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1、実母は逃げ出したい

「まずいわ……!」


 エメリアは目のくらむような煌びやかな寝室で頭を抱えていた。


 それもそうだ、頭も抱えたくなる。


 だって先ほど結婚式が終わり、今から初夜という段階で自分がとある小説のキャラだと思い出してしまったのだから。


 名前はエメリア・エレノアール。この国の筆頭公爵家令嬢だ。


 鏡を見返すのは、腰まで伸びる見事なプラチナブロンドのふんわり波打つ髪に、大きな緑の目の美少女。


 防御力がほとんどない寝間着に包まれているのはすらりとした、しかし出るところはある身体。


 小さい頃から蝶よ花よと姫様よと育てられ、願って叶わないことなどないくらい甘やかされた。

 けれどもそれで増長することはなく、性格は控えめで大人しく、まさしく見た目も中身も可憐な姫。 


 そんなエメリアは前世で日本という国にいた社畜だった。

 日々の激務の中、わずかな楽しみは終電の中で読む小説で……。


(あぁあ……まずいいい)


 エメリアとして生きてきた記憶は全部残っている。


 皇帝陛下との婚姻を無事に終えて、初夜を前に緊張しきって『ぷつん』とよくないところの糸が切れたところで、思い出してしまったのだ。


 ここが、前世の自分が読んでいた小説の世界だと。


 そして今からーー。


 かちゃりと静かにドアが開く音がした。

 入ってきたのは一人の青年だ。


 先日即位したばかりのこの国の皇帝陛下。名前はギルフォード・デュラン・ファレル。

 結婚式はすでに終わったので、今はエメリアの夫ということになる。


(――顔が、いい!)


 状況も忘れて思わず心の中で叫んでしまった。


 冷たい美貌とでもいうのだろうか、短くした銀の髪に長いまつ毛に囲まれた目は湖のような蒼。身体をよく鍛えているのが、服の上からでもよくわかる。


 エメリアはそそとベッドから立ち上がって、完璧な淑女の礼をした。


「陛下、ふつつかものですが本日よりよろしくお願いいたします」


 厳しい礼儀作法や妃教育に耐えてきたのだからこれくらいお茶の子さいさいである。


「……」


 エメリアの挨拶にギルフォードは何も返さない。

 それどころか見てわかるくらい嫌そうな顔だ。


 本来のエメリアならここで戸惑って怯えてしまったことだろう。だが、社畜として数々の仕事を同時並行させてきた『エメリア』にはなんということも……いや、やっぱり美形に凄まれるのは怖い。


「これは公爵家と王家との政略的な婚姻だ」

「はい、わかっております」

「お前を愛することは、生涯ない」


 わかっている。ギルフォードは大人しい公爵令嬢エメリアを、ただ自分の政治の道具として政略的に娶っただけ。


(でも、それは妻だけじゃなくて、周りにいる全員でしょうけど)


 誰も愛さない、信用しない氷の皇帝。それが彼だ。


 つまりこの婚姻に一切恋愛感情はない。……エメリア本人を除いて。


(そりゃあこんなお方が夫になったら、箱入りお嬢様は恋をしてしまうわよ)


 だが、愛とかそんなことよりも考えなければならないことがあった。




 大きな問題の筆頭。

 

 それはエメリアが、小説ではほとんど登場しない主人公の実母だということ。


(物語が始まった時には、すでに死んでいるのよね……)


 前世を思い出したと同時に死期を悟れば、遠い目にもなるというものだ。


 原作小説のストーリーは、王女として生まれながらも母や継母から虐げら(ドアマットさ)れたヒロインが、隣国王太子と結ばれて幸せになる話である。


 ヒロインを虐げる相手その一、母親。ーーつまり、エメリア(じぶん)

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