表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
袁煕立志伝withパワーアップセット おい、起きたら妻がNTRされる雑魚武将になってたんだが。いいだろう、やりたい放題やってやる!  作者: 織笠トリノ
199年 秋 邯鄲奪還戦 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/178

第百四十二話 死守① 看破する男

――賈逵


 知勇三軍に冠たり。

 曹軍において歴戦の猛将と並ぶ名将・徐晃。

 防衛線に於いて、兵力はその三倍を要するのが常だ。しかし現在、徐晃の兵は鄴の守備兵を大きく上回る四倍の数である。


「衝弩を城壁に固定せよ! 顕奕様のお墨付きの兵器だ。きっと防衛できる!」

「はっ! よし五名来い!」


 審栄に扮した賈逵の指示は端的であるが、兵士たちの勇気に火をつけるような言葉を含めて発せられた。力を込めてしっかりと肩を叩いて鼓舞する。


「大丈夫だ、お前たちなら勝てる。すぐに御館様や顕奕様の軍が駆けつけてくれるぞ」

「はい! よし、城門に設置した大岩の確認に行くぞ!」


 すまぬ……。

 鄴付近では張燕率いる戎狄との戦いが激化しているころだろう。

 恐らくは多くの守備兵が戦死するかもしれない。


 本物の審栄は獄に繋がれており、袁煕の沙汰を待つことになる。

 指揮系統の瓦解を防ぐため、賈逵は審栄として防戦しなくてはならない。

 

「念のために付けておいてよかったか。戦装束とでも誤魔化せばそれでよかろう」


 賈逵は黒い鬼のような面を偶然発見し、それを装着して兵に指示を動かしていた。

 守りの薄い部分には兵を送り、兵器を並べて待ち構える。

 

「各員一層の奮励努力を期待する。ここが落ちれば河北は曹孟徳の手によって戦火に巻き込まれよう! 袁家の興廃、この一戦にあり!」

「応ッ!!」


 若き身でありながら、智謀を買われて首都の参謀に任じられたまでは良かった。

 賈逵は河北で堅実に立身していく所存であったのだが、大きく予定が狂ってしまった。彼は名誉や金銭を求めず、自らの才を以て何を成すべきなのかを探す求道者である。


「我が命運、ここで尽きるやもしれんな。乱世においては斯様なまでにはかなき身であったか――いや、まだだ。戦いは最後までわからぬ。私が諦めてしまえば、兵たちが救われぬな」


 震える手を必死に押さえ、指揮台へと足を運ぶ。

 一刻でも長く持ちこたえ、援軍の到来を待つ。単純ではあるが、多大なる忍耐と精神力を求められる戦になるだろう。


「我が全霊を以てお相手致す。徐晃よ、鄴を抜けるとは思うなよ……」


 気炎の眼は、怯懦を薙ぎ払って砂塵の先を射すくめた。



――徐晃


「イェイイェイ。それじゃあガン攻め一発、やってみようかー!」

「はっ。しかし流石鄴都ですな。城壁の高さ、厚さ共に申し分のないものです。これは骨が折れますでしょうなぁ」


 副将の路昭は感嘆の声をあげるが、特に怯んだ様子はない。

 既に首都直撃の策は実行されている。徐晃は言葉使いこそ破天荒であるが、その用兵術は堅実極まるものだ。

 故に従軍している全ての将兵は、徐晃の勝利を疑っていない。


「うーん。城壁にでっけー弩弓があるねぃー。け・れ・ど、全ての方角に向いているわけじゃない、と」

「は、左様ですな。大型の弩弓は装填にも時間がかかりますからな。一気呵成に城壁へと寄せれば無力化出来ましょう」

「それいいねー! それじゃあ一発ドーンと突撃しちゃおうYO YO YO!!」

「……承知いたしました」


 通常の城攻めは盾を構えた歩兵による波状攻撃によって完成する。

 襲い来る矢を跳ねのけ、はしごや井欄でもって壁上に雪崩れ込むためには、多少の犠牲はやむを得ないとされていた。


「全軍、《《突撃》》せよ!」


 徐晃が執った戦法は、既存の常識を覆す速攻戦であった。

 あろうことか騎兵を前面に出し、まるで野戦の如く前進をさせる。

 当然多くの兵は矢によって討ち果たされていくが、一考に介していないようだった。


「いいねいいね。ガンガンぶつかっていこう! 張り切っていけいけぃ!」

「細作の報によれば、敵将は審栄という者だそうですぞ。どうも箸にも棒にもかからない愚物だそうで」

「それは幸運だYO YO! 全軍、アゲてこうぜぃ!」

「……突撃を継続。作戦を続行させよ」


 時折騎兵の引く丸太が城門前に到達し、僅かな衝撃を与える。

 だが通常の二倍もの厚さを誇る鄴の門は、木の葉に当たったがごとく悠然としてゆるぎない。


「第二波、かかれ!」

「はっ!」


 数少ない弓騎兵が出撃し、攻守双方で遠距離での応戦が始まる。

 しかし重力に逆らうことはできず、多くの騎兵が屍を晒す結果となった。

 一撃離脱を旨とする部隊であっても、面制圧されてしまうとその数を磨り潰されることになるのは必定だった。


「徐将軍……これでよろしいのですな?」

「路昭ちんは頭かったいねー。おーおー、すっげえなあの大弓。地面抉れてるじゃん」

「第三波、出撃させます」

「おっしゃ、じゃんじゃんバリバリいってみようか!」



――再び、賈逵


 おかしい、と賈逵は冷たい汗を流していた。

 仮面の下では頬が引きつっている。


「衝弩を放て! 敵騎兵の隊列に風穴を開けてやれ!」

「はっ! よし、装填完了。放てッ!」


 一直線に徐晃軍に向かって、丸太のような杭が飛ぶ。

 着弾の衝撃で多くの敵兵を巻き込むことができてはいるのだが、進軍の速度に翳りがない。


「なんだ……何を狙っている。落ち着け、私。逆に自分だったらこの鄴都をどう攻める?」


 ぶつぶつと試行錯誤しつつも、迎撃の手は緩めない。

 順調に撃破できてはいるものの、味方の損害も馬鹿にはならないでいた。


「南門、第二、第三、第六部隊、全滅! 予備兵力の抽出を許可願います!」

「許可する。急ぎ立て直すのだ」


「西門に投石攻撃多数! 至急援軍を!」

「北門の部隊を回すのだ。城門付近にある可燃物は撤去せよ!」


 偽撃……か?

 正面に大掛かりな攻撃を仕掛けておいて、側面を突く。

 単純な手段ではあるが、兵力差で対応しきれない分油断は即致命傷となりうる。

 

「逐一後手に回っている。真意を見抜かなければ全滅もありうるかもしれんか」


 次は東門に来るのか。それとも北か。

 いずれにせよ賈逵に残されている手段は唯一つ。徐晃の策を見抜くことだった。

 

「東門に敵襲! 歩兵による登城梯子が迫っています!」

「数は如何ほどだ? 現有戦力で対応できるのであれば、防備に徹せよ」

「ははっ!」


 これも偽撃だ。

 賈逵は生まれ持っている能力が一つある。それは相手の熱意を推し量れるというものだった。

 西も東も然るべき『熱』を感じない。

 

 南門……一見して騎兵が愚直に押し寄せてきているだけではあるが、ここが一番危険な『熱』を帯びている。


 堅牢な城壁と城門。攻城兵器の数が不十分であるとき、どのように攻めるか。

 どうする……自分ならばどうする……。賈逵は思考を続ける。

 城門前は敵兵と馬の死骸で埋まり、血は川となりつつある。


「まさか死体を山積みにして、それを階段とするわけではあるまいな……いや、一笑に付すにはあまりに異常な事態にすぎる」


 このまま亀のように固まっていれば、援軍が間に合うかもしれない。

 わずかな期待。かすかな希望。一縷の望み。

 然り。

 自分であれば、安心という名の隙を突くだろうと賈逵は思い至った。


「守備の穴を見つけるのは容易ではないとは思うが……ん、待て……穴、そうか、穴か!!」


 指揮台からでは見えないが、恐らくは騎兵に『工兵』が同乗していたに違いない。

 その思考が一番『熱量』を感じる。


「衝弩の角度を調整せよ! 予め敷設された線路に従い、俯角を取れ!」

「はっ、急がせます!」

「敵は城壁の下を掘って侵攻してくる腹積もりだ。矢玉を『散弾』に換装し、狙いをつけずあらん限り討ち続けるのだ!」


 袁煕が考案した(強力編集で得た)、固定砲台(バリスタ)

 弾種は二つある。

 一つは質量で敵を圧し潰す、通常弾頭の一本杭。

 そして空中で幾重にも分裂する散弾だ。


 各固定砲台には現代で言うところのレールが敷いてあり、仰角・俯角の調整から射程距離の変更まで自在にできるよう設計されていた。


「目標、敵工兵部隊。死骸ごと打ちぬき、磔刑に処せ!」

「はっ! 散弾衝弩、斉射!」


 城壁から九十度真下に向いた固定砲台より、無数の矢が驟雨の如く降り注ぐ。 

 はたして、賈逵の予見は的を射ていた。


 屍の中に隠れて移動していた工兵たちは悉く地面に縫い付けられ、洞穴作戦の中止を余儀なくされる事態に陥ったのである。


「この賈逵の目が黒いうちは、いかなる策をも封じてみせよう。さあ徐公明よ、かかって参れ!!」

お読みいただきありがとうございました!

面白いと思われましたら、★やブクマで応援いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ