第百五十三話 曹操救出劇① マオ、目覚める
――袁煕
俺史上最高に場が温まって来た感がしてるが、気おくれしていてはダメだね。
本来であれば北方に追いやられる身だったのになぁ。チートってのはヒストリークラッシャーだよまったく。
「ではこの袁顕奕が場を執り仕切らせてもらう。諸将においてはよろしくご協力願いたい」
「殿、並み居る壮士は全て袁家の威光に平伏する者でございます。お下知を」
「許先生の言に異論はないだろうか。我が采配に瑕疵があれば遠慮なく教えてもらいたい。諸将の結束を得て、この難局を乗り切りたいと願っている」
深く頭を下げる。
集まった人々の期待と熱意に、俺はただ感謝をするしか方法を知らない。
世のため人のため――と大言壮語を吐くのは簡単だ。しかしその理想論に見合うべき男になることが重要だろう。
「これより曹軍迎撃のための仮陣容を定める。守備の総責任者は不肖、この袁煕が務める。宜しく願いたい」
「はっ。して御館様のご意向としては袁顕思様が指揮をと」
「うむ。おねーちゃん、いえ、姉上。防衛に必要な将と兵力を抽出してもらいたいです。どのように差配いたしましょうか」
犬猿武将を組ませると却って危険になる恐れがある。
だったらここはおねーちゃんの好きな人材を持って行ってもらおう作戦だ。
「ああ。ほいじゃあ軍師に辛評、おめーが着け」
「ふぅ、またですか……これからもよろしくと言っておきましょう」
「一々イラっとする野郎だな、おめーは。まあいい、次だ」
袁譚が欲したのは守備の要と迎撃の要だった。
守備には能力と実績から賈逵と司馬孚が抜擢された。どちらも冷静沈着にして分析力の優れた名将であるので、俺も一安心だ。
迎撃の将には張飛・周倉・裴元紹が選ばれた。
寧ろ出撃させろと圧を出していたので、その意気を買ったのだろう。
うーん、この。
出撃の将を選ぶ余地がありまくりで困るっていう、最高に贅沢な状況だ。
「予備兵力として顔良・文醜の両軍を当たらせる。また随軍参謀として陸兄弟を当てる。押し引きの機微を見て適宜対応せよ」
「わかりましたぜ。殿、俺と文がいればどんな野郎が来ても余裕でさ」
「頼もしいな。しかし相手は曹家の生え抜きの精鋭だろう。決して油断しないようにな」
「わかってますぜ。地獄を見せてやりまさぁ」
わかってないっぽい。
俺は陸兄弟に目くばせを送り、しっかりと手綱を握るよう促しておいた。
「では姉上、この場で軍議をされてください。俺は孟徳公や負傷した武将の容体を診てきます」
「了解だ。顕奕、今夜はおねーちゃんと一緒に寝ような」
「断固として拒否させていただきたく……」
蘭、そしてれーちゃんのペアだけで体が悲鳴を上げるほど持って行かれるんだ。
おねーちゃんの乳枕とか味わったら心臓が壊死してしまうぞ。
◇
「さて、孟徳公をそちらに寝かせてくれ」
「かしこまりました」
医官たちに手伝ってもらい、俺は一室で稀代の英雄を診察することになった。
マジで頭抱えるシチュエーションなんだが、後には引けない。
盲夏侯や股肱の臣にブチ転がされる未来は勘弁だしな。
「久々に使うか……強力編集、起動ッ!」
ジャーン! ジャーン! ジャーン!
うむ、相変わらずうるせぇ。これデバッグとかで気づかれなかったのかね。
まぁとにかく曹操のステータスチェックだ。治せるかどうかは編集をくまなく探すしかないだろう。
①曹操 孟徳
年齢:45
相性:25
武力:72
統率:99
知力:91
政治:96
魅力:97
得意兵科:歩兵 騎兵 攻城兵
得意兵法:急襲 屯田 鼓舞 混乱 投石 詩想
固有戦法:乱世の奸雄→行動の成功率大幅上昇 登用癖→名士登用率大幅上昇
固有性癖:寡婦強奪
親愛武将:夏侯一族 曹一族 荀一族 郭嘉 許褚 典韋
犬猿武将:劉備 孫堅 董卓
状態異常:瀕死
回復条件:雑貨屋金時 新兵法取得 名医招聘 等
―――
なんじゃこの化け物。
もう人類やめちゃってるでしょ。こんなんが元気だったら呼吸していける気がしねーわ。
さりとてパッパの旧友だ。何とかしないといけないね。
「よし、行くぞ。まずは課金……うおっ!?」
残高がやべー金額になってる。
これ実質河北袁家の富全部じゃねっていう。
人間一人が使うには多すぎる金の量にドン引きだよ。
「ま、まあいいか。どうせ派手に使うしな。おっしゃ、もってけ蔵の金!」
『ご課金ありがとうございます、お兄ちゃん! 私の事覚えてますか?』
……すまん、そういえば誰得な妹ボイスが追加されてたな。
忘れてたけどナビの一つとして前向きに活用しよう。
「曹操孟徳の傷を癒したいんだが、どうすればいいだろうか。ええと、スペースに曹操・怪我・治癒で検索……と」
『検索結果は一件だよ、お兄ちゃん。えっとね、まずは雑貨屋金時のワンちゃんから万能薬・蓬莱の秘薬を購入してね!」
「……違法なブツじゃねえよな?」
『私は電子妖精だから年齢や法律は関係ないんだよ、お兄ちゃん』
つまりアウトな薬品ってことですね。大変参考になりました。
考えても仕方がないか。この時代の傷病死なんぞ雑草抜くよりもイージーに起きる出来事だ。やらない善よりやる偽善。行くぞ!
「金時、久しぶりだな」
「お久しぶりだワン。最近はお見えにならなかったので心配してたワン」
「……お前なんか癒されるんだよな」
恐る恐るだが例の蓬莱の秘薬とやらを訊ねてみる。
「お目が高いワン! こちら蓬莱の薬は現品限り。プラ袋に入った白い粉と注射器セットでなんと! 金二百万だワン!」
「色々突っ込みたいが、口にしたら負けだと思ってる。よかろう、言い値で買おう」
「お買い上げありがとだワン。この粉はブッ飛ぶワン」
「回復薬に用いる表現じゃねえんだよなぁ……」
よし、次だ次。
『お兄ちゃん、次は得意兵法のアンロック……でも、自己編集はまだ解禁されてないみたいだね』
「どこまでバランス狂ってんだこの機能はよ。じゃあどうすればいいんだ……」
『例えばソコの柱の陰にいる人にスキルを付与すればいいんじゃないかぁ』
あん?
どこの阿呆が見て……。
「はぅあっ!? ま、猫はその、顕奕様の護衛でございますれば! 平にご容赦を」
マオだった。
柱の偽造品を用意してる時点で確信犯だが、常に影から守る姿には忠を感じずにはいられない。
「け、顕奕様……その……先ほどから喋っている女性はどちらにおいででしょうか?」
「ああ、これは俺の能力で……ちょっと待て、今何と?」
「はぅ! 先ほどから顕奕様を兄と呼んでいる少女のお声は聞こえるのですが、お姿が見えず混乱してるのですよ! 猫はどうすれば」
なん……だと……。
「マオ、この音は聞こえるか?」
俺は強力編集を閉じ、もう一度開けてみた。
ジャーン! ジャーン! ジャーン!
やかましい音だが、さて。
「て、敵襲っ!? 顕奕様、猫の後ろにおさがりくださいですよ!」
「銅鑼の音、聞こえたんだ」
「はい。どうやら誤報でしょうか。はぅぁ、一安心でございますよ!」
チェック、チェックだ!!
この情報を看過するわけにはいかん。
「なんでしょう……なにか顕奕様にじっくりと観察されている気がしますです」
「気配というか、そういう機微が悟れるのか……これはマジでヤバイかもしれん」
【袁煕の侍女】
鈴猫
年齢:16
相性:101
武力:87
統率:75
知力:82
政治:69
魅力:92
得意兵科:歩兵
得意兵法:伏兵 護衛 一騎 支援
固有戦法:補給強化 血路 郭図封印 【編集共感】
固有性癖:耳舐哎呀《みみはダメ。アイヤー》
親愛武将:袁煕 明兎 甄姫
犬猿武将:郭図
――
編集……共感?
なんぞこれ。
これマオも編集使えるのかな。
おのれ、次から次へと問題が噴出してきやがるね、この世界は。
『お兄ちゃん、この子私たちの声が聴けるけど、操作はできないみたいだよ』
「セーフ! 俺の知らないところで俺の知らない出来事が増えていくところだったわ」
『でももう私とえっちなことできないね。またいっぱいしてほしいな』
「寝言は寝て言え。電子妖精ってさっきゲロってたじゃねえか!」
言い負かしてやったぜとふんぞり返りたいところだが、とりあえず速やかに薙刀を構えている殺気だったマオを鎮静化させないといけない。
「顕奕様、頭の中のヘンな少女とヘンなことはしたらメッ! ですよ!」
俺はエロ本を見つけられた中学生のように、苦しい言い訳を続ける羽目になったわけだ。
どうにかこうにかなだめすかし、マオに『名看護士』の兵法を付与することに成功した。
よし、あとは一つ。名医召喚だ。
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