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袁煕立志伝withパワーアップセット おい、起きたら妻がNTRされる雑魚武将になってたんだが。いいだろう、やりたい放題やってやる!  作者: 織笠トリノ
199年 秋 邯鄲奪還戦 

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第百三十話 あのツラに鉄拳入れたら気持ち良いでしょうね。

―—司馬孚


 敵軍の流れが……変わったのですか?

 先ほどまで頑強とは言えずとも、相応に抵抗していた賊軍の圧が弱くなったような気がします。

 これは重畳。一点突破を図るならば今ですね。


「全軍、隊伍を崩さずに陣形を維持してください! 一気に食い破ります!」

「各員、司馬孚様を守れ! 郭軍師の元まで死んでも走り抜けるんだ!」


 気炎や良し、ですね。

 まずは少数の騎兵を一当てし―—


「恐れてはいけません! 突撃後に左右へ展開。崖際すれすれを進んでください!」

「心得ましたぞ。では、御免ッ!」

「ご武運を」


 如何に多数とはいえ、指揮官不在の賊徒の群れです。統率のとれた袁家精鋭の『個の武力』が勝つと見ました。


「おい、押すな! もう騎兵が来てんだよ!」

「うるせえ、早く盾兵を出しやがれってんだ」

「馬鹿野郎! 今弓を撃ったのは誰だ!」


 兵科ごとに戦列を組み、敵の陣形に合わせて流動的に入れ替える。

 それすらままならぬのであれば、寡兵と言えど突破は叶うはずです。


「うおおおおおおっ! いけええええっ!」

「ぐああっ!?」

「ぐは……ひぎっ」


 このまま蹂躙したい気持ちに駆られますが、ここは自重ですね。

 自軍を逃がすことに専心しましょう。


「今です、歩兵部隊は二分された敵陣中央へ! 血路を開いて脱出します」

「承知!」


 では私も参りましょうか。

 司馬の面子に賭けてでも、この地獄を打開してみましょう。


「司馬淑達見参! 既に貴様らは私の策略にかかった! 全滅するまでその場にとどまっておるがよい!」


 賊徒に動揺が走っていますね。考えさせない、落ち着かせない、誘導する。

 現場で編み出した兵法ですが、さて結果はいかがになるや。


『策略に嵌った、お前たちはお終いだ。動かなければ死なない』


 私はかねてより部隊長に授けていた言葉を、率先して張り上げました。


「な……おい、ここはヤベエんじゃねえか? 前に居る味方と合流したほうが……」

「そうだな、折角助かったってのにここで戦う必要もないよな」

「こいつら逃がしちまえば死なずに済むんじゃね? 固まって動かなければ……」


 結果や良し、良し、良し!

 敵は亀のように防御に腐心し、こちらを見逃す算段のようです。

 これならば……!


「司馬孚様、先が開けました! 突破成功です!」

「わかりました。油断なく走り抜けてください。一兵でも多く助けるのです」

「貴方が指揮官で……本当に良かった。誇りに思いますぞ」

「生き残ったら素直に喜ばせてもらいますよ! いざ、行きます!」


 ぬ……けたっ!

 後方は? 良し、良し、良し。

 恐れず、遅れず、怠らず。一意専心に脱出を心がけていますね。

 本当に、良し。


「あれは……ぐ、軍師殿っ!?」


 忘れてました。

 腐敗の権化であり、盛者必衰の根源。郭図公則めの存在を。


「あれは誰でしょうか。司馬孚様、何やら男三人で談笑しているようですが」

「この大事に、何を愚かな……」


 見れば袁顕奕様が発明なされたという、竹筒の水入れをあおっている。

 頬の染まりようからして、あれは酒でしょうね。


「なんなんでしょうね。この胸を走る雷のような吐き気は。頭を支配する黒い気持ちは。きっと知ってはいけないことなのでしょうね」

「司馬孚様、剣をお仕舞い下され。軍師殿は敵ではありませんぞ」

「……私としたことが。初めての実戦指揮で心が昂っていたようです。ふふふ、お忘れください。ふふふふふふ」


 あのド腐れ、本当にどうしてくれましょうかねぇ……。


―—郭図


 うむ。この男は素晴らしい。

 奔慈なる賊徒は、きっと歴史に残るほどの金銭を臣に与えてくれるじゃろう。

 特殊な商売方法について飲み込む様、まさに真綿に水なり。


 しっかしやかましいのぅ。

 崖下の隘路を見やれば、何とも小汚い土煙が舞っておる。

 臣目の戻るべきところではないですなぁ。儒者たるもの身は綺麗にしておかねば。


「公則先生、ではこの手の買い占めは人口が多ければ多いほどいいのですね!」

「うむ。元手となる養分——もとい、顧客は大事にせねばならんからな。だが数は力じゃ。故に其方には陳留や洛陽を勧めるぞい」

「ははーっ、先生の教えに感服の至り。目から鱗が落ちるとはまさにこのこと……」


 ひょーっひょっひょ!

 わーっはっは!


 などと知能が低い哄笑をするのも今だけよ。

 臣めは自らの命だけは意地でも守り抜きまするぞ。


「やいやい、てめぇら! さっきから大声でやかましいんだよ!」

「ひょっ?」

「ん、な、誰だおめぇは! うお……でけえ……熊かよ?」


 雷鳴のような低い大声に、波打つ髭。

 何よりも手に持つ武器に、臣は見覚えがあった。


「ちょ、ちょちょ張飛……殿か。う、うむ。久しいな、息災であったか?」

「あん? え、おめぇは……剣聖殿じゃねえですか!! なんでこんなしょぼくれた道で談笑してるんですかい」

「や、臣も本意では……コホン……。道に寄りては諸人と語り、土地にまつわる様々な知恵を得る。袁家の御為であればこの身はどんな過酷な場所にも赴く所存なり」


 ほへー、と感嘆の声を漏らしおる。

 それに剣聖じゃと? 何の話をしているのかわからんが、誤解している今が機よ。


「ここで会うたのも何かの縁じゃ。張翼徳殿、だったかの。お主、臣と共に来ぬか」

「うーん、そうしてぇんだがよ。袁家のボンボンに応援に行くって言っちまったからなぁ……ぐぬぬ、どうすっかなぁ」

「ほう、それならば益々幸運であるぞよ。臣らも殿と合流すべく軍を率いておるのじゃ。お主が居てくれればより多くの武勲が望めようぞ」


 臣は必死に説得した。

 この酔虎を丸め込まなくては、この先おちおち高いびきも出来んからの。


「んで剣聖殿、率いてる軍ってのはアレかよ? 随分ぼろっぼろになってるな」

「うむ。敵に待ち伏せを受けての。なに、軽く蹴散らしてやったわい」

「流石だなぁ……んでそっちのガラ悪い小僧は土地のモンと」

「う、うむ。戦になる故、そろそろ離れよと話していたところじゃ」


 臣は肘で奔慈の脇腹を突き、頷くように圧をかけるぞい。

 ここで露見してしまえば、将来の金が得られぬというもの。それは悔しいからのう。


「そうかそうか! んじゃもう安心だぜ! この翼徳様が来てやったんだからな、ドコの賊が相手でもぶっ飛ばしてやらぁ!

「頼もしいのぅ。ひょーっひょっひょっひょ」

「あは、あはははは……(逃げたい)」



―—司馬孚

 

 溢れ出そうになる殺意を必死に押さえます。

 目の前に居るのは、確か……劉備三兄弟の末弟、張翼徳ですか。

 ここで軍師殿を暗殺するのは不可能ですね。大人しく殿のもとに合流し、悪事を奏上するのが賢いでしょう。


 その命、しばらく預けておきますよ。


―—太史慈


「東來の太史子義、見参! いざ、某と勝負せよ!」


 うむ? 

 気づけば賊徒は某を無視して撤退していく。

 

「なあ、おい。太史子義なんだが……」

「今忙しいから、また今度な。逃げろ逃げろ!」


 むう。


「太史子義と申すのだが、一騎打ちなど……」

「うるせえな、明日にしろ明日に!」


 ぐう。


 誰も……いなくなった?

 これは勝利と言えるのだろうか。

 主将たる郭の旗も無し。某は一体どうすれば。


「――帰るか」


 某は負傷兵を助けつつ、間道を引き返すしかなかった。

 しかし、こう……なんと申すべきか。


「さみしい」


 某の頬を強く風が撫でていった。


お読みいただきありがとうございました!

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