卒業後の歩み
「ちょっと早く着いちまったな……」
腕時計の時間を確認する。
集合は6時30分だが、6時に着いてしまった。
ラインで一応連絡を取ってみる。
KAWASAKI:着いた
YOSHIDA:早いなww
KAWASAKI:急いで出てきたから……
YOSHIDA:あと数分かかる。もう少し待っとけ
やつはまだここには到着できていないらしい。
本でも読んで待ってるか。
しおりを挟んだ部分を開き、俺は暇をつぶし始めた。
「………内容が入ってこない」
アドレナリンが分泌され続けているのか、内容がまったく入ってこない。
この感覚は、修学旅行の日のそれに近い。
でも、学校でどこかに出かけるわけではない。
もっと個人的な、何気ないことで行くのだ。
「……………わくわくしてんだなぁ、俺」
改めて、自分の気分の高揚具合に、なぜか自分が驚いていた。
俺は運動会とか、修学旅行とか、昔から楽しみで寝られないタイプだった。
でも、もう19にもなろう男が、こんなことではしゃいでていいものなのか。
おかげで今日も寝不足だが。
YOSHITA:着いた
KAWASAKI:よし来い。すぐ来い。
とりあえず、俺はやつを急かした。
別に急かそうが急かさまいが、結局のところは変わらないのだが。
YOSHIDA:急かすなやww出発時刻は7:30だろww
そう、俺たちは今日、飛行機に乗るのだ。
日本よりも南にある、南国の王国に向かう。
そこには俺たちとは離れて生活を送っている友人が住んでいるのだ。
「あいつ……元気かなぁ」
卒業式の前日に、急に引っ越すなんて言ったときは驚いたものだが、世界は小さいんだな。
なんてわけのわからないことを考えていると。
「おまたせ」
「遅い」
「お前が早すぎるんだよ」
いつも通りの見慣れた顔。
同じ高校を卒業し、バラバラになるのかと思ったら、まさか大学まで同じという結果。
こいつとは腐れ縁なのかな、なんてことを大学に入って思っていた。
「さ、搭乗手続き早いうちに済ませちまおう」
「お前もだいぶわくわくしてんな…」
こいつも俺と同じように、時間が待ちきれない様子だ。
何せ、初めての海外だ。
ただ海外に観光にいくわけではないにしろ、わくわくしないわけない。
「当たり前だろ。向こうであいつも待ってくれてんだから、早く行こうぜ」
「ああ、そうだな」
俺たちは、日本を離れるのだ。
「うわっ、あつっ」
日本はまだ冬。
寒い風が吹き荒れるというのに、ここは春のような暖かさだった。
日本もこれくらいの気温だったら過ごしやすいのに。
「半袖でも十分なくらいだな…、こりゃ」
「そういえば、ここからどうやってあいつの家まで行くんだよ」
「あいつが車で迎えに来てくれるらしい」
この国は18歳で成人になり、車の免許が取れる。
俺はまだ仮免だが、やつはこっちに来てからすぐに免許を取ったらしい。
「とりあえず、あいつから連絡が来るのを待とうぜ」
「そうだな……」
あいつの姿は、俺たちが思い浮かぶのはまだ日本にいたころの制服姿。
少し天然なところがあるが、空気の読めるいいやつだった。
転校をつげたときに、その日がお別れ会になったのも、やつの友人の多さ、そして性格の良さだろう。
「ラインが来た。『もうすぐ着く』だってよ」
「にしても、日本車多いな……」
あまり言いたくはないが、この国は日本のような先進国ではない。
発展のしてない未開の国というわけじゃないし、都市はかなり整備されているが、日本とは違った空気がある国だった。
それでも、日本車が多いという、割とどうでもいいことはすぐに発見した。
「現地語の看板も多いな…、こりゃ、あいつの言語力が試される場面だな」
この国は、英語と現地民族語が公用語だ。
そのため、俺たちは、今待っている友人の通訳が必要になるのだ。
「『到着』って来てる」
「どこだろう?」
周囲を見渡すが、日本人は見かけない。
日本人とは違う民族が住んでいるこの国で、外国人であるはずの日本人だが、見当たらない。
「どこにいるんだよ」
「俺だよ」
そこには、肌がいい感じに焼けた、どう見たってこの国の人だろう人物がいる。
が、麦わら帽子をかぶっているため、顔は見えない。
「えっ、マジ…!?」
「そうだよ!ほら!」
しかし、顔を見て俺たちは一瞬で分かった。
一瞬にして、一緒に過ごしてきたあいつの顔が浮かび上がった。
顔つきは変わらない。
雰囲気がだいぶ変わって、『こっちの人』っぽくなってはいるが。
「久しぶりだな」
「…ああ。そうだな」
しかし、俺たちは自然と、あのころに戻っていた。
雰囲気が変わったように感じたのは一瞬だった。
結局、本人の気質は永遠に変わるものじゃないのだ。
『三つ子の魂百まで』なんて、昔の人はうまいこと言ったものだ。
俺たちは笑いあった。
まるで高校生だったときのように。
いつの間にか俺らの心は、高校生に戻っていたのだった。
離れてしまった歩幅が、再び戻るときなんて、いつのことはは分からない。
こういう風にすぐに会えるかもしれないし、数年たったあとになったかもしれない。
なんだっていいのだ。
会えた時、再び、その時のことを懐かしみ、思い出せるのだから。
半分くらい作者の実話が入ってます。