師走の月 Ⅱ①
「ん…」
そんなに熟睡していたわけでもないのに、捺の身体はまるで鉛のように重かった。
いつの間にか日もすっかり落ち、白かった部屋の壁や床は、まるで灰を被ったかのように一面が灰色に染まっている。
昔は夜に、少し物音がしただけで自分以外のナニかが部屋にいるような、そんな気がしてならなかったのに、今ではこの静けさが逆に心地が良いものになっていた。
別に昼間が嫌いと言うことではないけれど、人の気配が少なくなる夜には、昼間はあまり気にもとめない些細なことが言葉となって捺の中に入ってくる。
それは風に揺れる窓だったり、一秒一秒時を刻む時計の針だったり。
カタカタカタ─────“ねぇ、あそぼう”
チクタクチクタク───“忙しい、忙しい”
……この部屋が完全に夜の静けさに包まれた時、今日は一体どんな声が聞こえるのだろう。
そんなことを考えながら、スタンドの電気を点けようとした瞬間。備え付けの棚に若干の違和感を感じて、捺は棚の上の方へと視線を滑らせて─────驚いた。
大小異なった大きさの花が、小さなバスケットに入ってちょこんと棚の上に置いてある。
可愛らしい絹のリボンがバスケットに編み込まれ、小さいながらも十分見応えのあるものだった。
────でも、一体誰が?幼い頃からこの病院でしかろくな生活を送ったことがない捺にとって、学校に通うことは疎か、ましてや友人を作ることなど出来るはずがなかった。
10年以上もの間、人との交流をまともにしてこなかった人間に、花を贈る人なんて果たしているのだろうか?
少し考えてみるも当然、思い当たる人物は出てこない。
治療費を稼ぐために、共働きをしている両親からもここ数ヶ月は連絡が一切なく。唯一付き合いの長い三波からも先日、クリスマスプレゼントと称したテディベアの手作りブランケットを貰っていた。
そもそも、この病院は見舞いの品に関する規制が厳しく、中でも花などの類は多くの場合持ち込み自体が禁止とされているわけで。
そう考えれば、ますます花を贈った人物が誰だか検討がつかなくなってきた。




