29 私の部屋は開いてるからー!
金貨を2枚。王都までの乗合馬車で移動する。
4頭引きの大きいな馬車で、座席は20。簡易な屋根がついているが横風が冷たい。もう冬だな。
7割程埋まった座席。
三人並んで座っている。
「結構風が冷たくて体が冷えてしまいますね」
「上掛け出せば?」
僕を挟んで2人がそう話している。
「うーん、アレスに、くっついてれば温まるかな?」
突然クラウがそんなことを言い、僕の腕にしがみつく様にくっついた。確かに触れ合う肌は温かい…気付けばリーゼも同じように僕にくっついている。その顔は真っ赤だ。
「あ、温まってきた、かな?」
「はい。とっても温かいです」
「温かいよ」
僕は温かいを通り越して熱いかな?特に顔あたりが…
「もう年末ですからね。オークションが終われば新年です。その時は3人で年越しを祝いましょう」
顔を上げ耳まで赤くなったクラウがそう話す。
「3人で…夜を明かす?」
リーゼも負けず劣らず真っ赤だ。
「なあ、こんなところでおっぱじめられても困るんだが…」
後ろから聞こえた同乗しているおじさんの言葉に2人はぴょこりと僕から離れた。
「す、すみません…」
取りあえずそのおじさんの方を向き謝っておいたが、こちらに注目していたのはもちろんおじさんばかりではなく、多数の視線にもう一度謝り頭を下げた。
「その、すみませんでした」
「ごめんね」
2人が小声で謝ってきたが、2人の肌が心地よかったので「いや、ごちそうさまでした」と言ってしまい、2人がまた真っ赤になって俯いてしまった。
それからお昼には馬車も止まり各々が持参したであろう昼食を食べまた出発する。夜には王都の関所を越え、少し進んだところの安全な休憩エリアで一泊した。
購入しておいた小さなテントで3人並んで寝ることになったが、当然ではあるが新たなイベントは起きなかった。
すでに迷宮でも何度か一緒に夜を明かしたこともある。感覚的にはそれと一緒に感じて…ということは無く、さすがにその時以上にドキドキしてしまった。2人から漂ってくる香りにクラクラしてしまった。
そんな夜も開け、馬車は出発する。
昼過ぎには中心街に到着するので、宿を借り明後日のオークションに備えたい。できれば明日は初めての王都見物を楽しめたらと思っている。
「到着でーす」
御者さんの言葉に各々が伸びをしながら馬車を降りてゆく。
僕もお礼を言いながら降りると、改めて目の前の街並みを眺める。
クールビレの中心地どころかウイクエンドと比べても何倍も煌びやかに見えるその街並み。この街で、新たな冒険を想像してワクワクしてきた。
「アレス、行こう?」
「あ、うん!」
リーゼに手を引かれ歩き出す。
そして慌ててその手を離す。
「リーゼ?僕、子供じゃないよ?」
「でも人がいっぱいだよ?はぐれたら困る」
「そうですよ?手を、これは大事なことです」
そう言って今度はクラウの方も手をつないでくる。周りからはくすくすと笑い声が…同い年なのに弟にでも見られているのかな?確かに2人より少し小さいけど…
「し、仕方ないな。じゃあ行こう。まずは冒険者ギルドを探して、他の場所はギルドで確認するのが良いんじゃないかな!」
ちょっと大人っぽく言ってみる。
「うん!」
「行きましょう」
そんな2人と一緒に人の多い通りを進んで行くと、いかにも冒険者という装備に身を包んだ人たちが徐々に多くなる。そして見慣れた盾に剣を添えた冒険者ギルドの看板に、少しほっとする。
冒険者ギルドさえ見つけておけば、宿屋を含め各種お店の情報には困ることは無いだろう。それに早く顔を覚えてもらうに越したことは無い。
足取り軽くギルドへと入ってゆく。
クールビレのギルドの何倍も広いエントランスに「凄いね。想像の倍は大きいよ」と声を漏らすが、2人もそれを同意するようにうなずいている。
受付であろうカウンターにはパラパラと列ができていたりいなかったり…
丁度空いていた一番左端のお姉さんと目が合うと、こちらに手を振ってから手招きをしているので、何だろうと思いながらも歩いてゆく。両端の2人も手を離さずについてくるけど、恥ずかしいしギルド内なのでもう良いのではと思う。
「こんにちは僕ちゃんたち。冒険者登録かな?」
「あっ、違うくて…」
そう言いながら、金髪カールな美人のお姉さんに冒険者カードを取り出し見せる。
「あら、ごめんなさいね。もうブロンズ級の冒険者さんなんですね。可愛い顔して…すごいのね」
「いえ、まだ駆け出しですから」
僕の返事にふふふと笑うお姉さんにそれだけで揺れるお胸に、少し頬を緩ませると両腕をつままれる。やきもち、かな?なんちゃって。そんなことを考えてまた頬が緩む。
「クールビレから出てきたばかりで、取りあえず宿を確保して迷宮なんかに潜る予定です」
「そうなのね。私はリオール。よろしくね、未来の英雄さん」
「アレスです。よろしくお願いいたします」
王都でも早速良い出会いがあったことを喜びつつ、リオールさんに諸所の場所の確認をする。2人も自己紹介しつつ話を聞いている。
「そう言えば、明後日のお昼ごろ、この先の大講堂でオークションもやるのよ。だから宿は混雑してるから、早めに確保した方が良いかもね」
「そうなんですか!じゃあ早く宿を確保しとかなきゃ…じゃあ、宿を確保したらまた来ます!」
そう言ってギルドを出て教えられた宿へと向かう。
背後から「宿が取れなかったら言ってね!私の部屋は開いてるからー!」という声が聞こえてきたが、「絶対に部屋を確保しましょう!」「そうだね!」という2人に引きずられるように移動する。
早足で歩く2人に連れられ、すぐに大きな建物の宿屋『王都中央の宿・ユルレイパレス』にたどり着いた。
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王都中央の宿・ユルレイパレス
王都ユルレイヒルの中心地にある一流宿屋。一人部屋50部屋、二人部屋がダブルとツインが各20部屋、トリプルが10部屋に最上階のスイートが3部屋。一階の庶民的なレストランに、上層の高級レストラン、他にも喫茶コーナーや理美容院にクリーニング、自動魔動機による携帯食販売などなど。充実の癒し空間をお届けします。
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