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【7】同じ時を刻む

 目を開けば、そこにはヴィルトがいた。

 すやすやと寝息を立てている。

 少し目を上に向ければ、初めてであった時と同じ青空。

 ここは塔の上のようだ。


 頬を撫でる風に、戻ってきたんだという気持ちになる。

 自分の胸を見れば時計はなく、ヴィルトの胸にも時計はない。

 私はもうトキビトじゃなくなったんだと、感覚でわかった。


 胸の奥にいつも留まっていた、しこりのようなものがない。

 後ろを振り返ったり、立ち止まったりするよりも、ヴィルトと一緒に進む選択をしたからだと思う。

 立ち上がろうとして、ヴィルトに手を握られていることに気づいた。

 ずっと離さないでいてくれたんだと嬉しくなる。

 

 顔を覗き込む。

 やっぱり、子供の頃とは大分変わってしまったけれど、あの頃の面影があった。

 幼い弟のように思っていたのに、いつの間にこんなに男っぽくなってしまったのだろうと思う。


 あんなキスとかしてきたりして。

 まだまだ子供だと思っていたのに、私の方がいつの間にか追い越されてしまったような気分になる。

 かと思えば、こっちがどんなにうじうじ悩んでいると、そんなのどうだっていいとばかりに子供のような純粋さをぶつけてくる。


「本当、ヴィルトには敵わないや」

 自然にそんな言葉が口をついて出て。

 愛しさがこみ上げてきた。


「大好きだよ、ヴィルト。たぶん、最初から惹かれてた」

 言葉にすれば、それが真実だと思えた。

 誰よりも私を必要としてくれて、私に応えてくれた。

 私が欲しかったものを、惜しげもなく差し出してくれた。


 だから、私は帰れなくなった。

 ここにいる理由なんて、最初からヴィルト以外になかったのだ。


 私は素直じゃなくて、自分に自信がなくて。

 傷つくのが嫌で逃げまくっていた。

 認めてしまえば、物凄くこの青空のようにすっきりとした気分になった。


 好きだという気持ちを肯定して、まだすやすやと寝ているヴィルトを見れば、むくむくと悪戯心がうずいてくる。

「ちょっとくらい、いいよね」

 私ばかりやられっぱなしだったのだから、これくらい許されるはずだ。

 そんなことを思い、軽く唇にキスをする。


 少し硬くて私とは違う唇。

 キスなんて前もしたのに、自分からと思うと妙に照れくさくてドキドキした。

「あのさ。そういう事は、俺が起きてるときにしろよ」

「む、ぐぅ!?」

 ぐいっと手を引かれ、無理やりに唇を舌でこじ開けられる。

 

「ずるい、寝たふりなんて……」

 一通り口の中を蹂躙じゅうりんしてから、ようやくヴィルトは私を解放してくれた。

「ずるいのはミサキだろ。人の寝込みを襲うなんてさ」

 いかがわしい言い方をしながらも、ヴィルトはとても嬉しそうだった。

 ぐるりと体の位置を入れ替えられ、私が床に押し倒される。


 指を絡めてきたヴィルトは、何かに気づいたように私の左手を見た。

「これ、俺があげた指輪? 捨てたはずなのに、なんで持ってるんだよ」

「そ、それは……」

 言いよどむ私に、にやにやとヴィルトが顔を覗き込んでくる。


「指輪捨てたら勿体無いし」

「これ安物の玩具だろ。しかも俺、湖の中に捨てたよな。もしかしなくても、わざわざ捜したんだ?」

「……だって、ヴィルトがくれた指輪だから。捨てられるわけないでしょ」

 小さな声で呟けば、ヴィルトが苦しくなるくらいに抱きついてきた。


「あー本当、ミサキはずるいよな。俺、ミサキが逃げ出したこと、まだ怒ってたのに。こんな風にされたら、どうでもよくなってくる」

 抑えきれないというように、ヴィルトは私に啄ばむような口付けをしてきた。


「もう、ヴィルトってば!」

「はいはい、わかったって」

 ちょっとたしなめると、ヴィルトは立ち上がり、私を立たせてくれた。


「なぁ、ちゃんとあの時の返事、今教えてくれよ」

 手をにぎって、ヴィルトが尋ねてくる。

 真摯な瞳に見つめられて、私は覚悟を決めた。


「……私も、ヴィルトが好き。何も持ってないし、美人でもないし、お嬢様でもないけど。私もヴィルトを幸せにできるよう努力するから。だから、ヴィルトのお嫁さんにしてください」

 ゆっくりとたどたどしく、言葉を紡ぐ。

 恥ずかしくて、ヴィルトの顔は見れなかった。


 しばらくしても反応がなくて、不安になる。

 顔をあげてヴィルトを見れば、手で口元を覆っている。耳まで赤かった。


「……」

「えっと、ヴィルト?」

 散々好きだと告白してきて、キスしたり、それ以上も仕掛けてこようときたくせに、その初心な反応は何なんだろう。

 ヴィルトは顔を見られたくなかったのか、私に背を向けた。


「やばい……今最高に幸せかも」

 回り込んで覗いたヴィルトの顔は、我慢できないというように緩んでいて。

 こんな私の言葉で、こんなに喜んでくれたのかと思ったら愛おしくてしかたなかった。

 それは破壊力を伴って、私の心を鷲づかみにする。


 ヴィルトは私の手を取ると、玩具の指輪にキスをしてくる。

「俺もミサキが好きだ。出会った日から、惹かれてた。小さい頃から、ミサキは俺の嫁にするって決めてた。もうどこにも行かせない……愛してるからな」

 なんて嬉しそうな顔をするんだろう。

 そんな風にされてしまうと、こっちまで嬉しくなって、照れてしまう。


 止まっていた心は、もう動き出して。

 私はヴィルトと一緒に、時を重ねていく。

 喧嘩することもあるだろうし、悩むこともあると思う。

 それでもヴィルトとなら、きっとどうにかなると思えるのだ。


 立ち止まったり、振り返ったり。

 うじうじ悩んだって、先へと進める。

 そう思えた。

 読んでくれてありがとうございます。

 後ろ向きに全力疾走するヒロインが書きたかったのと、オネショタ小説に影響されて書いてみたんですが、出来上がったらあまりオネショタじゃありませんでした。

 あと、ヴィルトがキス魔ですいません。


※10/3の感想欄にて質問があったので、トキビトに関する設定を追記しました。7話の補足のような感じになっています。気になる方はどうぞ。

3/13 誤字等微修正しました。

★2016/10/2 読みやすいよう、校正しました。

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「男装令嬢は身代わりの兄に恋をする」シリーズ第4弾。ヘタレお兄さん×男装令嬢。
こちらのキャラも登場してるので、よければどうぞ。
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