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地方商人の王都訪問  作者: 三日月 帆立


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王都訪問

 ついに王都に向かう狼娘。気を使われて乗車した馬車には赤ん坊を連れた母親が一人乗っていた。

18日間の道のりで栄養不足になりそうな予想をし、それは見事に的中した。彼女は無償で母親に栄養価の高い食料を分け与え、親交を深めた。どうやら服を作って王都に売りに行くようだ。

 この道のり何もなければよいのだが……

 あれから二日、家には武器からお酒まで運送業者が運び込みに来た。”スライム運送”の従業員がすべてを運び入れサインを求めて体内からペンと運搬証明木板を吐き出した。

「アズラ…っと。ありがと~」

 スライムにS品質の薬草をチップ代わりに運びに来た人数分渡した。彼らはスキップ(のように跳ねながら)コヨーテ宅を後にした。品目ごとに別のスクロールに入れ込んだ。すべて木簡に変換され、カラカラと地面に転がる。

「さ、予約時間だから行こうかな」

 馬車乗り場には王都に向かう馬車群が停留していた。5車に来た順で載せられていく。

「おっちゃん、予約の商人だよ」

「はいはい、商人はあんただけだからもはや本人確認も今回はいいよ。人が少ないほうがいいだろ?5番にまだ人を乗せてないから乗りな」

「さんきゅ。これあげるよ」

 チップで銀貨20枚が入った袋を渡して乗り込んだ。定刻になり先導役が笛を吹く。車列はゆっくりと進みだした。


 商人の乗った馬車は18日で村々を回りながら王都へ向かった。村で一夜を過ごすたびに、彼女は商品を増やしていった。特産品から武器屋の商品など、木簡にしているので物量は増えているが、外見では増えたようには見えていない。先導役がベルを激しく鳴らし、王都があと少しな事を全車に知らせる。

「さてさて降りる準備を…」

 先頭から突然ヒューという風切り音が鳴り、激しい爆裂音が空に響く。馬車の運転手が、

「敵襲!!」

 叫んだかと思うと馬車が急加速する。5号車にはアズラと赤ちゃんを連れた女性が乗っていたので彼女は素早く母親を荷車に伏せさせた。直後に布を矢が突き破り飛んで行く。赤ちゃんは突然の出来事に泣き叫ぶ。

「野郎ども! 赤子のいる馬車を狙え!」

 そっとアズラが顔を出すと後ろから馬に乗った弓騎兵が5騎迫ってきていた。馬車を引く馬と人一人しか載せていない馬の速度差は目に見えている。荷車を這って先頭に行き、騎手に彼女は話しかける。

「できるだけジグザグに逃げて! 私が応戦する!」

「は?! 商人だろあんた!」

「いいから! 死にたくないでしょ!」

「くっそ、信じるからな!」

 馬車が激しく左に動く。数秒置いて元の進路上に敵兵の放った矢が着弾した。アズラは武器の木簡をへし折り、異空間から鉄弓を取り出す。矢は持っていなかったが、馬車には護身用の訓練弓と矢が常備されている。訓練弓は王国の廉価品だが、矢はしっかりしたものが100本常備されているのを知っていた。彼女は伏せ状態から馬車が右に進路を変えた瞬間に姿を現し、弓を素早く構えて放った。その間わずか2秒であったが、矢は速度が乗り、戦闘で追いかけてきていた弓騎兵の首を撥ねた。

「おかあさん! このスクロール詠唱して!」

 床に伏せている女性に詠唱をお願いし、再び回避機動をとる瞬間に弓を構えて放つ。今度は敵兵も警戒していたのでわずかに兜をかすめただけであった。

「われらが信ずる主へ願う。われらへ悪意のある者の魔の手から我らを護りたまえ!」

 緑色の球状バリアが展開され弓騎兵が放った矢はすべて跳ね返された。

「防衛術式だと!?」

 驚いた兵士は目の前に迫る矢に気が付くことができず、こめかみを貫かれ力なく馬上から落ちた。逃げる馬車の反対から笛の音と、複数の馬のかける音がする。王国の街道警備隊が救援に来たのだ。

「くそっ! 撤退だ。逃げろ!」

 襲撃者は撤退し、街道警備隊の護衛の下。王都の正面門へ到着した。痛ましいことに、4号車は馬を射抜かれ転倒。乗客に死傷者が出ていた。

「救護班は急いで救護所へ運べ! …で、あんたが弓で応戦したやつか? 見たとこ商人だよな? 身分証を見せてくれ」

 正面門衛兵が手をずいっと出してくる。アズラは抵抗せず身分証を差し出し、自己紹介を始めた。

「私はコヨーテ商人のアズラという名前だ。馬車には始発点の村から乗っている。向こうじゃ”無駄に正直な商人”って呼ばれてるよ」

 身分証を見た商人はそれを聞いて何か納得する。

「そういう噂は聞き覚えがある。人間を食べない偏食の狼ってのはあんただろ?」

「はっ! そんな噂が立ってるのかい? 食べても構わないが育て親が人間なだけさ」

「まぁ商人ならこの免状を持っていけ。これを持ってれば万が一何かあっても俺らが身分を保障する」

「じゃあ衛兵さんには地方の特産品の肉を渡しておこうかな? 賄賂とかじゃなく助けられたからね。みんなで食べてくれるといいよ」

 兵士に笹で包まれた鹿肉を渡す。今王都では食糧が不足し始めているため、多めに買い込んできたのだ。しかし衛兵はそれを押し返す。

「民を飢えさせて我々だけ贅沢はできない。余ったら正式に詰め所に売りに来てくれ」

 衛兵の目はまっすぐと商人を信頼した目をしていた。それを見てアズラは、

「さすがな心掛けだ。でも、あんたらが空腹で倒れたら民を護る人間はいなくなる。売りつけてやるから食いなさいよ」

「…感謝する」

 狼娘は手を振ってその場を後にする。衛兵は深々と彼女が見えなくなるまで頭を下げた。兜の中は涙で溢れていた。

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