第1話:星が降る玉座
初めての小説で、ずっと書いてみたかったタイトルで内容で書きました。どうか勇者とその一味の今までの岐路を最後まで見ていってほしいです
世界で一番高い場所にあるはずの玉座の間は、天井がまるごと吹き飛んでいた。
肌を刺すような冷たい夜風が、血と焦げた魔力のひどい臭いを運んでいく。俺は、刃が半分欠けた聖剣を杖がわりにして、崩れた石畳になんとか膝をついていた。
「……はぁ、……はぁ……」
荒い息を吐くたび、白く濁った空気が夜空に吸い込まれていく。
ぼやける視界の端には、もうピクリとも動かない三人の姿があった。
すぐそばには、魔王の雷から俺を庇った剣士が倒れている。どんな攻撃も弾き返してきた大盾はひしゃげ、あいつの背丈ほどあった大剣も真っ二つに折れていた。最後まで俺を守るみたいに、玉座への道をその大きな背中で塞いだまま。
少し離れたところでは、魔法使いのローブが風でパタパタと鳴っている。魔王の絶対防御を破るため、自分の命すら魔力に変えた彼女の杖は、ただのくすんだ石ころ転がっていた。
そして、一番後ろ。俺の傷を最期まで癒やし続けてくれた僧侶は、両手を組んで祈るような姿勢のまま息絶えている。いつも真っ白だった彼女の法衣は、ひどく赤黒く染まりきっていた。
誰も、口を開かない。
さっきまで城を揺らしていた破壊の音も、鼓膜を破るような絶叫も、今はもう遠い昔のことみたいだった。
玉座の階段には、胸に聖剣の残骸を突き立てられた魔王が座っている。ずっと世界を絶望させてきたくせに、なんであんな満足げな顔で灰になっていったのか、今でもわからない。
「……勝った、ぞ」
掠れた声を出してみても、誰も答えてくれない。
世界を救ったというのに、歓声も歌もない。ただ、耳が痛くなるほどの静寂と、死の匂いだけがそこにあった。
俺は震える血塗れの手で、腰のポーチから小さな革袋を引っ張り出した。僧侶が「どうしても辛い夜の気休めにしてくださいね」と、こっそり持たせてくれた安物の果実酒だ。
泥だらけのコルクを歯で引き抜き、無理やり喉に流し込む。
味なんてまったくわからなかった。ただ、食道を焼くような嫌な熱さだけが、俺がまだ生き残ってしまっていることを残酷に教えてくれる。
痛覚はとうの昔に麻痺していた。脇腹のひどい傷から、とめどなく血が流れているのだけはわかる。
ふと見上げると、ずっと世界を覆っていた分厚い雲が晴れて、こぼれ落ちそうなほどの星空が広がっていた。
(なあ、みんな……)
心のなかで呼んでみる。
「湿っぽい顔すんなって!」と笑って背中を叩く剣士も、「本当に効率の悪い感傷ね」と呆れる魔法使いも、「大丈夫ですよ、私がいますから」と微笑む僧侶も。
今はもう、あの星よりも遠いところにいる。
意識が遠のいた。
血を流しすぎたのか、それとも張り詰めていた糸がプツリと切れたのか。冷たくて硬いはずの石畳が、なぜかあの日、四人で初めて囲んだ焚き火のそばの草地みたいに柔らかく感じられた。
ゆっくりと重い瞼を閉じる。
真っ暗になった視界の裏側で、ずっと押し殺していた記憶が溢れ出してきた。
最悪で、最高だった、あの大切な旅路の記憶が――。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
この物語は、魔王を倒した瞬間に「すべてを失ってしまった」勇者の回想録です。
最強の魔法も、伝説の武器も、命を賭けて守り抜いた世界も。
たった一人で玉座の間に残された彼にとっては、仲間と飲んだ「安酒」ほどの価値もなかったのかもしれませんね




