転生!本当はこうする予定だった。
「山田〜、今日さ、せっかくだから駅のゲーセン行かない?」
放課後、クラスメイトに誘われた。よく誘ってくるヤツだ。
でも、正直めんどくさい。今はもう、帰って寝たい。
「えーっと……今日、家の用事あるから。また今度ね」
「また〜? いつも用事重なるよね。まあ、また誘うわ」
そう言って彼は笑った。軽く、気にしてない感じで。
けどさ……俺、一回も行ってないんだよね。
ゲーセンも、本屋も、カフェも。全部、断ってる。
理由はただひとつ。めんどくさいから。
そんな自分を「最低だ」って思ったことはある。
でも「本当は悪人なんじゃないか」と思うようになったのは、最近かもしれない。
俺の名前は山田拓也。中学二年生。成績はまあまあ。でも受験勉強始めたやつらよりは下。
人付き合いが苦手で、友達はいない。最後にできたのは小学生のとき。
中1では不登校になって、ネットに入り浸ってた。好きなものを調べまくって、動物とか自然とか、生き物のことばかり見てた。
そういえば、動物虐待を擁護してる投稿にキレ散らかして、過激なリプして炎上したこともあったっけな。
それくらい、俺は生き物の味方だ(つもりだった)。
……まあ、そんな俺が普通に学校に戻ってきてる今、ほんと奇跡だと思う。
「キーンコーンカーンコーン」
チャイムが鳴った。終学活が始まる。
「起立。気をつけ、礼」
日直と学級委員の声にあわせて、みんなが立ち、礼をする。
10分後、終学活が終わった。俺はカバンを持って速攻で下校した。
……の、はずだった。
「うわっ!?」
足を滑らせた。思ったより深い。
ズブッ……冷たい感触と同時に、景色がぐにゃりと歪む。
用水路だ。富山の農村部じゃ、命にかかわる危険ゾーン。
実際、年に100人くらいが落ちて亡くなるってニュースで見たことがある。
「だ、だれか、助け……ごぼっ、がっ、ぅ……」
水が肺に入る。苦しい。
もがいても、底の泥が足を絡めとる。視界が暗くなっていく。
ああ……俺、死ぬのか。
気がつくと、俺は川のほとりにいた。
川……というより、これは“例のやつ”だろう。
三途の川。
中1で調べたから知ってる。ここを渡ると、もう戻れない。
呆然としてると、目の前に現れたのは――
若い女だった。しかも角が生えてる。
「こんにちは〜。68代目の奪衣婆、ラヨ・エン=マネヴェです☆」
は?
奪衣婆って、おばあさんじゃなかったっけ?
「今はね、近代化してるから若いのよ。しかも服を脱がせるだけじゃなく、水着に着替えてもらう制度になったの」
「……は?」
「とりあえず、更衣室、入ってね?」
目の前に出現したのは……まさかの試着室。
そして中に入ると、そこには――
スク水。
一拍おいて、俺は心の中で叫んだ。
《なんでスク水なんだよッ!?》
「びっくりした? でもスク水って意外と性能いいのよ。ほら、男子はちょっと食い込むけど、我慢しなさい」
「……別のにしてください」
「はーい。じゃ、こっちは?」
次に出てきたのは――
ビキニ。しかもスカート付き。
そして、胸パッドまで用意されてる。
「なんでこうなるの?」
「食い込んでも見えないから安心でしょ♪」
そういう問題じゃねえ。
でももうどうでもよくなってきた。着た。パッドはつけなかった。
外に出ると、今度は角の生えた男が登場。
「わーったよ、わーったよ。74代目懸衣翁、垂枝真衡だ」
夫婦別姓かよ。
服を枝にかけると、夫婦(?)の会話が始まった。
「ちょっとたるんでるね」「まあ、渡らせとこ」
雑すぎない?
「じゃ、適当なところから川を渡って〜。橋はダメよ☆」
「おぅ、地獄に落ちるなよ」
なんなんだよもう。
川を渡ると、周囲は霧に包まれていた。
そして現れたのは――
「山田拓也よ。そなたの死因と、生前の行いを審査する」
不動明王。めっちゃ強そう。筋肉もりもり。炎の髪。
「死因は溺死。罪状は中程度。阿修羅が妥当。次へ」
早ッ!
そのあと、釈迦如来とかの裁判もスピード審査で進み、最終的に「阿修羅か畜生」ラインに入った。
でも、本番はここから。
「これより、冥界裁判を開廷する。被告、山田拓也!」
カーン!
裁判所の構造、どこかで見たことあると思ったら……東京地裁だこれ!
「閻魔様が気に入って再現したんすよ〜」とサングラスの鬼。
「言うなバカッ!!」と閻魔の顔が桃色に染まる。恥ずかしいんかい。
検察官が立ち上がる。
「被告・山田拓也は――
生前、他者との関わりを拒否し、SNS上では過激発言を繰り返し、さらには死後、スクール水着およびビキニ着用という不敬の罪を犯した!
よって、畜生道への直行を求刑します!」
ふざけんな、最後の二つ俺の意思じゃねえよ!
「では、自己弁護をどうぞ」
え、いきなり!? まあいい。やるしかない。
「俺は水着を着せられたんです!強制的に!SNSの件は反省してます!……たぶん」
すると、背後の“浄玻璃の鏡”が光り、嘘がないことが証明された。
「ふむ。票決に移ろう」
裁判官たちは次々に手札を掲げる。
畜生、地獄、餓鬼、阿修羅、阿修羅。
そして――閻魔は左右に「地獄」の札。
つまり、地獄決定。
おいおいおいおい!!
「待った!」
その声とともに、石のお地蔵さんが上から閻魔の頭に落ちた。
「いっっった!!」
さらに空をスーパーマンみたいに飛んでくる地蔵がもう一体。
出た、地蔵菩薩。
「この者は反省している。阿修羅道が妥当だ」
閻魔と論争が始まる。結果――
「じゃあ……生身で地球Bに送って善行積ませるってのは?」
「それでよい」
地蔵はそう言って、スーパーマンポーズのまま去っていった。
「被告、山田拓也。地球Bへの転生刑を執行する」
声が響く。次の瞬間――
目の前には、見知らぬ森が広がっていた。
……こうして俺の、ちょっとおかしな異世界ライフが始まった。