくなってきたのに」
俺は溜め息をつき、屋根の上から飛び下りた。
着地し、身体の調子を軽く確認する。問題はないみたいなので、もう少し自分の限界に挑戦してみたいものだ。
「はぁ。帰ってくるなり突然『反世界』を出してなんて言ってきた時は、どうしたのかと思ったよ」
ここは反物質で作られた与孤島町。俺が帰宅してからフェアルに頼んだものだ。
そしてダガーナイフを召喚し、向上した身体能力で町中を飛び回っている。
理由は簡単。特訓だ。
「図書室に『戦コーナー』ってのがあったんだよ。期間限定で、戦争や近接格闘についての専門書を置いておくコーナー。そこを利用したんだよ」
「なかなか危ない本を紹介するんだね学校は……」
仕事の後、俺はそこに置いてあった『武器大全集』、『世界の剣術』他、様々な『武器召喚』に役立ちそうなものを借りておいた。
そして周りに被害を与えないよう、こうして『反世界』の中で試しているのである。
「短剣のイメトレはこんなもんか。『消滅』」
唱えるだけでアラ不思議。握っていた武器が一瞬にして消えました。
これが召喚系統の武器に共通する召還方法らしい。便利だ。
続いて俺は懐から、ハンドブックの『武器大全集』を取り出し、パラパラとめくる。
「長剣、短剣とくれば、次は当然……大剣!」
俺は最初から目をつけていたページを開き、その両手剣のデザインを記憶する。
『武器大全集』をしまい、胸の前に腕を出し、あの有名な大剣を幻視する。
「フフフ、ではゆこうではないか。……『武器召喚』、『クレイモア』!」
大量の光の粒が現れ、手の中に集まる。ゆっくりと象られていく刀身はこれまでで最も強い存在感を放つ。
ブロードソードより遥かに長い刃。斜め上に伸びた鍔。その両端に生まれる、4つずつ、計8つの小さなリング。
やがて召喚されたクレイモアは、ずしりと両手に収まった。
「おおお、これがクレイモア! 何という圧倒感……!」
「……テンション高いね」
やはりブロードソードに比べると、召喚に少々時間がかかり、重くて振り回すスピードも遅くなる。
しかし一撃の威力がかなり上がるだろうということも、ただ持っているだけで伝わってきた。
「……試してみてぇな」
好奇心のまま、俺は傍にあった街路樹に狙いを定めた。反物質で作られた灰色の模造品だが、中身はきちんと詰まっている。
軽くクレイモアを構え、振り抜く。
ズバンと刃が通った。
「わっ!?」
「おおっ」
クレイモアの通過に一拍遅れて、切断された街路樹が、派手な音を上げて地面に落下する。
真っ二つだ。もちろん剣に抵抗はあったが、案外簡単に斬れるものだな。
「……すごいね。まさかこんな業物を召喚できるなんて」
フェアルがぽかんと口を開けている。
俺としてはそれほど偉業を成したようには思えないのだが、妖精の反応が一番正しいのだろう。
しかしそれならば、俺には結構才能があるということではなかろうか……!?
「フフフ、怖いか? 世界水準軽く超えてる俺のクレイモアにかかりゃ、斬れねぇものは何一つねぇッ!」
『反世界』に壊しちゃダメなものなんてない。俺は町を駆け回り、たまに飛び上がりながら、街路樹や石塀、木造家屋などを次々と試し斬りしていく。
何という破壊力……感動だ! 木製のものならほとんどが斬れるし、石塀も壊せる!
「フハハハハハ! 見よこの剣術! この身体能力! これこそが選ばれし者の真の実力……天才の覚醒せし力だッ!」
「リ、リュウトサーン!? その破壊衝動は大分危険ですよぉ~っ!?」
実際にある・あった武器ならば、全てを使うことができる。
その有能性に、改めて喜びを感じる俺であった。
「あああああスキル楽しいいいいい!」
「誰か止めてこの中二病~~っ!」




