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25、いいこと、わるいこと

 ギルフォードは信用していると言ったが、やはり所在不明な時間があったことは尾を引いていた。


 騎士や女官たちがなんだかんだと警戒して、人目がある状況が続いている。


 それでもメレディスと二人で話す時間をつくって、気になること……具体的に、エメリアがどう死ぬのか聞いてみた。




『いえ……いつもならもう少しわかるのですが、エメリア様の未来はどうも流動的で……』

 問い掛ければ、頬に手を置いてメレディスはそう言って首を振った。

 


 ――未来、か。


 フレンを部屋で寝かしつけた後、エメリアは考えた。いつもなぜか自分の肩に乗っている埃妖精を撫でつつ。


 その言葉に一人の人物の心当たり浮かんでいた。

 正直に答えてくれるかわからないが、試してみる価値はあるかもしれない。


 翌朝、早速エメリアは目を覚ましたフレンに聞いてみた。


「フレン、前に妖精王様と話したと言っていた気がするのだけれど」

「はい!」

「……私も、お話しすることはできるかしら」


 フレンはきょとんとエメリアを見上げた。

 不審に思われないよう慌てて取り繕う。


「いつもフレンを助けてくれているから、お礼がしたくて」

「わかりました! 今呼びますね」

「今!?」


 さすが愛し子。祖父に連絡を取る孫のテンションである。一応、滅多に会えない伝説的存在のはずだが。


「ちょ、ちょっと待って」


 無礼がないようにと慌てて身支度と、迎える用意を整える。


 そうして数時間後。

 応接室のソファに座ったフレンが、目を閉じて妖精王に呼びかけてくれた。


 その間、部屋の端に控えているメレディスが借りてきた猫のように身をすくめているのを見る。


 ちなみにこの短期間で、フレンとメレディスは前からそうだったように打ち解けていた。

 とはいえ悪い妖精と善い妖精――と一概には言えないが――天敵であることは間違いない。


 エメリアはそっと彼女に言った。


「席を外してもいいのよ」

「いえ、侍女として二人の傍を離れるわけには……っ」

「そ、そんなに気にしなくていいのに」

「来ました」


 ――早い!


 ふわりと現れたのは、いつもフレンの周りを飛んでいる妖精よりも一回りほど大きな妖精だった。


 髭でほとんど覆われていて、顔はわからない。

 ただその髭に埋まる目がきらきらと光っているように見える。


「ほほ、皇妃様、呼びましたかな」


 その雰囲気にどこかで会ったことがあるような既視感を感じつつ、エメリアは彼の前で最大限の礼をとった。


「フレンの母親のエメリア・デュラン・ファレルと申します。いつも娘が大変、お世話になっております」

「いやいや。わしらこそ可愛い愛し子を愛でさせてもらっている。それで、ご用はなにかな」


 目の前に飛ぶ妖精王の問いかけに、埃妖精を肩に乗せたエメリアはにっこり微笑んだ。


「ご挨拶と、妖精王様に聞きたいことがあります」

「ほう、なんだろう」

「……フレンは、これから先幸せになりますか」

「? フレンは幸せですよ」


 先にフレンが答えた。


 妖精王はきらきらした目でエメリアをじっと見て、次いでフレンと、メレディスを見た。


「もちろん」


 妖精王は小さな手で自分の髭を撫でる。


「常にそうであるとは限らないが、それは己次第で変えられるだろう」


 その返事に安堵する。

 今のフレンが幸せで、未来のフレンも幸せならなにも心配することはない。


「ではわしはこれで」

「ありがとうございました、これよかったら」


 フレンに少し待ってもらって焼いたクッキーだ。ラッピングされてそれは妖精王より大きいが、彼は受け取ってくれた。


「ありがとう、実のところずっと食べてみたいと思っていたのだよ」


 ――ずっと……?


 やはりどこかで会った気がする。

 妖精王はくるりと空中で回って、見えなくなった。






 ザワザワザワザワ、闇の中で声がする。


「おもしろいことガ起こってルゾ」


 黒いカエルの姿の妖精が言う。


 「なんだ」「どうシタ」暗い森の中で、姿が見えない何者かの声が飛び交った。


「メレディスが裏切ッた。妖精王の愛し子と、ソノ母親に擦り寄っているらしイ」


 ざわめきが一層大きくなる。


 「ドウシテ」「ユるせない」と言葉が響く。そしてその中の一人がぼそりと言った。

 

悪い(いい)コト思いつイタ」


 イタズラ好きは善い妖精も悪い妖精も同じだ。

 提案を受けて、ひそひそと彼らは話し合いを始めた。





 視察の旅ももう復路を残すのみ。


 ――何事もなく終わりそう。


 どうなることかと思ったが……実際いろいろなことがあったが、終わりよければというものだ。


 フレンは楽しそうに窓の外を見て、ギルフォードは腰痛防止のクッションに身を預けて書類を読んでいる。


 異変が起こったのは、国境にもほど近い森を抜けたときだ。

 ゆるやかな崖の下を通るその道は、フレンと共に身を隠していた村まで続いている。


 そこで、決意を込めてエメリアはギルフォードに声をかけた。


「陛下、やはり一度村に……」


 急に馬車が止まる。

 どうしたのかと外を見れば、すぐに騎士の一人が馬車に駆け寄った。


「どうした」


 ギルフォードが問い掛ければ、伝達の騎士が告げた。


「陛下、申し訳ありません。前に集団がいまして……」

「野盗か?」


 そんなやりとりを見ていたフレンがエメリアの服を引いた。


「おかあさま……」

「大丈夫よ」


 緊迫感に怯えるフレンをエメリアは抱き上げた。


 街道沿いは確かに、無法者がいることがある。

 けれどギルフォードが即位してから、旅人の安全は、周辺の騎士団や皇都からの兵の派遣によって守られてきた。


 それにこれは皇帝陛下の視察の一行だ。

 威信を示すために豪華な馬車に乗っているので目立つのは当然だが、同時に精鋭の騎士を連れている。


 襲撃がそう簡単にいくとは思えない。

 そう思ったところで、騎士が言葉を続けた。


「それが、……どうやら農夫たちのようです」


 窓の外を見る。確かに列の前に立ちふさがるように、十人ほどの男たちの姿があった。

 着ているものは野良着だ。


 その人たちを見て、エメリアは叫んだ。


「ーー村長さん! みんな」


 そこにいたのは、エメリアが身を隠していた村の人たちだった。

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