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「少しいいか」
二人を見送った後、ギルフォードがエメリアをバルコニーへと誘った。
ーーうう。
勝手に抜け出したお小言を言われるのを悟って、エメリアはすごすご後ろにつく。
周りを森で囲まれた迎賓館のバルコニーは静かだ。
あれだけ賑やかだった街の喧騒もここまでは届かない。
とはいえ、あちこちに見張りの騎士の姿はある。
フレンが、同行している彼らにメレディスを紹介しているのが見えた。
心地よい風に吹かれながらその様子を微笑ましく眺めていると……しばらくして、ギルフォードが口を開いた。
「……今度から、どこかに出かけるときは必ず言ってくれ」
そう言うギルフォードは、いつものような皇帝然とした雰囲気ではなく、捨てられた子犬のような顔をしている。
いや、捨てられかけ、というか。
「……もしかしなくとも、また出て行ったかと思いました、よね」
「誘拐されたかとも思ったぞ」
ギルフォードが顔を背ける。後者ももちろん考えただろうが、図星らしい。
ーー意外と、顔に出るのよね。
表情が動かないから、むしろ少しの差がわかりやすいのかもしれない。
「それは信用がないですね」
「一度逃げてそれを言うのか」
「確かに」
同意したエメリアは、ギルフォードにそっと手を伸ばした。
「これからも多分出掛けはしますけど、陛下に言わずにもう勝手にどこかに消えたりはしませんから」
背の高い彼を前に伸び上がり、よしよしと頭を撫でる。
「……」
「あ」
思わずフレンにするようにしてしまった。
びっくりした顔のギルフォードからパッと手を離す。
「み、皆にも、街の人たちにも心配させてしまいましたし、反省はしてますよ」
取り繕うように笑って両手を合わせると、そこでギルフォードが一歩近づいた。
一般男性の中でも体格のいいギルフォードは目の前に立つとまるで壁だ。
なんとなくじりじりと後退して、エメリアはバルコニーの陰に追い詰められた。
「な、なんですか……、っ」
顎を持ち上げられた。
端正な彼の顔が近づいてきてーーエメリアは、ギルフォードの唇に両手を置いた。
「……」
「……」
「……」
「ちょ、近い、ちかいです!」
全力で押し返しているのに、さらに壁際に追い込まれる。
強い力に対抗してしばらく。ギルフォードはふいに身を引いた。
「……はぁ」
ギルフォードがこれみよがしにため息をつく。
そうしたいのはこちらのほうだ。
ーーび、びびびっくりした。
バルコニーが暗くてよかった。手を置くと熱い頬をエメリアは必死に冷ます。
確かに夫婦だし、初夜では『そういうこと』もした。
だがそれは義務というか必要なことだけだったので、……そういえばキスもしなかったことを思い出す。
しばらくしてギルフォードがぽつりと言葉を落とした。
「勝手にどこかに行かないというのは信用する」
「ありがとうございます」
「だが、今回誰にも言わずに出掛けたのは悪手だったというのは、わかるな」
「ええ、まぁ……」
あんなに大騒ぎしなければバレなかったのではないかとも思ったが、フレンも一緒だったから仕方がない。
「皇帝一家に何があったのかと民が不安に思う」
「ええ、まぁ」
あんなに大騒ぎしなければ以下略。
「えっと、つまり……?」
どうにも煮え切らないギルフォードが何を言いたいのかわからず首を傾げる。
彼が咳払いをした。
「そこで、提案なのだが……」
第13回ネット小説大賞受賞・書籍化が決定いたしました。
これもすべてお気にとめてくださいました皆様のおかげです。本当にありがとうございました…!!
残り8話ほど、完結まで改稿出来次第あげさせていただきます。
エメリアのお話、どうぞお付き合いいただけましたら幸いです。