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 モードウェンが王宮に来てから、まだ半月ほどしか経っていない。

 とは言うものの、当初の予定では、半月どころか十日ほどで帰るつもりだった。ゼランド家と親交のある貴族に最低限の挨拶をして、国王陛下主催の舞踏会でお披露目をして、その翌日には帰路につく予定だったのだ。

 それなのに、国王陛下は――公には伏せられているが――毒で倒れて療養中、お披露目が流れたばかりか、その舞踏会で厄介事を背負いこんできてしまった。幽霊からの警告をなんとか第二王子に伝えたはいいものの、なしくずしに第二王子の手駒として動くことになってしまい、先が見えない。

 国王陛下の快復については、祈るしかない。幸い命に別状はないということだし、快復すればお披露目の機会が設けられるだろう。それはいい。モードウェンにできることはない。

 陛下の快復を待つ間、どちらにしろ王宮に滞在するしかないのだから、カイウスに協力して動くことも……

(……いい、はず。だってキースに託されたんだもの。第二王子殿下に危機が迫っているから伝えてほしい、って。ちゃんと伝えたし、伝えておしまいというわけにはいかなかったのも仕方ないし、このまま彼に何かあったら寝覚めが悪いのも確かなんだし……)

 それなのに、そのキースの父が国王陛下毒殺未遂の犯人の一人と目されているという。父子が第二王子の陣営の者であることの意味合いが意味深なものになってきてしまう。

 考えたくないことだが、カイウスが何らかの理由で国王陛下を排除しようとして動いた、という可能性さえあるのだ。

 そんな状況のなかで、カイウスの側に立っていいのか。彼は信用できるのか。

(彼は、私を信用すると言っていた。彼を裏切る意志も能力もないからだと……)

 思い出したが、同時に腹立ちも思い出した。

(人柄や行動が信用できるとか、そういうふわっとした理由でないことは……当然というか、そう考えるべきなのだろうとは思うけど……)

 一にも二にも、言い方の問題だ。どうしてああも、人を怒らせる言い方ができるのか。いや、包み隠してそれこそふわっとした言い方で誤魔化すよりも良心的なのだろうか。

(……。分からないけど、分からなくていい気がする。性格が悪いだけだと思っておこう……)

 そう結論付けて、モードウェンははたと思いついた。

 カイウスがこちらを品定めするなら、こちらからも同じことをやり返せばいい。彼とともに行動する中で、彼を見定めるのだ。果たして彼が潔白なのか。信用に値するのか。

 もしかするとこれは、本来のお披露目に近いものかもしれない。国王陛下の前で貴族が忠誠を誓うというのは、必ずしも一方的な臣従の誓いではなくて、仕えるに値する主君であると認める行為でもあったのだ。

(私からも、彼を見定める。信用できるかどうか。状況に流されるばかりではなくて)

 そう決めると心が楽になった。そう、まだ何も悲観することはない。犯罪の片棒を担がされたわけでなし。

 そう思って気持ちを奮い立たせていたモードウェンの耳に、ベルの音が届いた。

 入室を許可すると、ぞろぞろと使用人が入ってきた。何やら嵩張る荷物を運び入れている。女性の使用人ばかりで、あまり重い荷物ではなさそうだ。しかしなぜ女性ばかりなのか……

「……もしかしてそれ、ドレスとか装飾品とかじゃない?」

「仰る通りでございます。すべてカイウス殿下からの贈り物です。こちらのお部屋で広げてご覧に入れましょうか。それとも、奥のお部屋のラックにお掛けいたしましょうか」

 モードウェンの顔が引きつった。

(今更だけど……いろいろ受け取った時点でもはや共犯というか何というか……)

 受け取ったものは王宮を出るときにすべて返すつもりだが、とうぜん価値は落ちるだろう。カイウスから差額を請求されることは心配していないが、そもそも円満に王宮を出ることができるのだろうか。

 リーザの心配を思い出す。第二王子と噂になったり行動を共にしたりした人は多かったが、そのほとんどが王宮を去ったという話を。

(もしかしてその人たちは、彼と行動を共にしたりする中で、弱みを握られたり、下手すると罪を着せられたりした、とかは……考えすぎ?)

 モードウェンは周りを見回した。当然ながら周りはカイウスの遣わした使用人ばかりで、ここにはナフィもリーザもいない。いたとしてもどこまで証言能力があるか分からないし、ここは慎重にならなければ。

「手数をかけて申し訳ないのだけど、いったん持って帰ってもらえる? 身に覚えのないものを受け取るわけにはいかないの」

「贈り物ですので、そういうものかと……」

「一体何を危惧しているんだ?」

「まかり間違って王族がたの宝飾品などが紛れ込んでいたりして、窃盗の罪に問われるのは避けたいと思って」

「想像力が豊かだな」

「ぎゃあっ!?」

 ついつい普通に受け答えしてしまい、その声が男性のものであることにようやく気づき、モードウェンは思わず悲鳴を上げた。

「想像力が豊かというか、危機意識が高いというか。いいことだと思うが……その悲鳴は何とかした方がいいと思うぞ」

「殿下がいきなりいらっしゃるからです!」

 そこにいたのは案の定カイウスだった。きらびやかな美貌を間近でまともに見てしまい、モードウェンは急いで顔を背けた。彼が笑う気配がする。

「荷物はすべて運び入れてくれ。ドレスはラックにかけて、デザインが見て分かるようにしておいてくれ」

「かしこまりました」

 当然のようにモードウェンの意向を無視して話が進んでいく。

(……まあ、わざと何かが仕込まれているようなことがなければ、別にいいけどね……)

 まかり間違ってと言葉では言ったが、懸念していたのはもちろん、カイウスに罠を仕掛けられる可能性だった。

「言葉だけでは信用できないので、一筆いただけますか?」

「いいだろう。ドレスやジュエリーなどの贈り物の注文書の写しをあげよう。実物と照らし合わせてみればいい。……ああ、金額の部分は塗りつぶしておいてあげよう」

「痛み入ります……」

 見たら卒倒する自信があるから有難い。

 カイウスからはすでに数着のドレスを受け取っているが、それで全てではないと聞いている。今日届いたもので全部なのか、それともまだあるのか、それも怖くて尋ねられない。

「こんなにたくさん、勿体ないのに……」

「たくさん? それどころか、足りなさすぎる。君がもともと持っていたものは数に入れられないからな」

「…………」

 喪服はともかく、二着くらいはまともなものを用意したつもりだったのだが、ばっさりと斬られた。

「女性にとって、一日で二回や三回の着替えは普通だ。ドレスなんてどれだけあっても足りない。……そこまで嫌そうな顔をしなくてもいいだろうに」

「…………」

 面倒そうだというばかりでなく、その奢侈にめまいがする。ひらひらするばかりで実用性のないものを、とっかえひっかえして財力を誇示するようにする、その王宮の流儀が気に入らない。

 カイウスは楽しそうに言った。

「そんな君に嬉しいお知らせだ。さっそくドレスを着て、私と一緒に、ある人に会ってほしい」

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