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雪の華  作者: おもち
15/18

15.幹部

 雪……だよな。


 まさか、また会えるとは。

 改めて目の前を確認する。


 涼太の目の前には60代ほどの男性。

 その右隣には雪。

 男性の左隣には30代ほどの若い男性が座っている。

 そして美鈴は、若い男性の隣に腰を下ろした。

 

 動揺を隠しきれない涼太の心情を察したのか、美鈴が口を開いた。

 「では、改めて、佐々木涼太さん。ここにいるのはNMO、北海道魔法事務所の幹部です。右から退魔師代表、冬実雪。本部代表、江藤啓介。魔法学校代表、加藤学。そして処理班の佐藤美鈴です。」


 幹部……、という事はNMOのトップ4ということか。

 雪は自分で自分のことをすごい人だと言っていたが、まさか組織の幹部だったとは……。

 開いた口が塞がらない。

 

 「この度は、こちらの不手際で……。誠に申し訳なかった。」

 江藤と言っただろうか……、彼はそう言って頭を下げた。

 他の3人もそれに続く。


 涼太は慌てて、いえいえ、と手を振った。


 「早速だが、本題に入ろうか。」

 江藤のその言葉に、涼太は姿勢を正す。


 「我々で話し合った結果、涼太さんには2つの選択肢のうち、どちらかを選んでもらおうという結論に至った。」


 2つ。

 どうしよう。

 死ぬかマグロ漁船に乗せられるかどっちがいい、などと言われたら……。


 死の宣告を待つ罪人のような面持ちで涼太は次の言葉を待った。


 「1つ目の選択肢は、ここにいる雪に、魔法に関する記憶を消されて人間界に戻ること。彼女は相手に触れずに忘却魔法を使うことができるから、君の記憶を消すことも容易いだろう。そしてもう1つの選択肢は、記憶を消さずに我々の魔法学校で魔法を学ぶこと。しかし後者の場合は、人間界での生活は諦めてもらわなければいけない。」


 良かった。

 とりあえず命は奪われずに済みそうだ。

 そして、俺の望んだ魔法を使える状況になった。


 答えは、決まった。

 口を開きかけた涼太が声を発する間もなく、加藤と呼ばれていた男性がただし、と続けた。


 「魔法学校に入学したからと言って、魔法が使えるようになるとは限りません。そもそもあなたが人間である以上、使えるとしても簡単な魔法だけであると考えられます。ただ、忘却魔法を防ぐことができた人間は、今までいませんでした。そのため、もしかしたら、強力な魔法が使えるようになるかもしれない……というわけです。魔法学校の審査基準や卒業までの流れはこちらの紙に記載されてある通りです。」

 

 そう言って加藤は冊子のようなものを手渡した。


 表紙には魔法学校の文字。


 ページを開いて読み進める。

 新入生の募集は毎年行っており、募集人数は200人。

 3年かけて、魔法を学ぶ。

 毎年行われる選抜試験に合格しなければ進級できない。

 選抜試験に落ちた場合は即退学。

 なるほど、かなり厳しい。


 「入学時は200人いる同級生も、卒業時には50人ほどに減ってしまいます。そして、魔法学校を運よく卒業できたとしても、事務所に入るためには、退魔試験をパスしなければなりません。そのため、50人のうち事務所に入れるのはたったの10人程度です。」


 涼太はその言葉に絶句した。

 雪から多少聞いてはいたが、まさかここまで厳しいとは……。


 確かに今大学生である俺は、人間界で順当に生活していけば、企業に就職して平和に生活していくことができる。

 

 でも……。

 そんな平々凡々な生活に嫌気がさしたから、魔法界という世界にあこがれを抱いたんだ。

 

 たとえ道が険しかったとしても、それだけで諦める理由にはならない。


 すると、ちょっと付け加えると、と江藤が口を開いた。


 「魔法界で生活するメリットを挙げよう。まず、事務所の職員になるとお給料がたんまり出る。その冊子の次のページをめくってごらん。」


 そう言われて、ページを1枚めくる。

 なるほど。

 魔物には低級、中級、上級、特級の4階級があるらしい。

 退魔師は、低級を1体駆除すると10万円。

 中級1体で50万円。

 上級1体で100万円。

 特級1体で500万円。

 処理班は月50万円にプラスで、処理した魔物一体につき退魔師の2分の1。


 すごい。

 そんな言葉が思わず口をついて出る。

 駆除する魔物の階級にもよるだろうが、かなりの高給取りになれそうだ。


 「そして、もし仮に君が魔法学校を退学することになったとしても、我々に協力すると約束してくれたら、君の魔法界での生活は我々が保証しよう。」


 俺が卒業することはないだろうという事なのだろうか。

 江藤の言葉に涼太は少しムッとした。


 「まぁ、いきなり言われて答えを迫るのは早計だろう。どれくらい期間が……。」


 「いえ、魔法学校に入学したいです。」

 まっすぐに江藤の目を見据えてそう言い放った涼太に、はぁ!?と素っとん狂な声を上げたのは、加藤だった。


 「入学するだぁ?何を言っているんだ。俺の話を聞いていたのか?」

 先ほどの丁寧な口調が崩れ、語気を荒げている。


 「金額に目がくらんだのか?階級が上がるにつれて金額が高くなるのは、それだけ命を落とす危険があるからだ。常に命の危険が伴う仕事なんだよ!」

 

 加藤さん落ち着いてください、と隣に座っている美鈴がなだめている。


 「分かっています。ですが、俺の意思は変わりません。入学させてください。」


 涼太はそう言って、頭を下げた。


 「分かった。二言はないね?」

 わずかな沈黙の後、そう尋ねた加藤に、はい、と大きく頷く。


 「よし。決まりだね。」

 ここに来てから初めて聞いた雪の声に少し安心感を覚える。

 雪の言葉にそのほかの3人がそれぞれ席を立った。

 それじゃあ、と言って自身も席を立った雪に、江藤がちらりと目配せをした。


 「涼太さんは私について来てください。」


 雪に……?

 魔法学校への入学というからには、加藤が担当するのかと思っていた涼太はよそうがいの言葉に耳を疑う。


 それを察したかのように雪が涼太の前へと立つ。

 

 「涼太さんには尋問を受けてもらいます。」

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