白石くん
「いや、絶対やめた方が良い。」
昼休み、中庭の日当たりの良いベンチに腰掛け弁当を食べる長谷部杏は友人鈴木玲にそう言い放った。
「えぇー!?だって、あの白石君だよ?いいじゃん!」
「あの女ったらしだけはやめときな。」
玲の恋愛相談に鬱陶しそうに言い返す。クラスの人にはまたかよ…と思われるこの会話。玲は恋バナが大好き。私以外にも色々な人に相談している。
…はい。違う話題がいいなあー。さっさと終了させて、こないだのサッカーの話題にうつらせてくれ。
私の心からの願いが通じたのかそれ以上は触れてこなかった。一瞬の沈黙。
「あっ!あと五分で昼休み終わりじゃん!ごめん、私トイレ行ってくる。先帰ってて!」
触れてこなかったのではなく、時間の確認をしたらしい。
ああ、終わっちゃったよ。せっかくの昼休み。走っていく玲を少し恨む。やがて自分のクラスへ戻ろうとベンチから立ち上がる。
「そんなに僕のこと嫌いですか?」
「……」
後ろから、背筋が凍りそうな冷たい声が聞こえた。しまった。
…この声は、白石。
振り返ってはダメだ。杏。前進しろ。脳に本能がそう語りかけ、前に出る。
「返事して下さいよ。」
さっきより声が近くで聞こえるのは気のせい?
「返事しないとキスしますよ?」
「はぁ!?」
「冗談ですよ」
イラッときて振り返る。整った顔が目の前にあった。
「…‼」
白石裕也。常に無表情なその顔は凄まじい程整った顔立ち。少し癖のある黒髪に女の子顔負けの美白。黒縁メガネに大きな黒目が特徴の澄んだ瞳にはどれだけの少女が落とされてきたか。
クラス、いや、学年一の美貌をもったこの美少年には様々な伝説がある。
キスすれば本命、生まれてから敬語以外で話したことはない、現在20股をしている…などなど数え切れない。
「なにボーッとしているのですか?そんなにカッコイイですか僕のことが。惚れちゃいましたか。」
無表情のまま彼がとんでもないことを言ってくる。
「うっさい。あんたみたいな人に惚れるわけないでしょ!生まれて一度も恋したことないんだから!そんな軽い女じゃありません!」
「恋したことがない。はあ。だからですか。なるほど。」
必死に言い返すが全く効果なし。それどころか、あげ足を取られた気がする。
キーンコーン…
「あっ!しまった!鐘がなっちゃったじゃん!!」
こんな奴にはかまってられない、教室に向けて全速力で走り出す。
もう!!
___
その時…
「…そろそろ始めますか」
そう呟かれていたとは知るはずもなく。
今晩は。m(_ _)m作者のウェンズデーです。
見てくださってありがとうございました。これからもノロノロ更新しますのでよろしくお願いします。