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スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第2章 日常と非日常
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第13話 職権濫用!恐怖の図書委員会

「はぁあっ!? 何で俺が!?」

「良いじゃないか。どうせお前は部活にも入っていないんだから」


 去年に引き続き俺のクラスの担任になった、桜田(さくらだ)優子(ゆうこ)。名前とは裏腹に、勝気で男勝りな性格の英語教師だ。

 そんな彼女に、俺はLHRで抗議していた。


「誰も立候補しないからって帰宅部に図書委員を押し付けるのはどうかと思う!」

「他に決めようがないんだよ。観念してくれ」

「ほら、推薦とか! できそうな人を挙げてもらって……!」

「竜斗君が良いと思いまーす」

「奏介コノヤロォーー!」


 この裏切り者め……。いや、最初から味方ではなかったということか。


 図書委員会は面倒な業務の数々に追われるため、基本的に不人気だ。このように、俺が諦めるまでクラスは沈黙を貫く。

 桜田先生は気だるげに足を組んだ。


「それに考えてもみろ。下手に推薦なんかしたら、後でいろいろと揉めるだろ? そうならないためにも、犠牲は必要なんだ」

「俺の人権は!? あまりにも横暴だ!」

「めんどくさいなぁ……。私は早く帰りたいんだ」


 おい本音が出たぞこの教師! 俺が言うのもなんだが、やる気ゼロか!


「ちっ。だから三十路になっても独り身な――っだぁ!?」

「白木ぃ……。大人の恋愛に首突っ込むんじゃないよ。命は惜しいだろう……?」


 チョークショットが額に炸裂した。桜田先生の額には青筋があった。

 本当にこの人は、男の経験と引き換えに体罰の種類は豊富なんだから……。


「……オイ白木、今失礼なことを考えなかったか?」

「いえ何も」


 ゆらりと幽霊の如くこちらを見つめた後、一旦落ち着いた桜田先生は大きな溜め息をついた。


「とにかく、図書委員はお前な。賛成の人は拍手~」

「ちょっ」


 満場一致の拍手喝采である。


 自分が免れたことに喜ぶ者、俺の境遇を嘲笑う者、どうでもいいから早く終わらせてくれと興味なさげな者。

 表情はそれぞれだが、俺に味方はいなかった。


「ま、まぁまぁ! どんまいシロ!」


 ……一応これは味方に入るのか?

 ちょっとだけ救われるも、結局は落胆しか残らない7時間目だった。




 その日の放課後から、早速図書委員会の仕事があった。憂鬱だがやるしかない。


 俺の担当は、主に返却された本を棚に戻す作業だった。

 本の貸し出しをするカウンター業務だといろいろ手続きが大変だが、こちらは割と単純だ。所定の本棚に返却図書を収めていくだけ。難しいことは考えずに作業できた。


 だが図書室は広く、小説、伝記、図鑑、参考書、新書……と様々なジャンルの本が所狭しと並べられている。そのため足は常に動いており、なかなか忙しかった。


「ごめんねぇ~、初日から仕事いっぱいで。前年度のが残っちゃってて」

「い、いえ。問題ないっすよ」


 吐き出したくなる愚痴を飲み込む。この人に罪はないからな。


 図書室の司書である御柴(みしば)秋穂(あきほ)先生は、うちのクラスの国語教師でもある。


 御柴先生は垂れ目で優しげな雰囲気を持つ、おっとり系の人だ。包容力があり、密かに憧れている男子生徒も少なくない。

 ただ、見た目通りの柔らかな声のせいで、授業では毎回尋常じゃない睡魔を生み出し、多くの生徒を深い眠りに誘っている(無自覚)のが唯一の欠点だ。


 その御柴先生もぱたぱたと動き回り、他の図書委員も大変そうだ。

 俺だけ与えられた仕事を放棄するわけにもいかないので、仕方なく真面目に働いている。


「お?」


 そのため、俺がそのコーナーを見つけられたのは、至極自然な流れだった。

 目に留まったものからしばらく物色。口元が緩んでいるのに気が付いたのは、何分か経ってからだった。


 それも当然か。ここにある本は、趣味に合うというか、俺にとって実用的なのである。


「後で借りるか」


 大量の返却図書を抱えながらも、俺の声は意外に弾んでいた。



 しかしそのコーナーに夢中で、背後の人の気配に気付けなかった。


「あ、すんませ……――!」


 振り向き様に塞いでいた通路を空けた瞬間、俺は面食らった。


 胸元にあったその女子のボブカットが、純然と輝く銀色だったからだ。


「…………」


 目も合わせずに通り過ぎていく彼女は、やがて図書室の奥へと消えていった。


 驚きはしたが、俺はあいつを知っている。

 進藤(しんどう)理奈(りな)という女子生徒だ。桜田先生と一緒で、1、2年と同じクラスの人間である。


 性格は、良く言えばクール、悪く言えば超根暗だ。

 誰かと仲良く、いや普通に喋っているところすら見たことがなく、進藤の声も記憶にない。無論笑っている顔もだ。


 ずっと1人で、無口で無表情で無愛想。言葉にすると酷い評価だが、実際こんな風だ。


 しかし、何故銀髪にしているのだろうか。

 生活態度は良くむしろ模範生に近い。髪を染めるようなやつには思えないのだ。

 校則が緩いせいか教師も何も言わないし……。謎である。


 そういえば、図書委員はあいつがピッタリだったんじゃねぇか?

 休み時間はいつも本を読んでいるし、図書の業務を黙々とこなせそうなイメージがある。司書とか似合いそう。


 この仕事は、図書室と縁のない俺なんかよりも本に親しんでいる者がやるべきなんだよ。うん。


「おっと。こんなことを考えてる暇じゃねぇな」


 まだ作業は残っている。非常に面倒だが、全て片して、さっき目星をつけた本を借りて家に帰ろう。

 そして帰宅後は……ククク、楽しみだ。


 俺は次の棚へと足早に向かうのであった。

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