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お花の冠

作者: 鴇-toki

 しんしんと空から天使たちが舞い降りて街を白く染めていった。人々が深い眠りにつき、夢を見ているころ、大きく丸い月が白銀の世界を照らし、あたりは幻想的な景色を生み出していた。うっすらと積もった雪には1つの影と足跡がこちらに向っていた。


 ***


 ここは笑顔の咲く楽園。沈むことのない太陽と枯れることのない草木や花々があたりを埋め、彩っていた。どこからかそよ風がやってくるとさわさわと音を立てて喜びをあらわしていた。

 ここに棲まうは天使たち。穏やかな笑みを浮かべて草花に水をやったり、きのみの収穫をしたりとのんびりと過ごしていた。

 ある時のこと。影はやってきた。

 楽園は少し驚き、強い風が吹いた。だがそれはすぐに消えると、穏やかな風に変わった。

 影の背にはたくさんの雪が積もっていた。体は震えており、立っていることもつらそうであった。

 少し時間が経つと背に積もる雪は溶け、一匹の大きな金の毛並みを持つ犬が姿をあらわした。楽園に満ちる暖かい空気は大きな犬を包むと天使たちが近寄ってきて犬の毛並みを整えた。

「ようこそ、笑顔の咲く楽園へ。わたしたちはあなたを歓迎します」

 透き通る声で一人の天使が言うと花々は花弁を散らしながらあたりを舞った。

 大きな犬は楽しそうに「わん」と応えると大きく飛び上がり喜びを表現した。

「あなたは、あなたの棲まう街が明るくなる前には帰らなければなりません。それまではここでごゆっくりとおくつろぎくださいませ。穏やかな時間はあなたを癒すでしょう」

 大きな犬はまた「わん」と応えあたりを走り出すと、天使たちもそれぞれに散り自分の時間を過ごした。

 ここにお客が来るのは珍しいことであるため、興味津々に大きな犬についていく天使があった。

「そこのお犬さん、待っておくれよ」

 大きな犬は立ち止まると声のする方を向いて行儀よくお座りをした。

「お犬さん、わたしはここにお客さんが来るのをみたのが初めてなのさ。ここでの時間はとてもゆっくりと流れてる。ちょいとお喋りでもしてみないかい?」

 と言うと、天使は大きな木の根元を指さした。

「あそこなら誰もいないしとても落ち着くんだ。わたしのお気に入りの場所だよ」

 と言うとそこに向かって歩き出した。大きな犬もそれに続いた。

 木の根元の周りは芝生になっていてとてもやわらかく、風に揺られてさわさわと音を立てている。

 天使は根元に腰かけると

「あなたも自分の楽な体制にするといいよ」

 と言った。大きな犬は天使の近くに横になると、大きな瞳で天使を見た。

「うん、それで大丈夫だよ。わたしはあなたをどうするというわけではないからね。そんなに心配しなくて平気だよ」

 大きな犬はそれを聞くと安心したように目を細めた。

「ところで、あなたはどうしてここにやってきたの?」

 天使が聞くと「くぅん」と大きな犬は地面に目を落とした。

「ここは誰もいないよ。何があったのかを思えば伝わるから」

 と優しく言う。大きな犬はもう一度「くぅん」と言うと、顔を上げて天使を見た。天使は柔らかい笑みを浮かべて同意を示しながら頷いた。何度も何度も。

「あなたは飼い主の女の子が本当に大好きなのね。もうすぐ女の子のお誕生日だから何かプレゼントをしたいのね。わたしは大賛成よ。そうね・・・・・・、どんなものをプレゼントしたら喜んでもらえるかで悩んでいるのね」

 大きな犬はまた目を伏せるがまたすぐに顔を上げて「わんわん」と天使に話しかける。

「ここにあるお花を詰んで冠にできないか、って?なるほど、とても良い考えね!可愛らしい冠を作って女の子を喜ばせましょう!ここにあるお花は枯れないお花よ。冠は女の子にとって一生の宝物となるわ。・・・・・・そうだ、あなたは女の子との思い出を思い出しながらお花を詰んでみてはくれないかい?なぜ、って?それはお楽しみだよ」

 天使は楽しそうに笑った。

 大きな犬は女の子との楽しい思い出を思い浮かべながらお花を詰んだ。天使はそれを受け取ると、オルゴールの音のように柔らかい声で歌いながらお花を繋げていった。

 強い風が吹いた。

 風は大きな犬の帰る時間を知らせていた。

「あなたはもう帰る時間ね。素敵なプレゼントだから女の子もきっと喜ぶと思うよ」

 天使の言葉を聞くと、大きな犬は「わん」と言い「ありがとう」を伝えた。

 大きな犬は明るくなりはじめた街で、お花の冠を大切に運んだ。


 ***


「お誕生日おめでとう!!」


 クラッカーの音が盛大に響きわたると誕生日の歌を家族みんなで歌った。歌が終わると女の子はケーキに並べられたろうそくを吹き消した。お祝いする家族の中にはもちろん大きな犬の姿もあった。

 食事を済ませると、女の子はお父さんとお母さんからプレゼントを受け取った。女の子はとても嬉しそうな顔をしていた。

 大きな犬は女の子に近付いて「わんわん」と声をかけると女の子はしゃがんで大きな犬と同じくらいの高さになった。

「わあ!素敵なお花の冠ね!私にくれるの?」

 と女の子が言うと、大きな犬は首を縦に振りしっぽを大きく振った。

「ありがとう!」

 と女の子が言うと大きな犬は女の子の頭にお花の冠を丁寧に乗せた。

「とても素敵ね・・・・・・。あなたとの思い出がたくさん浮かんでくるわ。一緒にお散歩に行ったり、公園で遊んだり、寒い日は一緒の布団で眠ったり・・・・・・、色んなことをしたね。今日はとても良い誕生日だわ。ありがとう」

 女の子は涙を流していた。笑顔で涙を流していた。あの天使が言っていたように、このお花の冠は女の子にとって一生の宝物になると思うし、かけがえのないものとなる気がした。

 窓の外はしんしんと天使が舞い降りている。真っ白な心を映し出しながら、部屋の中の暖かさと女の子の温もりで大きな犬は眠りについた。

寒い日が続くとどうにもぬくもりが恋しくなりますね。

プレゼントというのはどんなものでももらえると嬉しいですよね。大切なのは気持ちだと思いますね。という思いから書いた作品です。

あなたの心をほっこりと温められたら幸いです。

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