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袁煕立志伝withパワーアップセット おい、起きたら妻がNTRされる雑魚武将になってたんだが。いいだろう、やりたい放題やってやる!  作者: 織笠トリノ
199年 秋 邯鄲奪還戦 

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第百三十八話 ブチ切れの袁煕、そして飛将軍モードの呂玲綺

――龐統


 寡兵なれど強兵。故に突破は容易。

 弱兵にして下策。故に瓦解は必定。


 龐統が分析した通りであれば、彼我の戦力差は大なり。

 中途半端な斜陣で流動させるなど、赤子の手をひねるが如く破砕できるはずであった。そのはずだった。


「参ったねぇ……俺の行動が全て裏目に出てるんじゃ、勝負にならんわなぁ」

「シゲン、どうすル?」

「どうもこうもねえよ。一点突破できなければ、鄴には行けん。さりとて今頃は邯鄲に袁顕奕率いる精鋭部隊がとりついていることだろうさ。つまりは投了だ」


 指揮棒を投げ捨て、龐統は戦局の締めに入る。


「でっかい白旗でも掲揚するかねぇ。この汚ねぇ首一つで許してもらえると嬉しいんだが」

「オイ、諦めル……ノカ」

「これ以上犠牲を出すわけにはいかんさ。人生諦めが肝心ってね」


 今は既に亡き張燕の牙門旗が降ろされ、大きな降伏旗が上がる。

 龐統の懸念通り、既に邯鄲は袁煕によって再占領されていた。更に言えば追撃のための騎兵が後背より迫りつつある。


 呂姫率いる漆黒の部隊は、賊徒の零細な防備など木っ端微塵に粉砕し、進撃している。その勢いまさに波濤を越えるが如し。


「シゲン、お前はニガスぞ」

「ウム、獏族アツマレ」


 おいおい、と抗議しようとした龐統だが、猿轡を噛まされてしまう。

 一見すると拉致にも見えるのだが、戎狄は要人を逃がすためにはどのような手段でも執るのであった。


「シゲン、一族ガ世話にナッタ。お前ダケはスクウ」

「ナジャ、ビンレイ。シゲンを頼むゾ」


 一組の男女——まだ十代前半の戎狄兵が龐統を馬に乗せ、そのまま走っていく。

 一人は馬を巧みに操り、もう一人は短弓で周囲を警戒している。

 

「コレデいイ。後はワレラの首を差し出せバ……」

「ウム……」


 各部族は既に散り散りとなっており、全面的な潰走と言えるだろう。

 この盤面をひっくり返すだけの能力は、中華大陸にそう数はいるまい。

 その一人が先ほど馬で逃がされたのだが。



――袁煕


 龐統ッチよぅ……アンタ随分クソ舐めたことしてくれたのぅ。

 俺の表情筋が殺意の波動に目覚めてるね。マジで。


 尚ちゃんが心根を入れ替えて(強制的に改造されて)統治に当たり、心血注いで作り上げた優美な都が、今やラクーンシティだよ。

 

「殿……この落とし前は必ずつけさせるッピ。追撃のご命令を!」

「不許可だ。既に呂姫が向かっており、続いて趙雲・張遼も参戦しているんだ。必ず首根っこ捕まえて引きずってきてくれる」

「は……では『全力復興』だッピ」

「その通りだ。張将軍の部隊を貸してほしい。救える命はいくらあってもバチは当たらんだろうしな!」


 焼かれた家々。路上に倒れる親子の亡骸。虚ろな目の少女。

 突き刺された犬の頭。打ち捨てられた墓石。足りぬ食料。


 賊徒の恐ろしさを目の当たりにしてきたはずだ。

 もっと俺は急げたはずだ。是が非でもあの時、龐統を捕まえておくべきだった。


 後悔は先に立たないし、後には残骸だけしか残らない。


「ホンマ、やってくれはりますのぅ。俺、この世界に来てから丸くなったと思ってたけどさ……色々あったしさ……」


 だけどコイツはやりやがった。

 無辜の市民を襲いやがった。犯しやがった。掠めやがった。

 

「水鏡門下ってのに期待してたんだよなぁ……ちょっぴりはさ。清流派だっていうから、党錮の禁で生き延びたからってさ」


「伝令!」

「聞こう」

「ハッ。袁顕甫様の戦局でございますが……」


 こめかみに青筋がブルシット・浮き出ていく。

 これで尚ちゃんに大事でも起きていれば、俺は理性を保てる自信が無い。


「戦局、おおいに優勢! 繰り返します。大いに優勢!!」

「マジか! ぃよおおおっし。ヨシ、ヨシ!」


 顔面に充填されていた血糖が霧散していき、血圧がモリモリ下がってくる。

 しかし、どうやったら龐統相手に優勢になれるんだ? まさか誤報か?


「その情報の精度を知りたい。印字は誰のものか」

「逢元図様のものでございますれば、これ以上の精度は存在しないかと……」

「そ、そうだよな」


 どんな兵法使ったのかわかりゃしないが、とにかく袁家に風が吹いているのだろう。ならば俺は俺の出来ることをするのみだ。


「あいわかった。尚ちゃんに伝えてくれ。お兄ちゃんが邯鄲の輝きを取り戻してあげるから、安心して戻って来なさいと」

「ははは、顕奕様らしいですな――しかとお伝え申し上げまする」


 俺は陸兄弟を呼び、邯鄲復興の補佐役として任命した。

 戦場の帷幕にて策を練るタイプの二人であり、生粋の放火魔だ。しかし物事は攻めるだけでは成立しない。

 きちんと政務を行い、自らが行った策の結果がどのように反映されるのかを学んでもらわなくてはいけないだろう。


「将来の軍師として、君に背かず、民を虐げず、国を富ませるべく復興に全力を尽くさせていただきます」

「兄上と共に微力を尽くします。亡き陸駿もそのように望んでいることでしょう」


 ここまでは、まあ飲みこもう。

 壊されたのであれば、また一から積み上げていくのさ。

 

 もっとも、俺が放った追手は、手加減の文字を知らんのだがね。



――趙雲・張遼


「呂姫の通過した後は非常にわかりやすいですね。まるで旋風が通過したかの如くです」

「姫様は怒り心頭でいらっしゃった。ああなってしまったのであれば、亡き奉先殿しか御止めできん」


 中華に武威を轟かす二将は、ミンチ同然に吹き飛ばされた敵兵の残骸を見て、些かならずも肝を冷やしていた。


 呂玲綺は見目麗しく嫋やか。細腕は箸より重い物など持てぬようにも思える。

 そう、一見、だ。


「拙者は以前、奉先殿と姫様が稽古をされていた場面を見たことがある。あれは実に……」

「……気になる物言いですね。してその組み打ちは文遠殿のお眼鏡には敵ったのですか?」


 張遼はふっと顔を曇らせる。


「まるで子猫をあやしているような、一方的な稽古であった。そこまでは拙者たちもわかっていた。天下の奉先殿に勝てる者などおりはせんのだから」

「さもありなん。では武においては先鋒を任せるには厳しいものがあると?」

「――否」


 生唾を飲み込む音は、趙雲自身のものか。それとも周りの兵士のものか。

 周囲の温度が下がってきたようにも感じられる。


「姫様が使っておられた武器や鎧を片付けようとした従者が、腰をやってしまってな。何事かと思って確認したのだ」


 曰く、呂玲綺の使用していたものは全て通常の十倍の重さを誇っていたそうだ。

 飛将軍相手に、命取りともなる枷を付け、それでも稽古をこなしていたという。


「……失礼ながら、呂玲綺殿とお父上・呂布殿はどちらがお強いのか」

「奉先殿の武は高みに至っている。それは人類が到達できる最高峰とも言えよう。ただし、現時点での、だ」

「呂玲綺殿は更なる高みを目指されている……と」

「今はまだ拙者やお主の方が強い。それは確実である。しかし合戦を経験するたびに、姫様は一段上に必ず昇ってこられるのだ」


 いずれ手の付けられない怪物になるやもしれん。

 不敬にもほどがあるが、と前置きしながらも、張遼の眼差しは真剣そのものであった。



――呂玲綺


「――潰せ。一切合切の容赦なく、目にしたものは全て潰すがよい」


「ははぁっ!!」

「おらぁっ、この黒天の呂旗が目に入らねえか、雑魚共!」

「匪賊共が頭が高い! ここは姫様が通られる道だぞ!」


 速度と威力。そして士気と練度。

 全てにおいて中華三指に入るであろう、呂布の旗本たちの進撃だ。

 守るべき姫がここにいて、忠に応えてくれる主君が後ろにおり、民を虐げたカス共が目の前にいる。


 ならば命を摘み取るに何の障害もありうるはずがない。


「姫! こちらをお通り下さいませ! 文字通り屍で舗装いたしましたぞ!」

「うむ。大儀である」

「ははぁっ!!」


「駆けよ! 駆けよ! 駆けよ! 呂旗の前に立ちふさがる害虫なぞ、鎧袖一触で蹴散らしてくれん! 我が殿――最愛の夫がそれを望んでおる!!」

「うおおおおおおっ!!」

「殺せ! ブチ殺せっ!!」

「遅いぞ賊めが! 地べたを這いずってくたばれ!」

「殺めた民の仇だ。一等無残に屍を晒せ!」


 袁煕より出撃命令が出たとき、呂玲綺は夫の心痛を斜め上に理解した。

 今まで見せたことの無い悲痛な顔と、怒りに燃えた瞳。それらを浄化できるのは自分だと、謎の使命感に包まれてしまったのだ。


「姫様、張燕本隊のケツが見えました。ご命令を!」

「姫様!」

「命じてください!!」


 鷹揚に首肯する呂玲綺の頤が、敵に残酷な運命を決定づけた。


「皆殺しだ。一人も生かして帰すな!!」

お読みいただきありがとうございました!

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