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袁煕立志伝withパワーアップセット おい、起きたら妻がNTRされる雑魚武将になってたんだが。いいだろう、やりたい放題やってやる!  作者: 織笠トリノ
199年 秋 邯鄲奪還戦 

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第百五十二話 後継者就任だぞ、喜べよ。

――袁煕


 どうしてこうなった。

 いや、うん、わかる。わかるんだけどさ。

 可及的速やかに処理する案件の上、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応せねばならないってのは、ひっじょーによくわかる。


 鄴の御座所にはパパンこと袁本初がどしりと腰を据えている。

 左右には沮授先生と田豊先生が侍り、俺とおねーちゃん、顕甫ちゃんが続く。


「御父上、今なんと申されましたのでしょうか?」

「曹孟徳を保護した。顕奕、貴様の手腕で彼の者の面倒を見よ」

「……孟徳公は袁家にとって不倶戴天の敵と承知しておりましたが。いえ、御父上が禍根を捨てて旧縁を結びなおされたのであれば慶ぶべきこととは思いますが」

「そうなるかどうかは阿瞞——孟徳の心次第だがな」


 状況を整理しよう。

 パッパが瀕死の曹操を連れて鄴に来た。

 両サイドには猛犬もかくやと言うべき、二夏侯が目を血走らせてスタンバっている。クッソこええ。


 聞けばおねーちゃんがうっかり曹操を拾い、パッパに預けたという。

 動物保護のレンジャーも真っ青になるほどの人材収集癖だ。俺のところにもワッサワッサと有能な人物が送られてきたしな……。


「ご命令しかと承りました。しかし現在鄴は曹家の攻撃を受けて復旧中でございます。その敵の首魁を匿うには些か説明を頂きたく」

「うむ。夏侯元譲、貴様の口から語るがいい。儂らが孟徳のことを気やすく触れるのも気分が悪かろう」

「……かたじけない、では」


 眼帯をしたオールバックの男、夏侯惇。

 そして弓を背負った偉丈夫は夏侯淵だろうか。

 彼らは驚くべき内容を赤裸々に開陳してくれた。


「貴軍に囚われていた于文則が『敵』に寝返った。そして脱出してきた体で孟徳に近づき、懐剣で害をなしたということだ」

「……袁家をお疑いになられている、わけではなさそうですね。であれば御父上と同道されぬでしょうし」

「当然だ。俺たちの敵は孟徳の息子。袁顕奕、貴様が対峙している曹子桓と理解しているからな」


 おいおいおい……何してくれちゃってんのさ。

 この儒教万歳時代に実父に刺客を向けるとか極刑待ったなしだぞ。


「道徳を考慮すれば、子桓殿が手を回すというのは難しいのではないでしょうか」

「推論だけならばそうだろう。だが于禁めが連れて来た兵の口を割らせた。あらゆる手段を使ってな」

「……詳細は割愛させていただくとして、なるほど、確定情報でしたか」

「目の前で薄く刻まれていく仲間を見れば、口も滑らかになるというものだ」


 だから言うなっての! ああああ、今日は飯食えなくなりそうだよ。

 日頃戦場で斬った張った逃げたをしてるこの身だが、グロ耐性はそれほど高くないのだよ。

 え、文醜軍? 知らない子ですね……。


「既に聞き及んでいるかもしれんが、子桓めは『魏公』を名乗りやがった。孟徳を討ち取ったと思うてな。舐め腐ってることに、俺たち二人を暗殺の下手人としているらしいぞ」

「それは……あまりに奇手ですな。果たしてご陣営はまとまりましょうか」

「知らん。孟徳に忠を尽くさぬ者などもはやどうでもいいわ。それよりも今後だが」

「はい……」


「孟徳の身柄と、我ら夏侯兄弟。そして精鋭の旗本をお前に委ねる」

「……ちょっと責任が重すぎて、回答に四苦八苦いたしますが……はい」

「男なら腹をくくれ。貴様が上手く手管を用意していると聞いたから、俺たちは孟徳を連れてきたのだ」

「えぇ……」


 いや、悩んでいても仕方がないか。

 瀕死とはいえ歴代ゲームの能力値最高の男とその側近が来たのだ。

 昨日の敵は今日の友と言うしな。そして幸いにして俺にはチート能力がある。


 今まで人を害したり貶めたりする方法でしか使ってこれなかったこの能力。

 人助けに用いてこそ存在意義が生まれるというものだろう。

 南華老仙のクソ野郎の思惑など知ったことか。俺は俺の望むがままに、この状況を打破して見せる。


「承知いたしました。では不肖この袁顕奕が孟徳公の具合を診させていただきましょう。加持祈祷を頻繁に行う故、謎の言葉を申し述べることが多々ありますが、お気になされぬよう」

「あいわかった。万事貴様に一任する。毒食わば皿までと言うしな」

「お任せあれ」


 もう逃げられねえわ。

 鄴で一息ついただけの短い休息だったが、乱世の足音は常に響いているのだろう。


「顕思、貴様は顕奕の代わりに鄴都の守備に就け。望む者を配下につけよう」

「わかったぜ、親父。顕奕、おねーちゃんの実力見せてやるからな!」

「顕甫。お前は邯鄲に戻り、復興に尽力せよ。南皮・平原からの兵糧を二手に分け、鄴とそちらに蓄える予定だ」

「かしこまりました。手ごろな奴隷を手に入れましたので、早急に補給拠点としての役目を復帰させましょう」


 さらっと龐統に私刑宣告がなされたが、それはしゃーない。


「白馬にいる曹子桓に動きはあるか、沮授?」

「細作の情報によれば、魏公就任の官位を受けるために洛陽からの使者を待っているそうでございます」

「袁家の本隊を前にして、大した胆力だな。田豊、徐元直からの情報は精査できたのか?」

「問題あらしまへん。彼の者や水鏡門下の者たちは裏でつながり、曹孟徳を討ち取る手はずでしたわ」


 ふむ、とパッパは頤に手を当てて考え込む。

 空前の攻め時。いや、攻め時過ぎて却って慎重になるのも理解できる。

 確認できている旗は様々な色の曹旗。恐らく一門が出てきているのだろう。

 故に誘引の計ではないかと勘繰るのも頷けるというものだ。


「顕奕、貴様ならどうする?」

「えっ!? わ、私ですか? ええ、それは……」


 急に振るなし。

 俺はさっきから強力編集のウィンドウをカチカチ脳内クリックして、曹操の状態をなんとか出来ないか作業してるんスよ……。


「であれば、私の腹心にして参謀。郭公則殿のご意見を賜りたく。公則先生、貴方ならどのように構えまするか」

「無論速戦速攻ですぞ! 曹孟徳が『傷で死ぬと決まった』今、小童が率いる軍など何するものぞ。『顔良・文醜を突撃させ』『一気呵成に白馬を攻め落とす』のです!」

「――大変参考になりました。御父上、この顕奕めは堅く守備を保ち、孟徳公の回復を目指すべきであると進言いたします。」

「ほう、その意図は何ぞや」

「は。孟徳公が存命であり、言葉を発することができ得れば、敵の陣は自ずと二分して瓦解しましょう。特に先陣に出てきている曹家の将は全て我らに着くかと」


 現状、袁家が曹孟徳を暗殺したと向こうさんは思ってるだろうからね。

 発狂してる状態で何言っても無駄なんよ。


 ただし、殺害されたはずの曹孟徳が出てくれば、全ては逆転できるがね。

 郭図チェックも完了。鉄壁防衛の一手に尽きる。


「ふむ……よかろう。顕奕、儂に貴様の手腕を見せてみよ。袁家の次期当主としての器をここに示せ」

「ッ……!? しょ、承知致しました。決死の覚悟で事に対応させていただきます」

「話の大筋はまとまったな。では儂は先に出る。顕奕、貴様が後は差配せよ」

「かしこまりました、御父上?」


 立ち上がった袁紹の体がフラついている。

 まさか……持病が悪化しているのか?


「儂の体だ。儂が一番よく知っている。恰好の良い姿を見せてくれ、顕奕」

「……御父上、必ずやの河北に語り継がれる戦をして見せましょう」

「フッ、あの青白かった顕奕がな。では、後ほど詳細を送れ」

「ははっ」


 重臣が満杯のこの御座所に於いて、袁家の当主が次期当主を指名しちゃったよ。

 これ大丈夫かいな。曹丕のところより先にこっちが二分したら洒落にならんぞ。


「次期当主様に――!!!!! 礼ッ!!!!」

 

 ざしゅっ、という音と共に武官は拱手。文官は頭を床に付ける。

 熱気と圧力で潰されそうな空間の質量よ。


「顕奕、やったな! おねーちゃんは嬉しいぞっ!!」

 

 むぎゅっと乳だか牛だかわからんものを押し付けられる。息が……。

 熱烈なハグに、臓物が口から出そうになるが、喜んでいてくれて何よりだと思う。


「お兄様、此度の儀誠に目出度く存じます。この袁顕甫、今後も袁家の末娘として恥じぬ……ハァ……統治を……ンッ……していきますよ」

「ちょっとイってんじゃねーよ」


 顕甫ちゃんは相変わらずぶっ壊れたままで安心した。

 誰だ、この子をこんな風にしたのは!


 万歳、万歳の声の波に打たれ、俺はこうして袁家を背負う未来が確定したのであった。



――司馬懿


「フハハハハ、バカめ。曹子桓、愚かなり。このような凡愚の策で司馬の男を動かせると思うてか!」

「しかし仲達よ、我が家は孟徳公の招聘を受けた身。その血族を見限るのは流石に寝心地が悪かろうよ」

「兄上、逆だ。まだ縁が浅い今こそが去るときなのだ。火のついた泥船などさっさと打ち捨てるに限る」

「そうやって悪い口を叩きよるが、お前は誰よりも孟徳公の死を悼んでいたのぅ」


 司馬懿はふっと真面目な顔になると、そっと冴えわたる青白い月を見上げた。

 兄・司馬朗と酒を飲み交わす最中つい激情に走ってしまったのだが、それは心のうちに吹き込む冷たい風によるものだった。


「曹孟徳……あの男ならばこの才を使えると思うていたが……馬鹿めが……」

「してどうする予定じゃ? 一族郎党が一斉に逃げ出すのも決まりが悪かろう」

「……残れば死にまするぞ兄上。この仲達めにお体を任せるのだ」

「構わん。一人くらいは曹家に殉じる者がいてもよかろうて」


 なんと愚かな……と司馬懿は目をつむる。言い出したら司馬朗は考えを曲げないことは承知の上なのだから。


「淑達めは元気かの?」

「袁家にて重く用いられること疑いないだろう。文官の分際で武功を立てたそうだしな」

「ならばお前はお前の思う通りの絵図面を描くとよかろう。もう、考えは決まっておるのじゃろう?」

「……ああ。私は私の才を十全に活かすことができる地を目指す。もう話はついてるからな」


 司馬懿は軍配扇子を口元に当て、それからそっと南を指した。


「江南に名君ありと聞き及んでいる。かの地で面白きことをしてみせよう」

「そうか……お前は南へ行くのか。風土病が盛んな土地だ。薬を多く手配していくがよかろう」

「善は急げだ。私は明日にでも出奔する。兄上」

「なんじゃ?」


「今生の別れになるだろうが、息災であれ。万が一命を長らえたのなら、私か淑達を頼ってほしい」

「大丈夫じゃ。楽しみじゃのう、司馬家随一の男が才を発揮できることが、わしには楽しみで楽しみで。最後まで見れないことが悲しいが、お主も息災でな」


 チンと盃を交わす。


 それが司馬懿が兄と過ごす最後の夜になった。

お読みいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
司馬懿が孫家に流れるとは中々見ないパターン… 一族残すなら、血筋をそれぞれの勢力に流すのはお約束だよね。
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