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スキルホルダー  作者: 角地かよ。(旧:VIX)
第2章 日常と非日常
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第12話 集合、いつもの4人

 昼時にしては薄暗い階段を上る。それもそのはず、ここには窓が全然ないのだ。

 すぐ校舎の外に出るので、作る必要がないからである。


「戦闘系以外、ねぇ……」


 しかし、大興奮だった初日とは打って変わって、昨日は残念な一日だった。

 戦闘系よりも下らないスキルの方が多くて、おまけに俺は待機なんて、必要ないじゃん!


 そんな不満を紛らわす意味も含めて、俺は午前中の入学式の時間を、召喚する武器の妄想で潰していた。

 武器名やイラスト、立ち回りに至るまで細かく脳内に展開。中2の頃を思い出したりもしたが、あの時とは違い、今は実現可能だ。


「クックック……次の戦闘も暴れまくってやる……!」


 一人決意を新たにしたところで、鉄製の重厚な扉の前まで来た。

 俺は躊躇なくドアノブを捻り、開ける。その瞬間、柔らかな春の空気が俺を出迎えた。


「あ、来た来た。竜斗君」

「……やっぱ違和感ある。琴音(ことね)のブレザー姿」

「えへへ。そう?」


 大月琴音。俺らの1コ下で、何を隠そう鈴音の妹である。

 姉とは対照的でおとなしく控えめ。周囲への心配りを欠かさない優しいやつだ。


 性格は真逆だが、少し小柄で髪型がウェーブロングという点を除けば、容姿は鈴音とすごく似ている。つまるところこちらもモテるのだ。

 近所では美人姉妹と言われ、おまけに兄や弟までイケメンという始末。大月家どうなってんだ。


 昨日までは歳の違いで琴音はいなかったが、今日からはまた同じ学舎だ。小中学校の頃と同様に、毎日この幼馴染メンバー4人で登校することになる。


「もーシロ遅いよ!」

「後輩より遅いってどういうことだぁ~?」

「はいはいうるせーぞ」


 軽くあしらいながら、奏介、鈴音、琴音の輪の中に入る。


「竜斗君のことだから、ツナマヨにするか筋子にするかで迷ってたんでしょ?」

「む。よく分かったな……」

「北高の購買は品揃えが良いって聞いてたからね」


 俺は右手に握っていた、大きく「筋子」とプリントされたおにぎりを開封。かぶりつくと、パリッという音と共に、香ばしい海苔の香りが鼻を抜けた。


 琴音、というかこいつらは、たまに恐ろしいまでの洞察力を発揮して心の中を見透かしてくる。流石は幼馴染といったところか。


「つーか、自然とこの4人で集まったけど、琴音は教室抜けて大丈夫だったのか?」


 ただでさえ引っ込み思案な琴音が、入学初日で女子のグループに入れなかったら、友達を作るチャンスを失いそうで怖いんだが。


「え、えっと……」

「まだクラスの雰囲気が固いんだって。みんな、探り探りになってるのかも」

「華の高校生とは言っても、1年生は不安だろうからな」


 こくりと頷く琴音。


 地元の人間が多い与孤島町の高校で、そうぎこちない空気になることはないと思うが。

 まぁ、何だかんだで全員と仲良くなれるのが琴音だから、問題ないのだろう。


「でも良いところだね、この屋上」


 春の心地好い風が通り抜ける。日差しもぽかぽかと暖かかった。

 この1年で鈴音や奏介との溜まり場になった屋上は、広く静かで見晴らしも良い。素晴らしい開放感だ。


「だろ~? 屋上は中学じゃ完全に閉鎖されてたからな。ここは俺らだけのオアシスだ!」

「「俺らだけ」? 他の人は使ってないの?」


 自慢気に言う奏介を見て、鈴音は苦笑いする。


「……実はね。そーちゃん、屋上を管理してる先生と裏で繋がってて、こっそり鍵を貸してもらってるんだって」

「えっ」

「フッフッフ。教師の欲に漬け込むのも、案外簡単なのだよ」


 悪人の目である。毎度思うが、恐ろしい奴だ。

 すると鈴音が、弁当箱の中身をつつきながらジト目を向けた。


「でも、あんまり酷いことはしないでよ? 屋上の開放は私達にとっても嬉しいけどさ、前なんか、他の男子と一緒に女子更衣室覗こうとしてたじゃん」


 同じ弁当箱を持った琴音が目を丸くする。


「そ、奏介君、それは……」

「いや冗談に決まってるだろ!? ほんとに覗きなんてしたら停学モノだし! 何より俺は、女子に本気で嫌がられることはしない主義だ!」


 焦って言い訳をしたように見えるが、実際こいつは、やって良いことと悪いことの線引きをちゃんとしている。それぐらい俺らは分かっている。


「弁明してくれ竜斗! お前もあの話聞いてたよな!」

「……ああ。「俺のカメラを使え」って言葉を、な……」

「ちょっとぉおおお!?」


 それでもいじってしまうのは癖なのだろう。ああ、何ともどうしようもないものだなぁ。


 しかし、大月姉妹の目がガチで蔑んでいるように見えるが……。


「そ、そういえば、今年の新入生にも美少女がいっぱいいたなぁ~!」

「その娘達を撮ろうっていうの? そーちゃん」

「ぐふっ!?」


 誤爆。墓穴を掘ったな。

 しかし、さらに険しさを増した鈴音の目が深い闇を湛えている……。マジになるな鈴音よ。


「ちがっ、そうじゃなくてだな! 今年も全体的にクオリティ高いのに、1、2を争ってるのは琴音なんだよなって!」

「へ? 私?」

「ああ! さっきの入学式で全学年の男子生徒の視線を追ってみたところ、約6割が琴音の姿を捉え、うち半数以上が見惚れていた」


 相変わらずの情報収集力だ。式中に何百人という男子の視線を把握するとか人間業じゃない。


「へ~。すごいじゃん琴音! 高校でも早速モテモテだよ!」

「奏介君、う、腕を上げたね……」

「ファンクラブにも少しずつ入隊希望者が来てるから、北高の美女五傑に選ばれるのもそう遠くはないはずだ」

「琴音と一緒? やったねー!」


 今では鈴音も美女五傑の座に慣れたようだな。そのことを鼻にかけないのも、人気の一因なのだろう。

 ただ、琴音はそんな事実に少々驚いていたようだが。


「うぅ……竜斗君……。私のいない間にどんどん知らない世界が広がってたよ……主に奏介君のせいで」


 ヘルプが来た。2人に比べてあまり騒がしくない俺に頼ってくるのは当然だろう。

 しかし。


「……いずれ、貴様もこの(よわい)の混沌に沈みゆくであろう……」

「竜斗君は中二病治ったと思ったら高二病になってた~!」

「む、待て琴音! 高二病は中二病とは違い、むしろ真逆の特徴を意味する病気で――」


 勘違いされがちだが、高二でも中二病に、中二でも高二病になりえる。

 そこんところ説明せねばな――!

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