96 蜜、吸います?
目の前にはアルラウネの群生地。
すでに嗅ぎ慣れてしまった甘い香りが充満する空間に、頭がふわふわとしてゆくのを感じる。ちょっとまずいと感じ[睨む]と[恐慌]を使うと、ふわふわした感覚が少しだけ薄れてゆく。
妖精ズは『燃やせー!焼き尽くせー!』の大合唱をしている。
そしてうねうねと動き出したアルラウネたちは、僕たちの前に一本の道を作るように左右に移動してゆく。
「こんにちは。冒険者さん」
目の前に出来た道の先には、頭に大きな花をつけ緑の葉のドレスを身に纏う少女が立ち、こちらを見てほほ笑んでいた。
「また喋る魔物?人族ではない、よね?」
「兄ぃ、あの子、アルラウネっていうのは変わってないよ。多分この群れのボス的なのだと思うけど…これって[支配]の影響かな?」
ユリアにそう言われるが、見た目がホントに少女に見えるから戦うのは躊躇する。妖精ズはいい加減黙っていてほしい。
「私は、この群れを任されているアルラウネです。ですが、冒険者さんとは敵対したくありません。どうしたら良いでしょうか?…蜜、吸います?」
そんなことを言って頭を下げる。
これは直接頭から蜜を吸えということか?いや吸わないけどね?
「えっと、とりあえず意思の疎通ができるなら、敵対する必要も無いのかな?」
「それは嬉しいお言葉。で、吸います?」
一旦顔を上げまた頭を下げるそのアルラウネ。
「いや吸わないけど?」
「そうですか…では、何を差し出せば…」
困り顔のアルラウネの少女だが、そう言われても困ってしまう。
「何も要らないよ。でも、僕ら君たちの仲間?って言ったらいいのか分からないけど、結構殺しちゃってるよ?」
「そうでしたか。それが何か問題に?」
「いや、恨みとか?あったりしないですか?」
「なぜ?」
少女は首をかしげながら、手から蔦のような物を伸ばし…周りのアルラウネたちを切り裂いていった。
一瞬のことに驚き、戸惑っていた僕の方へその蔦のようなものが伸びてくる。その網のように変形した蔦の中には、今さっき切り裂いたであろうアルラウネの素材、球根部分と魔石が十数個ほどが入っていた
呆気にとられ思わず受け取ってしまった僕だが、理解ができず対応に困る。
「これらはこの森で次々に湧き出てくる魔物です。私のように自我を持つものでなければ、言わばだたの作り物でしかないんですよ?」
「な、仲間意識とかは?」
「意思の無い物に仲間意識など感じるはずもないでしょう?」
「そう言う、ものなんですね」
僕の返答ににっこり笑みを浮かべるその少女。
さて、どうしたら良いのか。
「じゃあ、兄ぃと協力関係ってことでいいんだよね?」
「兄ぃとは、その冒険者さんのことですか?」
ユリアの問いに蔦のようなもので僕を指差されると、ユリアはうなずき肯定していた。
「そうですね。アルラウネをいくら殺そうが、私に危害が無ければ可能な限り協力しますよ?」
「じゃあ、OKということで…」
こうして、僕とそのアルラウネの少女との和平?といったら良いのか分からないが、何かしらの協力関係ができたようだ。女性陣も少女に近づき握手をしたり、歓談したりと楽しい時間を過ごしたようだ。
僕はアルラウネが作った輪のように空いた安全地帯で、サンドイッチを頬張り時間をつぶした。
◆◇◆◇◆
「じゃあ兄ぃ、この子に名前を付けて下さい」
「何言ってるの?」
少女と何やら話し合った後、ユリアが変なことを言ってきた。
「兄ぃ、名前がないと不便だよ?アルラウネちゃんとかって言うつもり?」
「いや、いいんじゃないそれで」
僕の返答にユリアの大きなため息が聞こえた。
「この子はまだ名前が無いの。だから友好の印に名を送る。その名誉ある権利が兄ぃに与えられました。はいどうそ」
「どうぞって言われても…アルちゃん?」
「却下です」
どうしろと…
「じゃ、じゃあ、グリンで…」
そう言いつつユリアの様子を見ると、何やら考えている。アルラウネの少女は笑顔を崩さずこちらを見ている。
そして、ユリアが少女を見てうなずくいた。
「まあ、良いでしょう」
「なんでユリアが…」
ユリアの言葉に苦言をと思ったが、それは少女、改めグリンに遮られた。
「グリンですね!私は今日からグリン!よろしくね、お兄ちゃん!」
「おに、え?」
さっきまでとは喋り方さえ違うグリンの言葉に、思わず変な声をもらす。ユリアはこちらに親指を立て満面の笑みである。その笑顔を見て色々とどうでも良くなってしまうのは仕方ない事だと思いたい。
それからまた女性陣を交えたグリンとの交流が続く。周りのアルラウネがうねうね動きだし集まって葉っぱの器に蜜を出している。女性陣に配って回り接待をしているようだ。僕も貰ったが甘くておいしい。
妖精ズは…花の部分に直接顔を突っ込んで直飲みしてるようだ。
カロナも意外なほど和やかに話しているようだ。ユリアが以前言っていた女子会という奴かもしれない。いつまで喋っているのか分からないが、ただよう甘い香りに眠気がくる。
暇を持て余した僕は能力板を見てまた戸惑い声をもらした。
――――――
従属 アルラウネ
――――――
その能力板を見て、ユリアも「おお」と声をあげた。クラウも「こんな能力板の情報どこにもありません!」と少し興奮気味だった。
カロナは「アレスちゃんなら当然ですわ!」と腕を組んでのけぞっていた。リーゼとセシリ、サリアもそれにうなずいていた。
しばらく続いた交流も終わり、今日のところは帰ることになった。
グリンは森の層を超え移動できるものの、森を出ることはできないのだと言い、もう数年もここに定住しているのだとか。安全が確保された場所なのでダンジョンワープを登録しておく。
グリンの話では他の種の魔物についても同じような存在がいるとのこと。
それを聞いたユリアが「やはり魔物の王に…」とつぶやいていたが、それは聞かなかったことにしておこう。
そして村へと戻ろうと思ったが、ユリアがバッグから帰還札のような物を出しみんなに配っていた。
「これは改良型の帰還札。森でも使えるよ!」
そう言いながら札を破りさると、迷宮の時と同じように足元から魔方陣が出て光と共に消えて行った。正直これは助かる。後で量産してもらうようお願いしよう。
「じゃあ、僕たちも使おうか。グリン、またね」
そう言って僕たちも帰還札を使う。
「また会いに来てね!お兄ちゃん!」
グリンはこちらに笑顔を向けて手をふっていた。
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アルラウネの女王
頭に大きな花をつけた、緑の葉のドレスを身に纏う少女。人語を話しアルラウネを支配下にして操ることもできる。少女のような見目は擬態ではない。足を根に変化させ土壌を改良、植物を育てるスペシャリスト。
改良型帰還札
森でも使用可能な帰還札。ヘパイトス作で作成時には通常より多くの時間と魔石が使われている。
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