王都訪問準備
王都”ミカレスト”首都では戦時中の特別措置として商人の通行許可証を持っていれば多少の検問の撤廃をしている。少しでも多くの物資を国内に集めるために老院会で可決され、国王が直々に発布した。
人類が人口8割の王国ではあるが、この超法規的措置は種族を超えて発行された。そして地方で商人としてそこそこ有名なコヨーテの女がいた。発布から10日後に村へ来た兵士は早馬で不眠不休で知らせを届け、村の自警団に救護所へ運ばれた。コヨーテは聞いた措置が本当ならばと思い準備を始める。
まずは村はずれの老婆の家へ向かう。
「ばあさんいる?」
「開いてるよ~はいりな」
コヨーテが入るとちょうど調合を行う老婆が見える。
「シルシラばあさん前はありがとう。売り上げを置きに来たのと回復薬の調達に来たよ」
「あらぁアズラちゃん久しぶりぃ! この前のはそこの机に置いといて…今日はどうしたんだい?」
「王都が戦争激化で物資を求めていて他種族の通行を緩和している。今ならいろいろ売り込めるから行くんだ」
「そりゃあ凄いことになってるねぇ。こんな老いぼれの作る薬がそんなに必要かい?」
「ばあちゃんのおかげで村は疫病を乗り越えたんだから謙遜すんなって! 各色エリクサーあるだけもらっていきたい。倉庫のやつ全部、金貨500枚で」
革鞄から出した小袋は机にとんでもない音をして置かれる。それは、中身の金貨の重量を物語っていた。
「そんなにいらないんだけどねぇ、使い切れないから薬の素材にするよ。ありがとね」
シルシラ。この老婆は薬師でありながら、錬金術国家士2級を所持している。知っているのは国と、村のわずかな人間だけだ。
「じゃあ倉庫入らせてもらうよ。あと、気になった薬もいくつかもらうね」
2時間ほど物色をして物資運搬用のスクロールを使用し、異空間に薬を放り込む。空間への入り口が閉じると、木簡に品名が書かれて足元に落ちる。これを割ることで物品を空間から取り出すことができる仕組みだが、このスクロールもシルシラが開発したものである。倉庫に在庫があったのでありったけを鞄に詰め込んだ。
「じゃあばあちゃん、しばらく会えないけど死ぬなよ」
「まだ死ぬような年齢じゃないよ。ほっほっほ」
嘘つけ、もう98と人間にしては高齢であるのは間違いない。とは言え錬金術師は長命になることが世の常でありこの世界の常識だ。このやり取りは云わば孫(のような存在)と老婆のじゃれあいともいえるだろう。
次に町中の鍛冶屋を訪ねる。鍛冶屋”魔石の刃”にはドワーフの鍛冶職人が住んでおり、上質な武器を来店者に提供している。
「ドワさんちーす」
「あぁ? おう! アズラのちゃんねぇ! 聞いたぞ王都に行くってなぁ!」
「そうそう。で、」
「皆まで言うなって。何本だ?」
ドワーフの親父はにやりと笑う。手は金の形をしていた。
「剣を10本、鉄弓を5本」
「ほー! 言うねぇ! 2日で金貨368枚でどうだ」
アズラは革袋から金貨の束を出す。カウンターに100枚の袋を3袋と68枚を置いた。
「期限延長はしないからね。ま、ドワさんの腕は世界一だからいいけど」
「ぬかせぃ。 王都の鍛冶職人には劣るが負けねぇモン作ってやるよ」
鍛冶屋を後に次はバー”宿り木”へ足を運んだ。
「アウラウネさんこんばんは」
「あらいらっしゃい商人さん。飲んでいくの?」
「南国カクテルを一杯。あと商談したいからお姉さんにも一杯奢るよ」
「あら、じゃあ遠慮なく」
2杯分のカクテルを作り二人は乾杯する。昔からこのバーで商談するときはお互い酒の席ですると暗黙の了解がある。
「さてコヨーテさん? 何をお求めかしら」
「情報は入ってるくせに、王都に行くから手土産に地酒を持っていこうと思ってね。 エメラルドウォッカなんてどうかな」
「あらぁ高いわよ? 今年は良い果実でできた最高品質だもの」
「だからこそよ。言い値で買うわ。1本いくら?」
アルラウネは悩む。普段ふつうのお酒は取引するが高額酒をこの狼娘とトレードすることはない。数分考えてカクテルを一気に呷る。
「金貨1枚、銀貨500枚でどうかしら?」
「決まり。10本ほしいから金貨15枚でいいね」
今日のカクテルの銅貨62枚(2杯分)と金貨15枚をカウンターに置く。
「2日後に家にお願い。カクテル今日は隠し味に入ってた粒胡椒よかったよ」
「あら、さすがは舌がいいのね。準備しておくわ」
さて、バーを出たころにはすっかり夜が更けていた。自宅へ帰り、風呂に入った。狼である彼女の全身には触り心地の良い毛が生えており、それを丁寧に泡で包んでゆく。泡を洗い流し湯船につかりながら家で冷えていたお酒を片手に飲む。出発のために馬車の予約は早朝に行ったし、明日はゆっくり品物が届くのを待つことになるだろう。全て木簡に変換するため背中もさほど重くならないため気持ちも軽い…アルコールで寄っている気がする気も否めないが、今は熱い風呂にキンキンの酒を楽しもうではないか。
天井に向かい酒瓶を掲げる。
「商売の成功を祈って乾杯」




