始まりの魔王
私達の戦いの始まりは、今から遡る事千年前に始まる。その当時、秘境の地で平穏に暮らしていた私達の国。そこに突如、私達とは似ても似つかぬ「化け物達」が現れ、次々と土地やそこに住む住民を制圧して行き、私達を恐怖に慄かせた。
「化け物達」は次第に「魔族」と呼ばれる様になり、勢力を徐々に拡大させていった。
そいつらと徹底して抗戦した私達だが、幾分戦力の差が在り過ぎた。中でも彼らが恐れたのは、その種族の中でも一際大柄で鋭い眼付きをした者だった。そいつは身の寸を超える大剣で、大勢の戦闘兵達を切り伏せ、その姿は常に返り血で真紅に染まっていて、その様から、『魔王』と呼び恐れたという。
『魔王』によって絶滅の危機に瀕した我等の祖先は、何とか救いを求めるべく、当時の我等の王が『魔王』を打ち倒す有志を募った。最初は大勢の者が名を上げ『魔王』を倒そうと奮闘したようだが悉く敗れ去り、戦況は次第に不利になっていき、次第に我が種族の滅びの時を刻々と待つのみとなってしまった。
そんな、誰もが絶望に打ちひしがれる時だった。
「私が行きます。必ずや魔王を倒します」
そう声を上げた者が居た。その者こそ、私の祖先であり、後に我が一族の長となる男だった。男は過去に家族を、その数年後には恋人を相次いで『魔王』に殺され、それからというもの『魔王』を倒す力を得る事のみに心血を注いでいたという。
その甲斐あってか男は、これまで数万の軍勢でも歯が立たなかった魔族共を、孤立無援の状況にも拘らず見事に、押されていた戦況を押し返し、遂には魔王すらも葬ったと言う。
そして私達の世界は魔族共の手から守られ、一時的ながらも平和の時が訪れた。私の祖先は、この功績を称えられ、この名を授けられた。
『魔王』と対を成す、『勇者』という名を。
それから今に至るまで、数々の大戦があり、双方共に尋常ではない程の被害が出た。
ある戦いでは『魔王』を倒して平和を勝ち取ったが、またある戦いでは『勇者』が敗れ、築き上げた国を壊された。
栄えては衰退し、また栄えては衰退するという一進一退。けれどそれは魔族側も同様で、その様相は、まるで「繁栄」と「滅び」との間で「国」と「魔族」が互いに振り子の様に揺れている様だったと、今でも言い伝わっている。
徐々に疲弊し消耗していくのが分かるが、誰もその流れを止められる者は居なかった。いや、正確には居る。『魔王』。そして『勇者』の名を父から受け継いだ、私。
だから、だから私は――。
雨が、私の全身を覆い隠すかの様に降り注ぐ。目の前には、地に倒れ付した『魔王』が居る。私とは明らかに違う、淀んで濁んだ見慣れない色をした血が、雨によって地面一杯に広がっている。突き刺していた父から受け継いだ大剣を引き抜くと、まだ僅かばかり息がある『魔王』の息の根を止めるため、その元に歩み寄る。「くっ……」苦しげに顔を歪めて私を睨みつける『魔王』。剣を高く上げ、振り下ろす刹那にこう聞こえた。
「魔王っ! これで終わりだと思」
魔王の最期の言葉は私の剣によって永遠に閉ざされた。が、
(…………?)
確実にこいつは今私の事を『魔王』と言った。何を言っているのだか。『魔王』は他ならぬお前だろうに。『魔王』の最期の悪態に、苦笑いが自然と漏れる。ふいに、戦闘によって斬られた左腕が痛む。腕の傷から、雨の雫と共に流れ出す血を拭うと、小雨になって晴れ間が見えてきた空に向かって翳す。雲間から差してきた光は、青空にも似た清々しい程の青い血を輝かせるように照らしていた。
「父さん、やったよ……」
呟くと私は、首にかけてあった父の形見である角の欠片を、自然と握り締めていた。
(これで一つの区切りが付いたが、これはまだ始まりにしか過ぎない)
今度こそ、私は終わらせなければならない。私達が未来永劫生き続けるために。もう二度と、こんな戦いをしない為に。
滅ぼすのだ、必ず。『勇者』の名に誓って。
人間達を、必ず。
……と、いう訳で。
「訳わかんねーよゴルァ!!(#・д・)」って方が居ましたら、
それは本当に俺の筆力不足です、スイマセンm(‐‐)m