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 そこに座っていたのはイヴァンだ。少し離れて彼の護衛もいる。

 

 ――こんなところに。


 エメリアは、自分についてくれている騎士に待つよう合図をして、フレンを抱いたまま四阿に近づいた。


「……イヴァン殿下?」


 声をかけると小さな影が振り返った。

 そのまま、はっとしたように正装姿のイヴァンが立ち上がる。


「皇妃殿下!」

「……先ほどは失礼いたしました。ご無礼をお許しください。この子にはよく言って聞かせますので」


 フレンを抱いたまま頭を下げると、小さな王太子は慌てた。


「いえ、僕こそ招いていただいている立場で失礼いたしました。お見苦しいところを……」


 発端であるフレンはすやすや眠っている。

 その様子をイヴァンはちらりと見た。


「……王族に生まれた身で、こんなに無邪気に、母に甘えられる姿が羨ましくて……」


 その自嘲するような、苦しそうな表情を前に胸が詰まる。

 だから思わず聞いていた。


「お母様に、甘えられない状況なのですか?」

「……」

「あ、答えにくければそのままで」


 隣国の同盟国とはいえ、王族の内情はあまり話すべきではない。

 失言にあわあわしていると、イヴァンはエメリアを見てふと微笑んだ。


「……先ほど、挨拶をしている皇女殿下を手放しで褒めている貴女を見ました。羨ましいです」


 そうして少しだけ時間をかけて、イヴァンが口を開いた。


「父には、大勢の妃と子がいます。他の兄弟はまだ小さいですが……。僕は第一王子とはいえ立場は盤石ではありません。母は、それを心配しているのだと思います」


 慎重に言葉を選んで話す姿は、むしろいろいろなものをエメリアに伝えてくる。


 ――ああそうだ、原作のフレンと同じように、イヴァン殿下も……。


 与えられなかった愛に飢えているのだ。


 兄弟の数だけ政敵も多くなる。

 イヴァンの母は身分が低いため、どうしても立場は危うくなってしまう。暗殺未遂も起こっているはずだ。


 聡明な彼はすでに、誰にも隙を見せられないことを自覚している。


「殿下」


 エメリアはその場に膝をついた。

 立っているイヴァンとそれで目線がほとんど同じになる。

 戸惑う表情のイヴァンに、エメリアは微笑んだ。

 

「……では、この国にいる間は、僭越ながら私を母と思って甘えてください」

「皇妃殿下を? そ、そんなことできません!」

「できれば、殿下の力になりたいのです。フレンのためにも」

「皇女様の、ためにも……?」

「ええ」


 確信をもってうなずくが、まだイヴァンの顔はくもったまま。


「……甘え方が、わからないのです」


 彼はぽつりと呟いた。

 それは本当に途方に暮れている表情だった。

 子どもの身で、胸にそれだけの穴を抱えているのだ。


 それを癒すのは、フレンの役割。


 出会う前に死んでいるエメリアができることなど何もない。何もせず、彼をこのまま国に帰して、あと十数年を待つべきで――。


「失礼します」


 エメリアは、イヴァンの背中に手を回した。


 フレンを左腕、彼を右腕で抱きしめる。

 エメリアの腕の中におさまってしまう子どもたちは温かくて……ここに、確かに存在している。


 ――原作なんてどうでもいいわ! この二人は私が守る!


 どうしようなんて悠長に考えていた自分を恥じる。

 こんな寂しそうな子が目の前にいるのに、放っておけるはずがない。


「こ、皇妃殿下!?」

「……難しいことではありません。こうして抱き合って、わがままをいっぱい言ってくれればいいのですよ」

「一国の王太子がわがままなど言えるはずがありません」

「何故です。あなたは王太子である前に、五歳の子どもです」

「っ」

「悪いことをしたらもちろん叱ります。フレンにも、そうしていますから」


 ふふっと笑う。


「……」


 イヴァンは考え込むようにエメリアの腕の中で静かにしていた。


 そしてしばらくして、恐る恐る顔を上げた。


「……お菓子を」

「はい」

「明日、少し食べてもいいでしょうか…………舞踏会にあったものが、とてもおいしそうでした……」


 イヴァンは顔を真っ赤にして身を縮こまらせた。

 それを見てエメリアは言った。


「明日と言わず、今からお菓子パーティをしましょうか!」

「おかし!」


 夢現でその単語が聞こえたのか、腕の中のフレンが飛び起きた。

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