【番外編1】 その後の二人・前編
エロ方面で初っ端からR15な感じです。苦手な人はご注意ください。
「ヴィルト、くっつきすぎだと思うんだけど」
「しかたないだろ。離れてた分がまだ足りないんだよ。ほらあーん」
現在私はヴィルトの膝の間に座らされ、食事を食べさせられている。
この世界に帰ってきてすでに5日。
ヴィルトはひたすらにこんな調子で、恋人っぽいというか甘い。
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元の世界から、塔の屋上に転送されて後、ヴィルトは私を自分の部屋に運び入れた。
今まで離れていた分を取り戻すように、私達はふたりっきりで甘い時を過ごしていた。
ひとときも離れずに眠って、目が覚めたら昼だった。ヴィルトに誘われるまま、私は部屋に備え付けられたお風呂に入った。
この世界はトキビトの影響で、お風呂が発展している。
こっちに来た当初、私はそれに感動したのけど、部屋にお風呂が付いているのはさすがに珍しい。
以前はヴィルトの部屋に、風呂なんてついていなかった。
この風呂が設置されたのは、ヴィルトが帰る2カ月とちょっとくらい前の事。
ヴィルトから部屋を改築して欲しいと手紙がきた。
屋敷を取り仕切っている私が、その指揮をとることになったのだけれど、その指示内容を見て、心からマズイなと思った。
部屋の広さは、隣にある私の部屋を潰して2倍に。
ベッドは1人用からキングサイズに。
部屋の中に、風呂とトイレをつけて欲しい。
内装は私が過ごしやすいよう、好きなようにしていい。
――これ、自室を新居にして、私と一緒に過ごすつもりよね?
探偵じゃなくてもわかってしまうような、あからさまな目論見に、私は戸惑った。
「これでは私の部屋がなくなってしまいます!」
私はすぐに、この屋敷の主であり、ヴィルトの父であるバティスト家の当主に訴えた。
「ヴィルトと一緒の部屋だけじゃ、足りないのかい? もちろんミサキちゃんがもう1つ部屋が別に欲しいというなら、用意するよ?」
彼の中ではナチュラルに、私がヴィルトと同じ部屋に住むという前提で話が進んでいた。
「そうではなくて、なんで私がヴィルトと一緒の部屋に住むことになってるんですかということを、私は言いたいんです!」
「だって、部屋の行き来面倒でしょ? ヴィルトが家にいた時、ミサキはほとんど自分の部屋を使わなかったじゃない」
抗議する私に、こっちの方がいいと思うけどと、バティスト夫人は首をかしげる始末。
確かに私は幼い頃から、ヴィルトの部屋に入り浸っていた。
けれどあれは、ヴィルトが一人じゃ寝られないとかだだをこねるからだ。
私から行っていたわけじゃないと一応言っておく。
それに、今は子供じゃなくてお互い大人だ。
同じ部屋はおかしいと主張したのだけど、結局聞き入れてはもらえなくて、ヴィルトのわがままが通った。
バティスト夫妻は私とヴィルトは1セットだと思っていて、ヴィルトにかなり甘い。
ヴィルトが誰かと結婚した後も、私がヴィルトの世話を焼くのだと、夫妻は思っていそうだった。
けれどまさか、こんなことになってしまうなんて2人は予想していただろうか。
ヴィルトにはいいところのお嬢さんをと、誰よりも口にしていたのは私だった。
なのに、その私がヴィルトの将来の選択肢を潰してしまったのだ。
2人に対して、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
今までお世話になったのに、勝手にいなくなって、勝手に戻ってきて。
帰ってきて5日も経っているのに、顔も見せない。
なんという恩知らずだろうかと思う。
しかし、言い訳もさせて欲しい。
本当は帰ってきてすぐ、挨拶しに行くつもりでいた。
けれど、お風呂に入っていたら、ヴィルトが後から入ってきて――それどころじゃなくなってしまったのだ。
そして疲れて寝てしまい、起きたらもう朝陽が昇っていて。
よし今日こそはと思ったら、また同じことの繰り返し。
昼は昼で、夜は夜で体力は根こそぎヴィルトに奪われてしまい、彼氏いない暦プラスアルファだった私が、こんな恐ろしく爛れた生活を生活をしてるなんて、自分でもありえないと思う。
ご飯は運び込まれてくるし、何もしなくてもヴィルトが全部やってくれる。
耳元で甘く囁かれて、爪の先まで砂糖漬けにされそうなほどに、ヴィルトに心も体も蕩かされて。
このままじゃ、知らないうちに、ヴィルトがいないと何もできない子にされてしまいそうだった。
というか、なんでヴィルトは元気なんだろう。
私はこんなにぐったりしてるというのに、いつもよりも生き生きしている。
そもそも、あんな――エロい子に育てた覚えは無い。
ヴィルトいわく、これも全部私がずっと我慢させてきたせいとか言ってたけど、そんなことはないと思う。
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「さてと、いい加減に外にでますか」
ヴィルトが用事があるからと、部屋を出てしまった今がチャンスだ。
幸い体力も回復してきたので、ベッドから起き上がる。
しかし問題は、今の私の服装だ。
裸にヴィルトのシャツを羽織っただけという、頼りないものだった。
着ていた制服は、洗濯に出すからとヴィルトに取り上げられてしまった。
まともな服をくれと頼んだのだけど、どうせ脱ぐからいいだろと応じてもらえなかった。
服が欲しいなら、使用人の棟にいかなくてはならない。
部屋を潰された私は、仲のよいメイドに無理を言って、彼女の部屋にお世話になっていた。
この格好で外に出るのはかなり躊躇われるけれど、この機会をのがせば、しばらくここに閉じこめられる気がした。
逃げないと言っているのに、ヴィルトは不安でしかたないらしい。
一度私が逃げた事は、ヴィルトの中にしこりとして残ってしまっているみただった。
まぁわからないでもないけれど。
扉を開けて外に出ようと、取っ手に手を伸ばす。
「あれ?」
開かない。
外側から、鍵がかかっているようだった。
ヴィルトの注文に文句を付けながらも、部屋を作る指揮をとったのは私だ。
だからわかる。
この部屋に、本来外鍵はつけられていなかった。
ならばと思って窓を開ければ、格子付きだった。
こんな外の風景を阻害するようなもの、私は付けるよう指示した覚えはない。
どうやら私がいない間に、ヴィルトはこの部屋を鳥籠のように改造していたようだ。
そういえば、微妙に内装も違うのよねと、ふと思う。
クローゼットは、もう少し深みのある色だったし、壁紙に関しては全く違う。
何より気になるのは、新品だったはずのベッドに刻まれた傷だった。
私がいない間に、強盗でも入ったんだろうか。
のどかな場所だし、屋敷の警備はしっかりしているので、あまりピンとこない。
しかし、ヴィルトが何も言ってくれないのでわからなかった。
「はぁ」
鍵を開けるのをあきらめて、ベッドに寝転がる。
――これって私、監禁されてるんだよね。
元の世界から帰るのを拒んだ場合、ヴィルトは無理やりに私さらって、私をここに閉じ込めておくつもりだったんだろうと思う。
ちゃんと側にいると約束したんだから、今の私には必要ないのに。
信頼されてないなと思うよりも、そこまで必要としてくれてるんだと嬉しくなる私は、脳みそがどうかしている。
閉じ込められて、悪い気がしていないなんておかしい。
――ヴィルトは私に執着してくれている。
ここまでして、私を留めておきたいんだ。
そう思うと、心がくすぐったくなる。
愛情表現されていると感じること自体が、もうヴィルトに毒されてしまっているいい証拠だった。
3/13 微修正しました。
★2016/10/2 読みやすいよう、校正しました。