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袁煕立志伝withパワーアップセット おい、起きたら妻がNTRされる雑魚武将になってたんだが。いいだろう、やりたい放題やってやる!  作者: 織笠トリノ
第二部 198年 北平平定 VS公孫瓚

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第六十話 郭という姓は、波乱を起こす

 趙雲は簡易的に設けられた刑場へと向かう。

 相も変わらずジタバタと暴れる中年男は、無様に周囲の兵士を罵っていた。


「ええい、この郭公則を誰と心得る! 袁家が譜代の臣であり、ご嫡男であらせられる袁顕奕様の軍師なるぞ!」

「……そうか。で、それを自白したところで何か得でもあるのか?」


 趙雲は首よりも先に、冷たい言葉で郭図の寝言を斬って捨てた。

 眼前の男はどれほどの正気を保っているのかは謎である。そもそも、自らの軍師を、死兵か捨て駒のごとく最前線に送り込むなど、まともな戦術とは思えない。


「結局のところ、貴公に価値はないと断ずる。故にこれ以上生かしておく理由もなし」

「きききき、貴様ッ! この公則に向かってよくほざけたものよ! 良いからこの縄を解け。臣めが叩き斬ってやるぞよ!」


 今にも殺害されそうになっている人間の物言いではない。

 趙雲はこめかみに鈍痛が生じ、若干の眩暈を感じた。不毛にすぎる議論は、心身を蝕むものだと痛感するに至る。


「士大夫と言うからには、雑兵の手で討たれるは不本意であろう。拙者がその首を落とす故、大人しく召されい」

「まったく、どいつもこいつも話が分からぬ奴よ。よいか? 臣が降伏の意を示してここに来た意味をよく考えるのだ。臣を殺してしまうと、五里霧中に取り残されるが、それでも良いか?」

「……論じるに値せぬ」


 兵卒に押さえつけられ、郭図は強引に首筋を露わにさせられる。

 未だに暴言や妄言を多々述べているが、辞世の句として放置しておこうと、趙雲は剣を振りかぶる。


「お覚悟」

「い、いやだぁああっ! だ、誰か助けてくれっ! 殿、話が違いまするぞ!!」


 銀の閃光が走る。

 ごとりと落ちる体は、まるで糸の切れた人形のようでもあった。


「て、敵襲ッ! 敵襲ー---っ!!」

 

 叫んだ兵士の額に、新たな銀の流星が突き刺さる。

 趙雲は振りかぶった剣を鞘に戻すと、状況の確認に意識を全て向けた。


 無数の騎馬部隊が、趙雲の陣を旋回して騎射を仕掛けている。

 一撃離脱にして、天衣無縫。

 立ちはだかる兵は騎馬に弾き飛ばされ、そのまま骨を折って地に落ちる。

 さりとて背を向ければ、情け容赦無い矢雨が追撃してくるのだ。


「……これは北方異民族の射撃に似ている。公孫の白馬義従にしか出来ぬ荒業だが……」

 身内に切り捨てられるほどの失態を犯した記憶は、趙雲には無い。

 むしろ戦線を押し込み、敵の軍師を捕縛する戦果を挙げている。

 功一等とは言わぬまでも、確実に勝利に貢献する働きであると信じていた。


「……敵の……旗。そうか、そういうことか……」

 戦場において、旗を偽るのは不名誉なことだ。

 誰が戦い、誰が散り、誰が残るのか。

 旗印とは将兵にとって生き様そのものであり、命を賭けて守るべき御柱でもある。


「公孫の旗に紛れて『田』の字……か。田豫……字の通り国を譲るつもりなのか」


 北方異民族と交流があり、劉虞軍の残党である鮮于輔と強いつながりがある。

 田豫が公孫範将軍の部隊旗を手にしているということは、つまり右翼軍全てが敵になったと趙雲は判断せざるを得ない。


「敵の調略か、それとも友誼による情か。戦場故多少の誤差は飲み込むつもりであったがな……致し方がない、左翼部隊は退却。公孫続殿をお守りしつつ易京に向かえ!」


 痛打を浴びせたとはいえ、前面の袁紹軍は決して侮って良い相手ではない。

 そこに田豫の裏切りが発生したとなれば、半包囲下に置かれたということになる。

 古来より包囲戦術を破った将軍は少なく、ほぼ必敗の形勢とも言えるだろう。


「はっはっは、尻尾を巻いて逃げるか、田舎者め! この郭公則を軽く見た報いを受けるがいい!」

「趙将軍、この腐れ儒者は如何なさいますか?」

「……放っておけ。今は一兵でも多く離脱させるのが急務だ」

「ははっ」


 呵々と笑い、ミノムシのように地面を転がる郭図。

 不気味すぎる生き物に、田豫軍の兵士も近づきがたい気持ちを抱いていた。しかし、高位の者が身につける衣冠を纏っていることから、嫌々ながらも救出する羽目になった。


「その、御方のご尊名を伺っても宜しいでしょうか?」

「よかろう。臣のは郭、名は図。字は公則である。誉れ高き袁家がご嫡男の軍師であるぞよ」

「そ、そんな御身分の方が、何故……いえ、失礼しました。ご無事で何よりです」

「ふふふ、一つ良いことを教えて進ぜよう」


 はぁ、と戸惑う兵士の肩に汚い手を置き、にやりと腹黒い笑みを浮かべる。


「正義は必ず勝つ。そういうことじゃよ」

「そ……う、なんです……か。はい……」


 哄笑が響く戦場で、自分の領域展開を存分にする郭図だった。

 巻き込まれる兵士は気の毒としか言いようがないのだが。



――数刻前 田豫

「チッ、流石に袁紹の正規軍、騎射に対する備えも万全ってわけかい」

 田豫は北方で培った異民族流の弓掛けで攻めるも、対応する高覧の防御を崩すことが出来ずにいた。


「じりじりと迫ってきやがるなぁ。うーん、方形陣を崩すのはちと時間がかかりそうだー」

 当たり所よく、矢で倒す事が出来る場合もあるが、それは単なる運分天分だ。

 厚い盾と長槍をもってにじりよる集団に、寡兵で対抗するには限界がある。


「てっきり騎兵同士の突き合いになると思ったんだけどなー。当てが外れちまったかぁー」

 

 田豫は長く伸ばした黒髪を、もっしゃもっしゃとかきむしる。

 二つに分けられ、肩口まで伸びたそれは、およそ中華の礼儀から外れる風体であった。


「田将軍、公孫範様が早く撃滅せよとご命令を出されております。全軍で再度攻撃をしてみてはいかがでしょうか」

「んー。却下。ていうかその命令、無理じゃね」


 言うは易く行うは難し。

 後陣で檄を飛ばして鼓舞するのは一向に構わないのだが、抽象的な意見を出されても困るというものだ。


「中央部はどうなってる? 拮抗してるといいんだけどなー」

「それが……本来我々側に配置されるはずの騎兵が、中央部に隠されていたようでして……袁家の文醜めが我が軍に大損害を与えていると……」

「そいつは参ったね。ほぼ負け戦じゃない」


 頭をかくとフケが舞う。戦場とはいえ、高級士官は一定の水が与えられるものだが、田豫は頭髪にはあまり興味が無いらしい。

 なので不衛生なまま放置してあった。


「田将軍! 敵方より使者が参っております」

「……へぇ、ここで、か。面白いね、会おうじゃないか」


 敵陣より軍使を表す、二重の白旗を掲げた一群がやってくる。

 田豫は騎馬を整列させ、左右に戈兵を配して到着を待つ。

 如何なる状況においても、礼節は損なってはならない。そして一軍の将として部下に堂々たる態度を示す必要もあった。


「これより先は軍門内ゆえ、馬上では進めませぬ。御身柄は保証いたします故、どうぞ馬をお預けくださいませ」

「委細承知ッスよ。歩くのすげー疲れるんだけど、まあしゃーないッスね」


 痩身にて長躯。顔色が優れぬ男は、軽薄な言葉で歌うように返した。

 風に吹かれれば飛びそうな、華奢すぎる体を前へと進める。


「得物は持ってないッスよ。まあ、調べるのはお仕事なんでしょーけど」

「……そのようですね。どうぞ先へ」


 やれやれと肩をすくめつつも、田豫の待つ軍中央部へ。

「中々壮大なお迎えッスね。これだけの軍馬、揃えるのは骨が折れたんじゃないかなぁー。まあ、そっくりいただきますがね」


 男の独り言は風の中に消える。

 聞かれていたらひと悶着あったであろうことは間違いないのだが、運はまだ損なってはいないらしい。


「ご使者、お勤めご苦労さん。俺が右翼前曲の将、田国譲だ。さて、何を聞かせてくれるのかな?」

「こりゃご丁寧にどうもッス。某の姓は郭、名は嘉。字を奉孝って言いますよ。恐らく長い付き合いになると思うので、覚えてくれると嬉しいですねぇ」


「ほう……ご使者は公孫の身許に降られるおつもりかな」

「へっへ、その逆ッスよ、田将軍。もう薄々分かってるっしょ? 今の盤面は詰んでいるってことに」


 二人の壮士は目で牽制し、言葉で翻弄し、身振りで圧をかける。

 だが帰結する先は変わらない。


「端的に言いましょうかね。田将軍、袁家に寝返ってくださいよ」

「おもしれえコトいう兄ちゃんだなぁ、おい。一軍を預かる将に向かって、ようほざくなぁ」


 狼のように目を鋭くさせ、田豫は目の前の男――郭嘉を射殺さんばかりに睥睨する。だが当の相手は全く意に介していない様子であった。


「じゃあ今から、袁家に降伏する利点を述べましょうかね。きっと喜ぶと思いますよ」


 田豫と郭嘉。

 互いに知恵者の、弁舌による戦いが始まろうとしていた。

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