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19、視察だ!

  あっという間に出発の日になった。


 皇帝一家の視察のためにと用意されたのは、豪華な四頭立ての馬車だ。外装はもちろん、内装までとても手が込んでいる。


 そこにずらりと控えるのは護衛の騎士や侍従、メイドたち。

 いくつかの馬車に別れて移動するのだが、用意した着替えの服や荷物も大量に運び込まれていく。


「ご苦労様です。よかったら『これ』使ってくださいな」


 そこにエメリアはひっそり用意した品を紛れ込ませた。

 一応、顔見知りのメイドに使い方を説明する。


「そんな……皇妃殿下自ら……っありがとうございます」

「効果があるかどうかは使ってみないとわからないのだけど」

「いえ、きっと皆も泣いて喜びますよ!」


 いくつもの場所を巡る旅。

 行くのはアスファルトで舗装されていない道と木の車輪、そしてサスペンションの乏しい馬車。

 遊びではなく視察という仕事に行くのだ、準備は万全にしなければならない。


 ということでフレンやギルフォードとともに馬車に乗り込んだエメリアは、持ってきた袋を開いた。


「二人とも、これを」


 エメリアはそこから、いろいろなものを取り出した。


 王宮から身重で逃げるときにも使用したものだ。

まず、車輪の振動を逃がすための厚手のクッション。それをフレンのお尻の下に置く。

 次にフレンの足の高さに調整した足置きを床に置いた。


「陛下も使いますか?」

「……いや、いい」

「そうですか……あ、背もたれにも使える腰痛対策クッションもありますよ」

「……」


 無言で手を差し出されたので、腰痛クッションを渡した。もちろん自分の座面にも置いた。


「寝る時は言ってくださいね、ネックピローもありますから」

「ネック……とは?」

「座りながら寝る時の秘密兵器です」


 ギルフォードに実物を渡す。

 視察の支度の合間を縫って作ったものだ。お城の針子にも手伝ってもらってなんとか人数分用意できた。

 U字を再現するのが結構大変だったが、おかげでよい出来になったと思う。


「フレンはおかあさまの膝がいいです……」

「もちろんいいわよ」

「わぁい!」


 フレンを膝に乗せる。


「一番怖いのは同じ姿勢でいて体調が悪くなることだから、こまめに水分と休憩を取って、身体を動かしましょう」

「はい!」

「……ああ」


 そんなこんなで視察の旅はスタートしたのだった。







 久しぶりに王宮の外に出た。

 皇都は今日も賑わっている。視察に出ることは通達されていて、大通りの沿道にはたくさんの人がいた。


「皇帝陛下、皇妃殿下万歳!」

「皇太子様!」


 皆が笑顔で皇国の旗を振っている。

 そのようすを見れば、ギルフォードの治世がうかがえるというものだ。

 嬉しそうにフレンが手を振りかえす後ろで、エメリアも外に視線を向けていた。


 そこでふと、乗合馬車の停留所が見えた。

 一番大きく書かれた目的地は『夫婦円満厄除けの村』だ。


 手を振りながら首を傾げる。


「夫婦円満厄除けの村なんてあるんですね」

「君たちがいたあの村だ」

「――え!?」


 変な声が出た。

 ギルフォードは外に興味はなさそうで、ネックピローをつけて馬車の中でも仕事をしている。


「へ、へぇ……いつの間にそんなことに……」


 そこでちょうどエメリアたちの乗る馬車が門をくぐって皇都の外に出た。

 馬に乗った騎士たちが周りを取り囲むのを眺めていたフレンが、エメリアを見上げた。


「おかあさま、ようせいさんにたのんで村のようすを見ましょうか」

「そんなことができるの?」

「くんれんしました」


 フレンが胸を張る。


 イヴァンに渡した妖精と、同じ原理なのだろう。

 ギルフォードは村には何もしていないと言っていた。それは信用しているけれど……。


「お願いしてもいい?」

「もちろんです!」


 フレンが目を閉じる。ギルフォードは特に止めることもない。

 しばらくしてフレンが目を開けた。


「村に、おかあさまとフレンのぞうが立ってました」

「なぜ」


 その問いかけに答えたのはギルフォードだった。


「無事に皇妃母子を育てたということで、口止めも兼ねて報奨金を多めに渡した。それで建てたらしい」

「そうだったのですか……っていうか詳細も知っていたのですね」

「ぞうのまえで、みんながおがんでいました」

「……」


 ーーフレンはともかく、私にはご利益ないだろうに。


 なんだか申し訳ない気持ちになる。


「そんちょうさんもみんなも元気そうでした!」

「それは、よかったわ」


 今回の視察には、近くまでは行くが残念ながら僻地にある村への正式訪問は含まれていない。

 だがまたいつか村の皆に再会する日も来るだろう。

 それがとても楽しみだ。

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