師走の月 Ⅰ
──────また、冬がやって来た。
時間が過ぎるのはあっという間のことだって、皆がみんな、口を揃えて同じことを言う。新しい季節を感じて、新しい出逢いがあって、そんなことを常日頃から体感している人だからこそ言えることなんだと、捺はその言葉を聞く度にいつも思った。
………外の世界なんて、考えるだけ無駄なこと。何を願って、感じた所で今更この状態からどうこうなるとは思えない。
捺は“その時”が来るのを白いベッドの上でじっと待っていた。流れるような時の中で、未練なんてこれっぽっちも残っていない。
─────余命宣告わずか二年。
小早川 捺にとって人生とはただの空虚な時間でしかなかった。
「捺ちゃん、点滴取り替えるわね」
その呼びかけに捺はぼんやりと閉じかけていた瞼を開いた。カチャカチャと頭上で点滴を交換しているであろう看護士は大方検討がつく。
「…三波さん。もう、それ必要ないよ」
捺の担当である三波とはもう十年以上の付き合いになる。彼女の変わらない仕事に対する誠実さと謙虚な性格は病棟内でも人気が高い。
そんな彼女が未だに自分の担当であることが捺にとって唯一、気にかかることだった。
「…捺ちゃん、まだ時間はあるわ」
「ううん。時間なんてもう関係ないの。私の余命はもう決まったことだから。三波さんも知ってるでしょ?」
「えぇ。それは…十分過ぎるくらい分かっているわ。でもね、捺ちゃん。今村先生は今でも決して諦めたりしていないのよ?」
「……」
主治医の今村が余命宣告を受けた後にも関わらず、必死になって治療法に励んでいたことは勿論知っている。
でも、その姿を見る度、否応無しに死が確実に近づいてくるようで、捺は尚更自分の存在が虚しくなっていくのを感じていた。
「とにかくね。今は自分自身を大切にしなきゃ。言っちゃうと、捺ちゃんと一度プライベートでお出掛けするって言うのが私の夢なんだから」
「夢って…随分大袈裟な夢だね」
「それだけ、私が捺ちゃんと一緒にいたいってこと」
病室を出る間際でそう言った三波の表情は眩しいくらいの笑顔。
「…うん。ありがとう」
こういう所で、彼女の素直さは胸に痛い。
若干の罪悪感が身体の中でグルグルするのを押し込めるかのように捺は再びキツく眼を閉じた。
────心の隅で永遠の眠りを期待して。




