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 視察に出ることを告げられた翌日。



 エメリアがフレンとともにギルフォードに指示された部屋に赴くと……そこにはずらりと外出着やドレスを着たトルソーが並んでいた。


 控えるのは首にメジャーをかけた仕立て屋だ。

 白い髪の小柄な彼はにこにこと笑って言う。


「陛下から、視察にあたりお二人の服を新調するようにとご用命を受けました。サンプルをお持ちしたのですが、お気に召すものはありますでしょうか」


 工房の印を見れば、先代から王族の服を作っているところ。

 並んでいるのは生地はもちろん仕立ても素晴らしく、刺繍や装飾も一流品ばかり。


 ここ数年、擦り切れた服で農作業に従事していた目には眩しすぎるくらいである。


 ――これを、ギルフォードが?


 視察の同行の件といい、なんだか調子がまたくるう。


「せ、せっかくですけれど、今あるもので十分ですので……」

「王妃様はそうおっしゃるかと思いまして」


 仕立て屋が部屋の隅に控える弟子たちに合図する。彼らは、並んでいるサンプルの陰から、ごとりと小さなトルソーを出した。

 飾られている服と同じデザインで、子ども用の服だ。


「――っ」

「エメリア様とフレン様、お揃いのデザインのものをご用意させていただきました」


 袖が大きく膨らんだ、横広がりのスカートが特徴的なバロック調ドレス。

 ジャケットや肩掛けもおしゃれなロココ風のローブスタイル。フリルやレースがふんだんについたものからシンプルなものまでよりどりみどりだ。


 ――うわぁぁぁあ!


 大人子どもペアで並ぶ可愛らしい服を前に、エメリアは感激のあまり両手を胸の前で組んだ。


「……ちょっと、着て、みても?」

「もちろんでございます」


 興奮を押し殺しながら聞けば、仕立て屋は嬉しそうに頷いた。


 手伝ってもらい、サンプルを着させてもらう。いつもゆるくまとめている髪も整えて、フレンとお揃いの銀の髪飾りをつけた。


「――お二人の並んだお姿、想像以上でございます……! こ、このような場に居合わせることができるとは……新作の構想が捗ります!」


 仕立て屋は感極まったように叫ぶ。

 フレンはくるくる回ってパニエのついたスカートを翻し、嬉しそうにエメリアを見上げた。


「おかあさま、ほかのもいっしょに着てみたいです!」

「そうね、ええ……そうしましょうか!」


 せっかくなのでその後も親子二人で着替えを楽しむ。

 どれもとても素敵だ。何よりフレンの嬉しそうな顔を見ると先ほどの決意が揺らぐ。


 ――必要のない贅沢はもってのほかだけど、仕立て屋の仕事に敬意を表すのも王妃の仕事のうち……!


 そう自分に言い聞かせて、エメリアは顔を上げた。


「では、三着ほど……」

「あ、そうでした」


 そこで仕立て屋ががごとりと男性用のトルソーを置いた。

 エメリアたちが今着ているものと同じ生地とデザインの紳士用だ。


「陛下が、自分のものも用意するようおっしゃっていまして、このように三人並ぶとまさに一枚の絵になるようで……」


 仕立て屋の口上を聞きながら、エメリアとフレンはそっと顔を見合わせた。


「やっぱり私のものはいいです。フレンの服だけお願いできます?」

「……フレンもいいです」

「ええっなぜ!」


 途端にテンションをだだ下げたエメリアたちに仕立て屋が目を見開く。


 どんな顔をして、視察先でギルフォードは親子三人お揃いを着るつもりだったのだろう。

 本当に、まったく人が変わってしまったようだ。

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