16 故郷みたいな場所ですから…
仮眠を終えた朝、2人にリーゼに起こされる。
そう言えば僕は初めて2人の女性と一夜を…なんて楽しい妄想を脳内に描きながら毛布を収納する。
朝食を取りながらリーゼにせがまれ能力板を2人に見えるように出すと、真剣な目で確認していた。
魔力もすっかり回復した僕たちは、難なく10階から11階までの間にある休憩ポイントへとたどり着いた。
一応経験者として仕組みを話す。
10階層に休憩ポイントあり今も何組かのパーティが寝泊まりしている。
ここから入口までは強制転移できる。
逆に入り口から中くらいの魔石を消費して1人が移動することになる。この先の魔物程度の魔石が必要なので買取なら金貨3枚程度という事もあり、極力使わないようにしているようだ。
話し合った結果、一度11階層でオーガを10匹ほど狩って魔石を確保して戻ることにした。
オーガは3m近い青い巨人で、布の服に石を切り出したような太い棍棒を持っていたが、クラウが[風牙]でけん制し、リーゼが適度に切り刻み、そして僕が[突く]と[カマイタチ]で止めを刺した。
使って分かったが[突く]は一撃必殺だし、[カマイタチ]はそれより攻撃力は落ちるものの、広範囲に広がるので密集状態ではかなり効果的のようだ。
オーガは1体目と9体目にには『力』の能力玉、4体目には[睨む]という相手を威圧する視線を送るスキル玉が出た。消費魔力が1だったのでかなり使い勝手は良さそうだ。
移動用の魔石を取りに来ただけだったが、新たなスキルにLvも1つ上がり35となり良いことづくめだったので、僕もその結果を聞いた2人も笑顔で出口まで転送された。
3人で少し浮かれながら冒険者ギルドにもどる。
僕と2人が持っている二つの魔法の袋から、それなりの量の素材を出すと受付へ移動する。
「えっ?もう10階層まで行ったんですか?さすがです!」
ローラさんが笑顔で褒めてくれる。
「それで、途中でギルドから購入した情報にもない魔物なんですけど、白い何かだったって事ぐらいで…」
そういって僕はあの白い魔石をカウンターに置いた。
「これって…多分…」
そう言いながら、ローラさんは手の空いていた隣の受付の人、たしかニーナさんだったかな?そのニーナさんに見せると、かなりびっくりした様子を見せていた。
「サーシャ!きて!」
ローラさんがカウンターから少し離れた背後にいた、大体いつも椅子にもたれてうたた寝している女の子を呼んだ。そう言えばこの子はなんの担当なのだろう?
「ローラ、仕事?」
「そうそう。多分白スライムのだと思うんだけど…」
そう言われたサーシャさんと呼ばれた女の子は、差し出された魔石をジロジロ見ると…
「うん。白スライムの魔石」
短くそう言ってまた元の椅子へと戻って行った。ローラさんとニーナさんは驚きの声を上げているし…これはレアなのかな?
「アレスくん達が倒したのは、白スライムって言う小さなスライムなんだけど…どうやって倒したの?」
「どうやってと言われても…」
僕は休憩終わりに偶然潰してしまったことを説明する。
ローラの話では、その白スライムはモレノ迷宮の5~10階層の草原付近で、稀に、見かける魔物だそうだ。見つけてもすぐに逃げてしまうので狩ることもできないとか。
前回この魔石が持ち込まれたのは、4~5年前になるぐらい珍しいことだと驚かれた。さらにこれは聖魔法師の使う杖に使う素材のため、確実にオークション行きだと言う。
「こんな小さな魔石が?」
「そう。こんな小さいので、少なくとも白金貨数十枚にはなるわよ?」
その返答に僕たちは驚きすぎて返事ができなかった。
オークションは王都ユルレイヒルで行うということで、恐らく2~3週間後になるだろうと言われ予定が決まったら教えてくれるらしい。
僕たちも当然オークションを見に行きたいので王都行きを決めた。そしてそれまでに何とかモレノ迷宮を攻略しちゃおうと三人で話し合った。
「それと、迷宮の8階層でなんですけど、擦り付けに合ったんですよ」
「擦り付け?」
「はい。『力の根源』って3人?で良かったんだよね?」
僕はローラさんにそのことを話しつつリーゼにも確認を取る。
「あっ、そうそう。あのもじゃ頭の男のパーティ」
リーゼが頭の両手でモジャ感を表現しつつローラさんにそう伝える。
「ああ、それならそうですね。故意の擦り付けをした話は何度か聞いてますが…」
「すれ違いざまに『すまんなガキども』って言ってたからわざとですよ絶対!」
「分かったわ。ギルマスにも報告しておく。アレスくん達が嘘を言うはずないですからね。そろそろギルマスも出禁にしてくれると思うけど…」
そう言いながらローラさんが何か考えている。
「アレスくん達はモレノ迷宮を攻略したらオークションを見学に王都へ行くのよね?」
「間に合えば、ですが」
「きっと間に合うわよ。一度のアタックで10階層まで行ったんだから」
「そうですか、ね」
ローラさんの言葉に嬉しくなって頬が緩んでしまう。
「でも、そうなったらクールビレには戻ってこないの?」
「あっ…いや、そう言うわけでは無いと思いますが…どうなんだろう?」
想定はしていなかった今後の話を聞かれ、リーゼとクラウを見る。
「私は、迷宮を攻略できればそのまま王都で力を試してみたいですね」
「私も!」
「じゃあ、そうなるかも…」
僕も確かに迷宮を制覇してしまえば次は王都でという思いはある。
「じゃあアレスくん達が居なくなってから、あの3人には出禁になってもらおうかな?
アレスくん達が逆恨みされても困るし、ギルマスもきっと普段の素行ってことで詳しいところまで説明せずに、あの3人を出禁にしてくれるだろうし…時間を置けば心当たりがあり過ぎてきっと分からないわ」
「そういう事ですか。ご配慮ありがとうございます」
逆恨みのことまで考えていなかったことに気づき、ローラさんの配慮にまた嬉しさが込み上げる。
「でも、寂しくなるわね」
「僕も寂しいです。でも、また戻ってきます。ここは、僕の思い出の場所、故郷みたいな場所ですから…」
「私たちも、生まれ育った場所ですし両親もいますからね」
「うん。私もたまには里帰りしないと怒られる」
こうして少ししんみりしつつも、まずは期限内に迷宮を攻略しないことには話にならない。明日から11階層から攻略を急ぐことを決めギルドを出た。
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白スライム
モレノ迷宮の5~10階層の草原付近で稀に見かける魔物。見つけてもすぐに逃げてしまうので中々狩ることもできない。全体的に白みがかったゼリー状で中には白魔石があるので魔石の位置はうっすらとしか見えない。
通常のスライム同様に魔石を叩けば倒せ倒せるが、その白い魔石は聖魔法の効果を高めてくれるため、主に聖魔法師の使う杖に使う素材で、オークションで白金貨数十枚程にはなる。
固有スキルは[回復]。消費魔力は10。素材は魔石のみ。
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