30 それ、私たちにもちょーだい
「申し訳ございません。現在空きがあるのは3人部屋が3つほどのみで…」
ホテルに入り一人部屋と二人部屋に空きがあるか確認すると、カウンターの男性が頭を下げそう返された。やっぱりオークション目的で混雑しているのだろう。仕方ない。三人部屋を2つ押さえておこう。
「じゃあ三人部屋を2つで」
「ありがとうございます。では、金貨10枚となります」
そう言われ、僕は2人の分も払おうと腰の袋から金貨を取り出す。
「待ってください。部屋は1つでいいです。三人部屋、なんですよね?あと、1週間は居るのでまとめて頂けますか?」
「かしこまりました。では6泊で金貨30枚でございます」
クラウが割り込むようにしてそう伝え金貨30枚を置くと、僕に真っ赤に染まった笑顔を見せた。
「ちょ、ちょっと!それはさすがに不味いんじゃない?」
「何が不味いんでしょうか?アレスは、部屋が一緒だと何か不味いことをしてしまうんですか?」
真っ赤なクラウがそう言うので、返事がうまく返せずに戸惑ってしまう。
「しちゃうの?」
同じように真っ赤になったリーゼにそう言われ、「しない、です」とかろうじて返すのが精いっぱいだった。カウンターの男性もとても優しい笑顔になっているのでなお恥ずかしい。
「じゃあ、行きましょう」
そう言われてクラウに手を引かれるが、引かれた右手がとっても温かい。同じように握られた左手もホカホカとしている。そんなアツアツになってしまった3人は、案内の女性に連れられ部屋へと移動する。
途中、魔道昇降機という上下に移動する物に乗り、若干の浮遊感に心奪われる落ち着きを取り戻すが、今更手を離すのも気まずかったのでそのまま手を繋いでいる。それを見る案内のお姉さんの目もまた優しかった。
「こちらです」
部屋のドアを開けたお姉さんの言葉を合図にようやく手を離した2人が窓まで駆けだし、窓からの景色を眺めている。
10階建てというこの宿は、眺めも良いことで有名なのかもしれない。ここは6階だがそれでも王都が見渡せるので良い眺めだ。遅れて窓の景色を眺めた僕はそう思った。
そしてまた冷静になった僕は、部屋の中に大きなベッドが1つしかないことにまたドキドキしてしまった。ベッド3つじゃないの?
そんなベッドに釘付けになっていたが、横を見ると2人も同じようにそれを見て固まっている。
「やっぱり、今から部屋を一つ追加してもらおうよ」
僕のその言葉に2人が何やら相談をしているようだ。
「大丈夫です!こんなのはどうってことはありません!迷宮でも一緒に寝たじゃないですか!」
「そう!一緒に寝た!」
先ほどから赤い顔しか見ていない2人にドキドキが止まらないので、僕は何か変な病気なのでは?と思ってしまう。無駄に[回復]を使ってみると少し気持ち良くなって落ち着くが、その光に2人が笑い出した。
「ちょっとアレス、1人だけ狡いですよ」
「そう、狡いよ。それ、私たちにもちょーだい」
「わ、分かったよ」
僕がそう言って2人に近づくと、クラウがちょっと待ってと言って着ていたローブを脱ぐと、ベッドにダイブするように飛び込み、仰向けになった。それを見てリーゼも軽鎧を外し同じようにベッドに飛び込んだ。
頭が混乱する中、ベッドに近づき2人に向けて2回ずつ[回復]を使うと、気持ちよさそうの2人に、思わずもう1回ずつ[回復]をかける。魔力が多くなったのでこうやって無駄打ちができるのは嬉しい。
「じゃあ、宿も確保したしギルドに戻ってみる?」
僕の問いかけに返答が無い。
2人を見ると何やら冷たい目で僕を見ているが、これはもう一度[回復]をってこと、ではないよね?
「あのおねーさん、リオールさんに会いに行きたいということでしょうか?」
「うぇ?」
「アレスはリオールさんの胸いっぱい見てた!」
「違うよ?」
そしてガバリと起き上がる2人。
「今日はこのまま夕食を食べて寝るってことで良くないですか?明日は1日自由なわけですし!王都の初めての夜なんですよ!」
「そうだよ!王都のはじ、えっ?夜?」
クラウの言葉にリーゼも乗っかろうとしてるけど、途中でまた顔を赤くして目を泳がせている。ここは、流れに任せた方が良さそうだね。
「じゃあ、夕食を食べたら、そのまま寝ようか」
「そう、ですね」
「うん」
今度は2人とも顔をふせ大人しい返事が…なんとか切り抜けられたようだ。
その様子にもしかしたら僕ってやっぱりモテモテ?なんて勘違いをしそうになるが、あくまで2人はパートナーとして、同じパーティとして好感を持っているだけなんだと改めて気を引き締める。
勘違い野郎は羞恥で爆死することになる。
どこかの誰かが言った言葉だ。
…誰だっけ?
その後は無事一階のレストランで予想以上の美味しい食事を堪能し、お土産屋さんを見たり喫茶店を見て明日のお昼はここねと話し合ったりしながら、楽しい気持ちのまま部屋へと戻った。
そしてまた緊張感が復活した中、2人はバスルームへ消えて行った。
僕も2人が入ったであろう湯船でドキドキしながら温まり、ベッドへと入る。
両脇から2人が入ってくると、そのまま僕にくっつくようにして耳元で「おやすみ」とささやかれた。耳にかかる吐息、ただよう石鹸の良い香り、腕に感じる柔らかさ…
「こんなの寝れるわけないじゃないか!」と叫びたい気持ちを必死で抑えた。
そして2人が寝息を立てぐっすりと眠る横で、寝不足の夜が明けた。
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リオール
王都ユルレイヒルの冒険者ギルドの受付のひとり。金髪カールな美人のお姉さん。リーゼロッテより一回り大きなお胸の持ち主。ギルド近くに家を持つ1児の母でもある。旦那様は王城務めの衛兵さん。
季節について
1月~12月まで、各30日の360日のサイクルで一年が繰り返される。4月には10才になっている子供たちに開化の儀を行う。8月が一番汗ばむ程度に熱く、2月が一番寒いが肌寒いという程度。この大陸に雪は降らないが、北の大陸では雪が降る時期があり、観光名所となっている。最北だと年中雪に覆われた山岳地帯があり、独自の生態系を作っている。
今週あった出来事と予定
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月の日・モレノの迷宮IN
火の日・モレノの迷宮踏破
水の日・Free 迷宮で肩慣らし
風の日・王都に向け出発
土の日・王都到着
光の日・Free
聖の日・オークション
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